反省と確信
馬中書令が建平さんの殺害を認めてから数日が経ち
崔さんから黒或殿の裏から彼の遺体が発見されたと報告があった
書簡を処分する前に私に会ってしまったこと
そして書簡を処分したと嘘を吐かれたこと
二つの理由から罪を被ってもらうのにも好都合だと考え
バレる前にと殺害に至ったらしい
横領については未だに喋らないらしいけど
捜査の結果 女性に貢いでいたと報告があったんだとか
アホに思える理由に呆れて目を細めた
彼の処遇は殺人のことを考えたら選び放題だったみたいなんだけど
建平さんのことを考えた殿下が労働刑に決定したらしい
周りから色々言われるかもしれないけど
建平さんに償うために頑張ってほしいと思う
そんなことを考えながら目の前に座る殿下を見つめる
私の視線に気づいた彼は
見つめ合った後 眉を寄せ溜息を吐いた
普通なら失礼だと怒るんだけど
さっきまでの会話と殿下を思い出して苦笑いをする
『貴女は一体 何を考えているんですか』
筆跡鑑定と指紋鑑定
犯人に繋がる証拠探しのための方法
だけど指紋の存在から知らなかったから
もしかしたら弱いと判断されている私から
舐めている私から話を切り出しカマをかければ
自供するように誘導することができるんじゃないかと思ったのだ
その予想は当たって上手くいった
紙についた指紋を炙り出す方法を知ってはいたけど
この世界で再現するのは正直 難しいと思っていたから
その前に自供してくれて助かった
だけど殿下にカマかけすることを言ってなかったのもあって
無茶苦茶 怒られた
前世の癖が出てしまった
こうだと思ったら突っ走ってしまう
他の人に頼らずに一人で解決してしまう
浼雨の身体だから治そうと思って頑張っているけど
ふとした時に出てきてしまう
殿下が怒るのも無理はない
あの時の私は周りが全く見えていなかった
もっと冷静になっていなければいけなかったのに
………反省…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『………殿下、一つお願いしても良いですか?』
指紋についての説明もないまま そう言われた次の日
馬中書令を呼び出し何を話すのかと思えば
彼女は いきなり核心をつく言葉で訊き出し始めた
隠れて様子を見ていたが指紋の説明に焦ったのか
メイを睨み馬は彼女に手を伸ばそうとしていた
彼女が気づいていたのかは分からない
建平を埋めた場所を吐かせるまで終始 微笑んでいたから
だが彼女の行動は あまり褒められるものではない
殺しの主犯に単身で会いに行ったのだ
すぐに出られるように準備をしていて正解だった
そんなことを考えながら目の前に座るメイを見ながら溜息を吐く
先程 口酸っぱく言ったことが効いているのか
彼女は反省しているように見えた
ちなみに梓晴と思妤にも
もう視線に怯える必要は無いことは伝えてある
もちろんメイの行動の一部始終も伝え
さすがに俺からの説教を止めなかった
二人から見ても危険だったと判断されたのだろう
風明にも通常の仕事に戻ってもらっている
…油断はできない、な
目を細めてメイを見つめる
直感が告げていた
これからも彼女から目を離さない方が良いだろうと
何を思っていたのか
馬に会う前後で見せた彼女の笑顔
『確かめたいことがあるんです』
背筋に恐怖に近い
それでいて期待に満ちた何かが走った
嬉しそうとは少し違う
悪戯っぽい雰囲気を含みつつ
まるで歴戦を勝ち進んだ大将のような
勝ちを確信したような笑顔だった
まだ疑っていた部分もあったのだが
今回のことで改めて確信する
ーー浼雨とは別人なんだ
かなり俺も性格が歪んでいるらしい
あんな笑顔のメイを見て
喜んでしまっているとは