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髪飾り

浼雨(メイユイ)の家族が爵位を返却させられてから数日が経った

最後まで文句を言っていた彼らだが

帝国の現責任者の殿下の判断が覆ることはなく

ついでに長年に渡る国民と浼雨(メイユイ)へのハラスメントの慰謝料を請求され

暗月(アンユェ)国の城にあった家財や嗜好品

身に着けていたアクセサリーや服を全て売り払い

泣く泣く彼らは平民に堕ちていった

命が取られなかっただけマシなんだろうけど

普通に生活できるとは思えない彼らに殿下は家をあてがわれた

監視付きの

つまり逃げ出すことも勝手に死ぬこともできなくなっている

元中書令の(マー)の時も思って訊いてみたけど

殿下は斬首刑など あまりやらないらしい

状況によっては執行することもあるみたいだけど

生きていく方が恐ろしい罰だと理解している


今回は特にそうだと私も思う


現状 暗月(アンユェ)国は帝国管轄になったそうだ

その方が良いだろうな、なんて思いながら溜息を吐く

浼雨(メイユイ)も簡潔な挨拶だけで済ませ

彼らの処分に口を挟むことはしなかった

母国に思い入れというのも無いんだろうと思う


もう吹っ切れた?


『はい、お蔭様で』


それなら良かった


『あれだけ言っていたのに殴らなくて良かったのですか?』


浼雨(メイユイ)が もう何とも思ってないなら別に良いよ

殴るだけ手が痛くなるだけだし

…ところで



…なんで私また浼雨(メイユイ)になってんの…?



暑くなってきた空を見上げて純粋な疑問をぶつける

頭の中で会話しているから

隣に立っている梓晴(ズーチン)さんと思妤(スーユー)さんには聞こえていない


『…? メイが言っていたではありませんか

友人に会った時は話させてほしいと』


言った、言ったよ

でも今じゃないでしょうよ


『あまり長い間、外に出なかったら状況が分からなくなるかと思って…』


まぁそれは あるかもしれないけど…

念じれば好きな時に浼雨(メイユイ)の中から見れるから大丈夫だよ


『それも考えましたが…覗きのように感じたものですから』


……そういえば、そんなこと言ってたね

確かに憚られるか…


『それと殿下がお話したいって仰ってたから…』


…殿下が…⁉︎

まさか私を罰しようとしてる…⁉︎


『…違うと思いますよ…

どのみち今日は会えないので意味はないですけど』


いや待てい

なら本当に何で私を出した?


『…嫌でしたか?』


嫌なわけあるかっ!

私のことを考えてくれたんでしょ⁉︎

ありがとう!


『…ふふ…はい、どういたしまして』



    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「いらっしゃい!」


「はい、おまちどお!」


ばたばたと忙しなく動く女性たち

休みなく料理を作る厨房の男たち

全員を観察しながら運ばれた料理に手を伸ばした

半分に割れば良い香りが鼻を擽るが食べずに半分を(ツェイ)に渡す

(ツェイ)は受け取ると無言で食べ進めた


「…美味い?」


俺の質問に(ツェイ)が頷くと俺は残りの半分を自分の口に入れた

温かい料理が久しぶりで さらに美味しく感じた

今日は半年に一度 計画している視察の日

下町の本当の声が聞きたいから

変装して平民の格好で見て回っている

もちろん一緒に居る(ツェイ)と後宮に居る浼雨(メイユイ)以外には知らせていない

この時ばかりは肩書きを意識しないで済んでいるから気が楽だ


「兄ちゃん何で半分に割ってんだい?

育ち盛りなんだから、それぐらい食えるだろ?」


隣の席に座っていた男たちが俺を見て言った

屈強な体格で職人関係なのだろうと一瞬のうちに考える

俺は口の中の物を飲み込んでから


「この前ちょっと腹を壊しちゃって

しばらく様子見ながら食べるように言われてるんだ

だから兄貴に半分ずつ食べてもらってる」


「はぁそりゃ大変だったな

これからは気ぃつけなよ」


「あぁ、ありがとう」


本当は毒味の為なのだが特に怪しまれずに済んだ

気にした風もなく男たちは別の話題に盛り上がっている

そのまま食べ終え店を後にした


「特に問題はないように感じたが、どうだ(ツェイ)?」


「俺も特には何も

暗月(アンユェ)国から来た人たちも一生懸命 働いていたし

皆 楽しそうに笑っていたと思う」


往来の激しい道を歩きながら話す

堂々としていれば すれ違う人たちは特に俺たちを怪しんだりしない

話されている内容は賑わう中に消えていく

今回の視察で主に知りたいのは暗月(アンユェ)国の民の声

そして平民が話す噂や話題を知りたい

前者は少し前も調べてもらったから特に問題はないと思う


「そこの色男さん達、買っていかないかい?」


そんなことを考えていると一つの店の者に呼び止められた

自分たちかと反応が遅れたが客寄せなら常套句だろうと納得した

装飾品を取り扱ってる店らしい

簪や櫛など多種多様で女性なら目移りするのだろう

実際 俺たち以外は女性で溢れていた

女性は噂話が好きな傾向にある

少し見ていれば何か聞けるかもしれない

(ツェイ)にも演技で促し別で見て回る

職人が多く入ってきたことで品数が増えたらしい

確かに丁寧に作られているように見える

聞くことに意識を傾けつつ一歩進むと


その内の一つを見て何故かメイの顔が浮かんだ


浮かんだことが分からず首を傾げつつ

後ろに立つ女性たちの話に聞き耳をたてる

特に おかしな話は聞けなかった為

怪しまれない程度で品を二つ手に取り

店主に支払い(ツェイ)と合流し帰路に着いた



    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「先日 下町に視察に行きまして目に留まったので差し上げます

なんとなくメイのようだと思ったので」


「……お土産ってこと、ですか?」


私が訊くと殿下は特に気にせず肯定した

殿下が留守にしていた日から数日後

会って話したいと浼雨(メイユイ)に言われていた私は

最悪の場合の覚悟を決めていたから頭が追いつかず

簪を見つめて固まってしまった

すると殿下は売っても捨てても構わないと言った


「え、嫌ですよ、何でですか

せっかく殿下が買ってきてくれたのに」


「…何も反応しないものですから気に入らないのかと」


「それは ごめんなさい」


簪を手に取り見ると花が透き通っている

確かフリージアという花だったと朧げに思い出す

こんな綺麗な物 作れる職人は凄いと感心した

改めて殿下に お礼を言った

昔から簪は好きだったから嬉しい

覚悟しなくて良かったでしょうと微笑む浼雨(メイユイ)が容易に想像でき

さっきまで意気込んでいた自分が恥ずかしかった


「気に入ったのなら良かった

用事は それだけなので…では」


そう言うと早々に殿下は立ち上がる

本当に これだけなのだと拍子抜けしつつ


「殿下、本当にありがとうございます

……おやすみなさい」


簪を持って もう一度お礼を言った

殿下は優しく笑うと おやすみと言って去っていった











「良かったですね、追い出されなくて」


「言わないで〜恥ずい〜」


「ふふ……メイはフリージアだったんですね

私はミモザの櫛でした」


「ミモザかぁ…確かに浼雨(メイユイ) 似合うね

これから目印に着けてようかな

今日は私です、みたいな」


「それ良いですね

分かりやすいから私も そうしましょう」


「でも何で突然お土産 買ってきてくれたんだろ?」


「……どうしてでしょう…?」

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