【P7】記憶の扉──“その片鱗は汝の中にあった”
あなたは、恐れよりも欲求を選んだ。
短剣をそっと収め、両の掌を装置の窪みに重ねる。ぴたりと合った刹那、
音もなく、世界が反転した。
空間が沈んでいく――いや、沈んでいるのはあなた自身だ。
視界は真っ白に染まり、森の音、空気の重み、全ての感覚が脱落していく。
そして、見えた。
……雪に覆われた石橋。火に焼かれた塔。
誰かが手を差し伸べ、誰かが振り返らずに去っていく。
「境の森」の入り口に立ち尽くす、あの後ろ姿――それは、かつての“あなた自身”。
声がする。
「記憶とは重さだ。持つ者は削がれ、持たぬ者は空ろとなる。ここで得るものは、同時に“現在”を犠牲にしている」
脳裏に流れ込んできたのは断片。だが確かに“過去”だった。
幼いころに見たはずの書物。封印の存在。森の神性。
そして最後に、あなたの中にいた「問い」が呼び起こされる。
――もし選び直せたとして、君は再び同じ道を歩むか?
その瞬間、光が砕けた。
あなたは倒れこむようにして現実に戻る。
だが、石碑の地紋がうっすらと掌に刻まれていた。
あなたの地図が変わっている。“選択の間”への道が刻まれている。
扉は、開いた。
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