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転生






「……ィ」






「……雨」











浼雨(メイユイ)!」


突然 大声を出され意識が急浮上した

身体が跳ねた気がする

いつの間にか寝ていたらしく周りを見た


…誰この人


私は何故か赤いベールを被っているらしく

よく見えないけど顔を顰め男性が私を見ていた

斜め向かいに座っているが近く感じる

揺れているのと馬の声が聞こえたから馬車の中みたいだ

男性は腕と脚を組み馬鹿にしたように鼻で笑う


「居眠りとは随分と余裕があるようだな」


何だコイツ

ただでさえ狭いってのに脚なんか組むな

別に寝てても良いだろうが…!


男の態度に腹が立ち殴ろうかと拳を握ったけど

一瞬 考えて止めておいた

うだうだと男は まだ何か言っていたけど

聞き流すことにして外に目をやった


ここ何処?

何で馬車の中に居るの?


外を見るも建物が見えない

草木しかない

しかも乗っている馬車の周りには

護衛だと思われる男性たちが馬に乗って走っていた

自分が真っ赤な格好をしているのと何か関係あるんだろうか


そもそも私 何してたっけ…?


途端にズキズキと頭が痛む

頭痛持ちであっても経験したことがない

それほどの痛みを何故か知っている気がした

瞬間 脳裏を過ぎる映像



ーーそうだ



最後に見た

いや最期に見た場面


友だちと横断歩道を渡っている途中 眩しいライトが迫ってきていた


それを認識したと同時に

身体に強い衝撃を受けて

そこからの私は何も分からない

何も覚えていない

なのに全く別の場所に居て無傷だということは


もしかしなくても どうやら私は死んでしまったらしい


乾いた笑いが溢れた

あまりにも あっけない自分の人生に

まだまだ元気だと笑っていた家族に


ーーもう会えない


泣いてしまいたかったけど

さっきから馬鹿にしてくる男が一緒なんだ

何を言われるか分からない


小さく息を吐きながら滲む視界を必死に抑えた


暫く目を瞑った後 落ち着きを取り戻した

まだ男は一人でペラペラ喋っている

泣きそうになっていたのに気づいていないようで安心した

よくそんなに喋ることあるななんて思いながら小さく息を吐き

現状を理解する為にガラス越しに まじまじと自分を見る


メイクばっちり決まってる…

私だって分からないくらい…

刺繍とかアクセサリーも豪華…

…なんか漢服みたいな服だな…


漢服と言えば中国だと安直な連想をする

何故 中国の服なんか着ているのか


そういえば友だちが勧めてくれたゲームも中国っぽい名前だった気が…

時間が無くて ほとんどプレイできてなかったんだよね…

…確かプロローグ見て…


そこまで考えて思い出した

珍しいことに そのゲームはヒロインと悪役を好きにカスタマイズできるゲームだった

勧めてきた友人と一緒にプロローグを見てから



『えー⁉︎

自分を悪役にしちゃうの⁉︎

普通ヒロインじゃない?』


『ヒロインってキャラじゃないよ私は

それに婚約者がいる人と仲良しになろうっていうの多いじゃん

あぁいうの本当に嫌い

婚約者大事にしなよって思う』


『……ど正論痛い』


『だったら恋愛ゲームを私に勧めるな』


『やだ

これは絶対やってもらう』


『何でや…』



ヒロインには友人を設定して悪役に自分を設定した記憶がある

それに外見だけカスタマイズして名前なんかはデフォルトのままにしてた

ここがあのゲームの中なら さっきから呼ばれている名前に馴染みがないのも頷ける


確かプロローグの内容は

(ヂョウ)帝国が治める陽明(ヤンミン)国に暮らしていた平民が

(チェン)家に引き取られるところから始まって

教養やら作法やらを身に着けてレベルを上げていくと皇子たちに謁見する機会が与えられる

そこで適切な選択肢を選べば どちらかの皇子に気に入られ後宮入りできる

後宮入りできた後は色んな問題を突破して

キーパーソンとなる人の好感度を上げていかないといけない

それぞれの上げ方によってエンディングが変わる

ちなみに後宮入りできなくても別の攻略対象者たちと会うことができる

平民に戻ったとしても関わる対象者たちもいる

後から解放されるシークレットもいる

…だった筈



『一見 簡単そうに思えるかもしれないけど!

