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あれから一週間が経った

教育係の人から歴史やら作法やらを一通り教えてもらった

作法は身体の方が覚えているし

浼雨(メイユイ)の記憶の本棚で復習して なんとか知識は入ったと思う

教育係の人からも良しと言われたから一先ず大丈夫だろう

淹れてもらった お茶の水面に映る自分を見つめる

あれから浼雨(メイユイ)とは会っていないし喋っていない

思う存分 休んでるんだろうと思う


この数日で分かったのは今はゲームが始まる前ということ

思い出せないけど昔の中国に似ていて

だけど私の世界の物があったり下水が設置されてたり

やっぱりゲームの世界なのだと感じる

それに私が悪役に設定されている浼雨(メイユイ)になったということは

設定した時に側に居た友だちがヒロインになっているかもしれない

私が事故死した時に彼女も一緒だったからだ

探しに行きたいけど(チェン)家に引き取られる前だったら どこに居るか分からない

それに本当に友だちが転生しているかも分からない

死んでいないかもしれない

ついでに言えばヒロインのデフォルト名を覚えていない

探しに行くには致命的すぎるし無謀すぎる

私は深く溜息を吐いた


考えたところで今どうにかできる問題じゃないよね…

私が この世界に来た理由も分かんないし

ゲームの通りなら殿下たちに謁見の機会がある筈…

そこで私も会わせてもらえるように お願いしてみよう


「妃殿下、ご実家からです」


友人の笑顔を思い出しながらお茶を飲むと思妤(スーユー)さんが手紙を持ってきてくれた

あの男からの手紙だった

ざっと読むと約束の金はどうしたって内容だった


知るか


そう思いながら笑顔で手紙を握り潰す

梓晴(ズーチン)さん達が小さく慌てたのが分かった

内容もだけど娘に送る手紙にしては酷い罵詈雑言が並んでいた

こんな仕打ちに ずっと浼雨(メイユイ)は耐えてしまっていたんだろう


今度 会ったら絶対ぶん殴る


そんなことを決めながら手紙は処分してほしいと頼み

落ち着くように お茶を一口飲んだ

順調に暗月(アンユェ)国の民の間で例の噂は広まっているらしい

まだ疑念の声が多いみたいだけど

殿下は陽明(ヤンミン)国などにも話を通して受け入れてもらうようにしてくれた

借りを作る形になったと殿下は言っていたけど優しい人たちだと分かる

会う機会が作れたら お礼しよう

あの男たちに構っている暇は無い

このまま苦しんでいけばいい


ちなみに殿下は毎日 公務に追われているらしい

愛は無いと言っていたからか

私から会いに行かなければ全く音沙汰は無い

全て側近の(ツェイ)さんを通して伝えられている

楽だからと私は一人を満喫しているから全然 良いのだけど


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私の名は(ツェイ)

(ヂョウ)帝国の中心である輝星(フゥイシン)国で侍中を勤めている

糸目なのは突っ込まないでいただきたい


現在 第二皇子である浩然(ハオラン)殿下に仕えている

第一皇子は国外に行っているし

皇帝陛下は休養中な為 浩然(ハオラン)殿下が代理で公務の日々に明け暮れている

その活躍のお蔭か輝星(フゥイシン)国周辺は今のところ平和だが

私は幼少の頃からの殿下を知っている

責任感が強く国の為、民の為と忙しく動いてくれている


ーーそう、忙しく


「……これは提出し直させてくれ

もう少し予算を切り詰められる」


殿下から書簡を受け取り受理延期の理由を記す

記し終わった後 殿下を見つめた


「…殿下、少し休憩されてはいかがですか」


「必要ない」


即答されてしまった

しかも次の分の書簡を持ってくるように言われる

私は静かに部屋を出たが心配だ

殿下は国の為と忙しく動いてくれている

だが それにより休む暇が無い

休もうとしない


身体の調子が悪い時でも変わらずに


それは今もそうだ

朝から動き続けているのに加え顔色が良くない

幼少の頃のように倒れるまで働いてしまう

昔から知っている身としては心配しかない

かと言って私が言っても聞いてもらえない

小言のように何度も言ってきたからか殿下は重要だと思っていない

私としては常日頃から休んでほしいから言っているのだが

どうしたものかと書簡を処理しながら考えた


そこで ふと妃殿下を思い出した


先日 殿下が婚姻を結ばれた暗月(アンユェ)国の第三王女

お互いの利点が一致した故の婚姻だと言っているからか

殿下が今までと変わりない生活だった為に忘れていた

先日の殿下への進言も含めて考え

もしかしたらと淡い期待も込めて青惺(チンシン)殿に向かった


「……殿下、今日いつ休まれましたか?」


突然 伺ったにも関わらず

嫌な顔をせず来てくれた妃殿下が にっこりと笑って殿下に訊いた

殿下は質問に答えず私を睨む

何故 妃殿下を連れてきたのかと訴えられている気がする

だが今の殿下を見ていると心配になる

すると丸型団扇で殿下の視線を妃殿下が阻止し更に詰め寄っていった


「殿下、お訊きしているのは私です

答えてください」


「……今日は、まだ」


「では いつから調子が悪いのですか?

