「伴死」と魔城のドラゴンたいじ!
「死を思い、死を拒み、死を呪い……」
「止まれ~! ぐわっ!」
「こちら城門! 至急、応援を──ぎゃあっ、やられた!」
「伴う死ならば、死さえも死なせてみせましょう」
ゴシック式西洋城門前。長い石造りの橋の上で、倒れた門番動く鎧の背中にビーム形成の太刀が刺さる。
「わたくしは「伴死」。切りつけるタリアトーレ」
「がはっ! 消滅!」
肩まで伸ばした髪が夜風にさらさらと吹かれ、隠れた片目が露になる。
「伴死」と名乗った背の高い女は、消えゆく鎧から太刀を引き抜くと、背後へ振るって一閃した。
「ぎゃあ~っ! な、なぜ分かった!?」
「鎧は動くと音を立てるからね」
「な、なるほど! こりゃ抜かった~!」
弾けて消える鎧を踏み倒し、伴死は城へと押し入る。
たちまち城はバラバラに分かれ、エントランスを残して、巨体を誇る岩石ドラゴンに変貌した。
「おのれ、裁断士め~! よくも我が擬態を見破ったな」
「勝手に解いたんじゃないよ」
「うそをつくな! 貴様は真っ直ぐに、我のもとへやって来たのだ!」
巨体を震わせ、怒りに吠える岩石ドラゴン。
伴死は両手で太刀を構え、ドラゴンの突進を受け止めた。
「うお~! 人間ごときが、我と力を比べっこだと!?」
「そう慌てないで。人間の力は、かつてマンモスを追い詰めたことだってあるんだから」
「思い上がるな! 凡人めが!」
ドラゴンが顎を振り上げ、太刀ごと伴死をブッ飛ばす。
伴死は吊り橋の主塔へ着地し、あえいだ後に太刀を構えた。
「クッ……さすがに重い」
「当たり前だっ。凡人が龍に勝てるハズもない!」
ドラゴンが再度、吠えたてて、それからエントランスの残骸を砕き散らして爆進する。
急いで伴死は塔を蹴り跳び、ドラゴンの背に太刀を振るった。
「"硬さ"斬り! クッ!?」
「ほうっ、概念攻撃か。だが効かん!」
ドラゴンが振り向き顔で牙を食い縛る。すぐに巨体が反転し、龍の咆哮が轟いた。
空間を揺らすほどの声量に、城壁の殻はビクともしない。彼の"硬度"が断ち切られるには、太刀の入りが浅すぎたのだ。
逆に伴死は太刀を手放し、耳を押さえてよろめいた。
「うがあっ。み、耳が……!」
「立場をわきまえよ! 死ね、高速突進ッ!」
地響きと共に、唸りをあげて迫る巨岩ドラゴン。
それが目に見えて、なお伴死は耳を潰されて動けなかった。
ガッキィン! すごい激突音を立てて、伴死の肢体が宙に舞う。
ドラゴンは浮かばしたゴミに目をこらし、情け容赦のないダンプのように、彼女を追った。
「死ね、「伴死」! 超圧輪廻移行タックル!」
「おづぇえ"!」
画面いっぱいを覆うほどに、巨大な圧力を込めたタックル。その絶大な輪廻昇天必至の威力に、伴死は吐血して、全身の手足がバッキバキに折れ砕けた。
「ドッガァアン! はぁ、はぁ……ウウッ」
「はっはっは、勝負ありだ。やや、こんなところに太刀があるな」
石畳に血を撒き散らして、グニャグニャにブッ飛び倒れる伴死の体。
息も絶え絶えの死に体女に、ドラゴンが拾った太刀を向けた。
「そうだ、こうしてやろう。裁断士が自分の刀に刺されて死ぬのも、皮肉が利いて良いジョークだ」
「はぁ、はぁ……ゴフッ! ガッフ。ブハッ」
「それがいい、そうしましょう。……死ね~! 身のほど知らずのクソ凡人!」
龍が立ち上がり、渾身の力を込めて、爪楊枝のような刀を投げつける。
長い太刀は、それこそ柔らかな女体どころか石畳まで砕く勢いで、潰れた伴死へ襲いかかる。
伴死は即座に身を起こし、体を斜めに傾けて、通過する太刀を受け止めた。
驚愕に目を見開く龍へと、伴死が刀を回して、
「な、何ィ!?」
「死ね~! 堅牢堅固の岩ドラゴン!」
渾身の力を込めて、投げ放った。
太刀は空中でビームをまとい、膨れ上がったトゲ針は、もはや楊枝と言えるものではなくなる。
「ひっ──ウギャアアア~ッ!」
「やりぃ!」
ビームの槍と化した太刀に貫かれ、ドラゴンが岩石を吐いて、その場に沈む。
頑丈ではあるが、彼は勝利を確信した瞬間に油断したのだ。
「ふーっ。酷い目にあったぞ」
「まったくだ。あの城に宝なんか、無いってのに。なんだって毎週、こんな目に合わなきゃならないんだ!? ……ん?」
「わ~っ! に、逃げろっ。ビームが、こっちへ飛んでくる~!?」
城門前で、慌てて逃げ出すアーマード三つ子。
愚かにも1列に並んだ彼らは、仲良く揃って貫かれた。
「ぐっ!」
「ぐっ!」
「ぐっ! また来週~!」
遠く爆発の炎が立ちのぼる中、伴死がドラゴンの山へと迫る。
ドラゴンは動くこともできず、悔しげに唸り、歯ぎしった。
「おのれ~! 伴死め、次はこうはいかんぞ! 必ずや貴様の、ゴムマリのような胸の脂肪を噛み千切ってやる!」
「今から貴方の首を切り落とします。さっさと俳句を詠んでください」
「岩の色は、うつりにけりな、いたづらに。我が身よにふる、ながめせしまに」
ザンッ、と暗い音が湿り落ち、岩の首がゴロリと転がる。
辺りに武器や宝石がバラバラに散らばり、伴死は汗をかいて呟いた。
「……似合わね~だろ。小野小町」