レベルを上げるの結構 大変だし

選択肢が意外と多くて苦戦するし

違う相手を攻略しちゃったりするし

分岐が多すぎて困る!

全部見たくなるじゃん!』



そう言っていた友人の顔が浮かぶ


……あんなに勧めてくれてたのに ごめんね

あれから全然 手をつけてなかったよ…


友人のことを思い出し遠い目をした後

ゲームのプロローグではヒロインのことしか言っていなかったことを思い出す

設定通りだとすれば私は悪役だ


名前は分かったけど他が分からん…


元の世界の歴史も壊滅的だった私

今の私の格好が何を意味しているのかも

何処に向かっているのかも分からなかった

どうやら これまでの浼雨の記憶は引き継いでいないらしい

作法は身体に染みついているみたいだし

漢字の読み方も頭に自然に浮かんでくるから良かったけど


記憶も引き継いでほしかったな…!

混乱するばかりでしょうが!


「………だから この婚姻が私たちには欠かせないのだ

お前が愛されることなど後にも先にも無いのだから粗相をしないようにだけ注意しろ」


考えている最中 男の声が耳に入る

辟易して再び聞き流そうと思ったけど

聞いてはいけない単語を聞いた気がして男の話に耳を傾ける

大半は私を馬鹿にしていたけど


婚姻って…結婚ってことだよね⁉︎

え、嘘でしょ⁉︎

結婚するの私⁉︎

っていうかしたの⁉︎

元の世界でも してなかったのに⁉︎


混乱しながら聞いた内容を繋げていくと

このムカつく男は私の父親らしく

宙帝国の暗月(アンユェ)国の王で私は その第三王女

今は帝国の第二皇子に嫁ぎに行く途中らしい

一通り聞いた頭の中はパニック状態で


今がゲームの中の いつなのか分からないけど

ヒロイン以外とも結婚して良いの⁉︎

あっ良いのか!