自覚なさってますよね?」


殿下は後退って答えていたが口を噤む

そして視線を妃殿下から逸らしていた

小さく溜息を吐くと妃殿下は私に向き直り

誰も来なくて殿下が ゆっくり休める部屋は近くにないか訊いてきた

丁度 隣が空いていると言うと妃殿下は中を覗く

そして飲む用の水とタオルと桶に入った水を頼まれた


「……メイ…」


「何か?」


頭を抑えながら殿下が何か言おうとしたが

妃殿下は怖いくらいの笑顔で黙らせていた

私は そのまま部屋を後にした


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『殿下はいずれ この国を背負うかもしれません

頂点に立つ方は常に完璧でいなければいけませんよ』




冷たい物が顔に触れる感覚で意識が浮上した

ぼんやりする視界で捉えたのは先日 妻になった女性

起こしてしまったかと眉を下げている

どうやら濡らした手拭いで汗を拭いていてくれたらしい


「かなり魘されていましたけど大丈夫ですか?

着替えますか?

汗掻いて気持ち悪いでしょう」


起き上がるも ゆっくりとした動作にしかならない

飲むように言われ水を渡され口に運んだ

普段は感じない美味しさで息を吐く

頭がぼんやりとしているし かなり熱が出たらしい

思考が上手く働かない

俺を支えながら てきぱき動くメイを観察することしかできない

メイは寝台の敷布も取り替え俺の身体も拭くと言った

よく見れば身体に何枚かタオルが挟まれていた

かなり汗を吸い込んだらしく濡れている

メイがやったのだろうと分かった

王女らしからぬ行動で事情を知らなければ驚くだろう


「私が休むように無理矢理 寝かせたのは覚えていますか?

殿下それから眠ったと思ったら熱が上がり始めたんですよ

寝かせた時も普通に動いていたのが不思議なくらいの高熱で驚きました」


無理しすぎたのだろうと彼女は俺の背中の汗を拭きながら言った

そういえば頭の痛みが消えている

服を着ながら時間を確認すると既に日は沈み始めている時間だった

随分と寝てしまっていたと焦って立ち上がる

視界が少し揺れたが今日の書簡が まだ残っている

処理しなければと向かおうとすると


「どこに向かう気ですか、殿下」


メイが俺の行く先を制した

退いてくれと言ったが腰に手をあてたまま首を横に振る


「今も立ちくらみしていたでしょう

そんな状態で行かせられません

横になってください」


「……ですが」


「殿下…?」


反論しようと口を開いたがメイによる下からの圧を受けた

笑顔なのに何故か怖い

逆らえる気がせず渋々寝台に向かい横になった

横になればメイは何も言わず俺の額に濡らしたタオルを置いてくれた


「……この状態で書簡の処理をしても」


「駄目です」


「…(ツェイ)に指示だけ」


「駄目です」


横になっているだけなのが申し訳なくてメイに訊いてみたが

取り付く島もなく真顔で即答された

そのままメイは俺の服を持って隣の部屋に行った

話し声が聞こえるから(ツェイ)が居るんだろう

本当に何もさせてもらえず上を見つめる

こんなにゆっくりしているのは いつ以来だろうか

考えることも公務のこと以外あまり無くて

メイも俺の様子を常に見ているわけではないし


久しぶりの静かな空間に自然と瞼が重くなっていった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜に殿下の世話を(ツェイ)さんに代わり仮眠をとった

