【P2】茂みに近づく──“語る者は目を持たない”
あなたは刃の感触を確かめながら、音のした茂みへと慎重に歩を進めた。湿り気を帯びた腐葉土の匂い、つる草を避けながら足を運ぶごとに、森はさらに濃さを
増していく。風はないのに木々の枝葉がわずかに揺れ、森があなたを注視しているように感じた。
茂みの奥には、小さな空間があった。そこには、奇妙な存在がいた。
それは獣のような毛皮をまとった小さな影――けれど、すぐに人間でも動物でもないとわかった。その生き物は、ほとんど骨のように細く、頭部がやや大きい。
二足で立っており、目がないのにこちらをじっと見ているような“意志”がある。
「……お前は、まだ憶えていないのだな」
声がした――が、口は動いていない。頭の中に直接響くその言葉は、まるで夢の中の声のようで、優しいがどこか古びた、乾いた響きを持っていた。
「私はルリ。この森において、忘れられた名前の番人」
あなたは思わず一歩後退したが、ルリはそれ以上近づいてこようとはしなかった。むしろ、じっとこちらの様子を観察しているようだった。
「ここは“境の森”。記憶と存在が揺らぐ地。お前は“扉の向こう”から来たのだ」
その言葉に胸の奥がうずいた。記憶の中に見えかけた何かがすっと遠のいた感覚。
ルリは手のひらのような器官を伸ばし、あなたに向かって開いた。空中に淡い青光が広がり、地図の上に不思議な紋様が浮かび上がる。
「石碑が、お前を呼んでいる。そこから、すべてが始まる」
ルリの姿が次第に淡くなっていき、最後にこう囁いた。
「ひとつだけ覚えておけ。選んだ道は必ず、お前に問いかけてくる」
そして、ルリは森の奥へと溶けるように消えた。あなたの手の中には、かすかに光を放つ地図だけが残された。
【選択】
- 地図に従い石碑を目指す → [P4へ]
- ルリを信用できず別方向へ進む → [P5へ]