一夫多妻制なんだっけ⁉︎


ぐるぐると色んなことを考えている間に

宙帝国の中心である輝星(フゥイシン)国に到着してしまった

皇帝が住んでいる白魄(バイトゥォ)城が見えてきて門を潜った後も かなり走る

広すぎて無駄なんじゃないかと思ってしまった

国のトップが住むんだから これがあたり前なんだろうけど

謁見の為の堰赤(イェンチー)殿の前で降り中に入る

跪いた状態で皇子の登場を待った


「長旅ご苦労だった」


現れた皇子が意外と若くて少し驚いた

もしかしたら元の世界の私より若いのではという皇子は無表情で私を見ている

今の私も高校生くらいの年齢ではあるが

対して横で受け答える父と名乗った男のことは睨んでいた


嫌いなのかな


ぺらぺら喋る男の話を聞いて分かった

どうやら この結婚は契約結婚らしい

皇子側は自分のところに来る結婚話を終息させる為

浼雨側は主に金銭を貰う為

お互いの利点が合い皇子と浼雨の間に愛など無いみたいだが

何故か皇子は浼雨を指名したんだとか


結婚って聞いた時は どうなるかと思ったけど

愛が無いなら多少は楽かな…

皇子が指名した理由は分かんないけど


それに男の性格がなんとなく分かった

強い人には媚びへつらって取り入ろうとし弱い人には高圧的で威張る人

私にとって一番嫌いなタイプの人だった


「ですので我が国とは末永く良好な関係を築いていければと

不出来な娘ですが よろしくお願いします」


そんなことを考えている横で愛想笑いを浮かべる男を睨む

このまま男と会わなくなるのは別に良い

ただ白魄(バイトゥォ)城に来るまでの間に どれだけ見下され馬鹿にされたか

私は何か意趣返しがしたくなっていた

でも浼雨本人が どう思っているのか分からない

仮にも男は浼雨の父親だ

大事に思っているのなら私が行動すれば迷惑がかかってしまう

そう考えて私は男から視線を外し歯ぎしりした



『返しても構いませんよ』



我慢するしかないと思った瞬間

頭の中に声が響いた

目を丸くしたものの直感的に声の主が分かった

喋り続ける隣の男を見る

構わないと言われたならば


好きにやらせてもらおう


挨拶が終わり男が泊まる為に竢紫(スーズー)殿に向かった後

私の世話役の女官の梓晴(ズーチン)さんと思妤(スーユー)さん

そして皇子殿下の側近の(ツェイ)さんを紹介されると

もう自分の青惺(チンシン)殿に戻って良いと言われたから

思い切って殿下に願い出てみることにした

いきなりで殿下は眉を寄せたけど話は聞いてくれるみたい


「話とは?」


殿下は机に寄りかかり腕を組む

細められた目は少し威圧感を放っていた

愛が無い相手からの申し出は厄介なんだろう

それでも話を聞いてくれるんだから優しい人だと思う

私は真っ直ぐ殿下を見つめ


「先程この婚姻を結んだ理由を話していたかと思います

我が国に金銭を渡す、と」


殿下の眉が寄せられる


「……何か不都合でも?」


息を呑んで


「変更していただきたいのです

金銭を渡すのではなく我が国の民を輝星(フゥイシン)国に移住させてください」


そう続けた私の言葉を聞いた全員が目を丸くした

頭の中の声によれば あの男が

いや王族である家族が国庫を喰い潰しているのだと

それによって民が被害を被っているのだと

顧みられたことなんて数えるくらいしかなくて

民の間には怒りも悲しみもあるけど

働ける場が無いから動くことができないらしい

それなら この契約結婚で彼らが動けるようにすれば良い



『あんな国いっそのこと…』



頭の中の声は静かに

それでいて怒りを含んだ声で最後そう言った

王族権利剥奪も考えたけど そうしたら浼雨が王族ではなくなってしまう

殿下は平民と結婚するわけにはいかないだろうから それはできない

であれば自分たちの私欲の為に民を犠牲にした罰として


同じ苦しみを味わえばいい


殿下は静かに私を見つめる

本当に私にとって あの男は嫌いなタイプの人で安心さえしている

これ以上 意見を変えるつもりは無い


「……分かりました」


すると溜息混じりに殿下は そう言った


「貴女の実家には何も送らない

代わりに暗月(アンユェ)国の民を移住させたい、ですね?

その方法は?

何も送らないだけじゃ民は気づきませんよ」


私は少し考えると


「でしたら殿下の配下の者を お借りしてもよろしいでしょうか

民たちの間にだけ噂が広まるようにしたいです」


「噂?」


「彼らに足りないのは働ける場所と決断力

輝星(フゥイシン)国で生活に困っている人を受け入れているという噂を流せば自然と移住してくると思います

不満が募っているのは事実ですから あっという間に噂は広まりますよ」


民の間で情報は命に直結する

それに率先して不満の対象に情報を流すことはしないと思う

この方法なら あの男たちに気づかれる時には全て終わっている

私の説明に殿下は納得する

そして(ツェイ)さんに噂の件を任せてくれた

崔さんは私を ちら見すると部屋から出て行く

お礼を言い殿下に頭を下げると私も部屋を後にした


出て行く間際 殿下が私を見ていた気がする


はぁ…疲れた…

今日は色々あったな…


慣れないながら梓晴(ズーチン)さんと思妤(スーユー)さんに お風呂やら着替えやら手伝ってもらい

もう遅いということでカーテン付きのベッドに倒れた後

今日の怒涛のような出来事を思い出して遠い目をした


…………本当に色々あったな…


ありすぎて一日の出来事なのか疑問に思ってしまった

相当 疲れたらしい

ベッドの柄を眺めていると瞼が重くなる

まだ考えたいことがあるけど身体の方が限界みたいだ


「妃殿下」


すると梓晴(ズーチン)さんの声がした

返事をすると


「殿下が来られました

お通しして構いませんか?」


それを聞いて目が覚めた

急いで起き上がるも頭が混乱する

何で来たのか全く分からなかった

愛が無い結婚だから襲いに来た訳ではないだろうけど

警戒しつつ とりあえず構わないことを告げた


「……」


カーテンを開けて殿下が入って来たけど

何故か正座をしている私を見つめたまま動かない

かと思えば梓晴(ズーチン)さんたちに下がるように言うと私の隣に腰かけた


「先程の契約の話ですが遣いの者を出したと報告が入りました

明日から噂は回り始める筈です」


殿下は前を向いて そう言った

それなら安心できる

わざわざ知らせに来てくれたのか

そう思いながら安堵の息を吐くと


「…それで回りくどいのは苦手なので単刀直入に訊きます」


殿下が腕を組み真っ直ぐ私を見る

そして目を細めて



「貴女、誰ですか?」


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