そして朝になって部屋に入ると既に殿下は起きていた

殿下は顔色が良くなっていて安心した

だけど すぐに働きに出ようとするから


「失礼しますね」


そう言って首筋に触れた

突然 触れたことに殿下は目を丸くしていた

気にせず熱を計り


「確かに下がってはいますけど朝は基本 低いんです

今日一日は絶対安静にしてください

じゃないと また熱が上がりますからね」


真顔で そう言うと殿下は呆気に取られながら返事をしていた

それから二人で朝ご飯を ゆっくり食べていると

殿下が思い出したように訊いてきた

隠していた訳ではないけど起きた時に(ツェイ)さんから聞いたらしい

宦官たちの情報を聞き出した理由は何かと


「説教してみようと思いまして、殿下に」


私の言葉に殿下は困惑した顔をしていた

昨日 殿下を半ば無理矢理 横にならせた後

汗を吸い込んだ服やタオルを持って隣の部屋に行くと(ツェイ)さんが居た

落ち着いて寝ていると言うと(ツェイ)さんは驚いた顔をした後お礼を言ってきた

今まで どんなに苦言を呈しても殿下は休もうとしなかったらしく

限界まで働き倒れることもあったそう

誰かの言うことを聞いている姿は久しぶりに見たんだとか

そこまで殿下が無理をするには何か理由があるのか

そう訊くと(ツェイ)さんは言いにくそうに




『……幼少の頃に第一皇子殿下と比べられていたというのもあると思いますが

皇帝陛下の代理を勤め始めた頃に宦官たちから色々言われたらしいのです

…完璧でいなければいけない、と』




完璧など陛下でも出来ていなかったと殿下に言ったことがあるが

当時は殿下が公務に慣れていなかったこともあって

宦官からの言葉を そのまま受け取ってしまったらしい

それで今の状況になったんだとか

当時の殿下に変な入れ知恵をした宦官たちにも怒りが沸いたが


「殿下は周りの方たちを完璧だと思ってらっしゃるんですか?」


食べ終えて殿下を寝台に入ってもらった後

崔さんから聞いた話を殿下に話し そう切り出した

殿下は否定する

そう思ってくれてて良かった

上に立っている故に皆の失敗は見てきたみたい


「間違う、失敗する、誰にでもあります

それは殿下にも言えることです

殿下だって一人の人間でしょう?」


そう言うと殿下は目を丸くした

大事なのは それを素直に認め受け入れて次に活かすこと

何もせず言い訳ばかりする人は実績も信用も失ってしまう


「それこそ誰だって小さい頃は失敗をします

生まれた時から完璧な人間なんていません

皆 周りの助けがあって学んでいくんです」


私が続けると殿下は呆然としながら俯いた


「……メイ、も…あるんですか?」


「失敗したことですか?

数えられないくらいありますよ

働き始めた頃もそうですし

それこそ小さい頃は覚えていないものもあると思います

周りの人たちには迷惑をかけていたでしょうね」


それでも一生懸命やっていれば分かってくれる

失敗から学んでいるって応援してくれる

学ぶ側もだけど教える側も根気がいるんだ

殿下は既に行なっている

だから(ツェイ)さんは倒れてしまうのではと心配していたのだろう


「……メイの言う通りですね

私が公務をやり始めた時 (ツェイ)には散々助けられていました

それこそ私の失敗を代わりに背負ってくれていた時もあった筈

…なのに いつの間にか自分だけの力で立っていた気になっていた」


殿下は泣きそうな顔で小さく笑って言った

期待されている故なんだろう

だから冷静に見れる私たちが止めなきゃいけない

(ツェイ)さんも同じ気持ちだったんだろうと思った

そして殿下は(ツェイ)さんは どこにいるのか訊いてきた

隣の部屋に居るから呼んでくると言って私は部屋を出る

(ツェイ)さんが部屋に入ってから暫く話し声が聞こえていた

私は お茶を飲みながら待っていたけど


(ツェイ)さんの泣いている声が聞こえた気がした


それから数日後

天気が良かったから梓晴(ズーチン)さんと思妤(スーユー)さんと一緒に

青惺(チンシン)殿の周りにある小さな庭園を散歩中 殿下が声をかけてきた

隣には(ツェイ)さんも居る

梓晴(ズーチン)さん達が拱手をしてから私も挨拶した

殿下は休憩に入ったらしく偶然 私たちを見かけたらしい

せっかく仲良くなったからと三人で外に出てみたのだと言うと納得していた

すると殿下が私を じっと見つめている

首を傾げ何か顔に付いてるか訊くと


「貴女は もう少し笑った方が良い気がします」


「……それ殿下が言います?」


静かに そう言った殿下に(ツェイ)さんが焦ったのが見えた

目を細めて呆れながら言い返せば さらに驚かれる

殿下も私と似ていて あまり笑わない

というよりも愛想笑いをしない

第一印象が良くない故に苦労するタイプだ

そんなことを考えながら殿下と暫く見つめ合う

すると小さく微笑み


「そうですね、私が言えた台詞じゃない」


そう言った殿下に私も驚きつつ嬉しくなり微笑んだ

(ツェイ)さん達は私たちの やり取りに驚いたままだけど


「これから お茶でも飲もうかと思ってまして

殿下も良ければいかがですか?」


「…では、お言葉に甘えて」


(ツェイ)さんも加わり五人で私が淹れるお茶を飲んだ

三人は断っていたけど

何か言われたら私から命令されたことだと言って参加してもらった

周りから見れば異様な光景だろう

(ツェイ)さん達にとっては不敬な態度と取られても おかしくない

でも こういう時間は大事だと思う


私にとっても殿下にとっても


あれから殿下は ちょくちょく休憩をとるようになったらしい

すぐに変わることは難しいらしく

働きすぎている時は(ツェイ)さんが止めているみたいだけど

それでも もう完璧を求めることはせず自分を労わるようにし

(ツェイ)さんの言うことも聞いているみたい

良い傾向だと思う


(ツェイ)さんの分かる限りの殿下に苦言を強いた当時の宦官たちにも

勤務情報を照らし合わせ私から直々に

自分たちにもできないような完璧を殿下に強いるなと説教した

できるのなら殿下と同じように動いてみろと強めに

彼らに言えるのは ここでは私だけだからと思っていたから


まぁ後で(ツェイ)さんでも良かったことに気がついたけど

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