第九十七話 見るからにデバフキャラだもんな
いつも通勤電車からさ、森が見えるんだよ。
街の中にいきなり森って……。
まあ大学とか多い街だし、研究目的の指定区域とか
そういうのだろうなと思ってた。
まさかそれがカリンの家だとは。
周囲からはぜんぶ森に見えるけど、中に入ると古い
洋館が建ってて、そこに住んでるらしい。
アンブレラ?
ぜったい地下に巨大研究施設とかあるんだぜ。
やべーじゃん、ラクーン・シティじゃん。
「ショットガンがない。詰んだな」
「せんせー、誰と話してるの? ほら行くよ」
ああ、白石がどんどん先に歩いてく。そんな警戒もせずに……。
ガブっとくるんだぞ、あいつらはいきなり、ガブっと。
俺たちが並んで歩けるくらいの道は整備されてて歩きやすく、
人気の登山道って感じ。
静かで空気もひんやりしてて気持ちいいけど、夜は怖そう。
「うお、マジで洋館だ。これ文化財とかじゃないの?」
「戦前の将校さんが建てたのを改装、増築しました。森には故郷から
持ってきた樹がたくさん植えられています」
「どうした? ガイド音声みたいになってるぞ」
「これに書いてあるの、読んだだけ」
「なんで住居に案内板があるんだよ。しかもそれが古くて朽ちかけで
もとに描いてあった絵が軽くホラーじゃねえか」
「ね、ウケるでしょ、カリンち。小学生のころかくれんぼして、
まだ見つかってない子がいるんだ」
「おいおい、そういうのあんまりやりすぎるなよ、住んでる人が
いるんだから。笑えないだろ」
「え……?」
あらやだ、白石の目が普通だ。冗談でも嘘でもない。
マジで?
そんな全国区レベルの心霊スポットなの?
思わず白石の手を握っちゃったけど、これが狙いじゃないよな?
「ほんぎゃわぁぁぁーーーー‼」
「な、なんだ⁉
この二頭のアザラシがダンスバトルしてるみたいな悲鳴は?」
「こっちだよせんせー、行こう」
「え、行くの?」
正直、処刑人の記憶がリフレインしてきて膝が笑ってる。
白石が俺と腕を組んであきれ顔。
「だいじょーぶだって、ここちょっと雰囲気あるだけで何にも
ないから。あー……でもアレは……いやちがうか……」
「お前、わざとやってるだろ⁉ やだ、引っ張らないで、
俺、ホラゲーだけはダメなの!」
白石に引きずられるように洋館の中へ。
ギイィィィ……と扉が開くアイキャッチ。
「こ、こここコーイチ君、助けて」
菜穂さんが床を這うように、腕を怪我してるわりには素早く寄ってきて、
俺の腰にしがみついた。
白石がすかさず蹴りいれてるけど気づいてない。
その視線の先には……
チェーンソー持ってフェイスガードとレザーっぽい素材の
エプロンした長身の……たぶん人。
エプロンには謎の液体が飛び散ってる。
「菜穂さん、放せ、逃げられん」
「なにそれ、置いてくの前提⁉ 最低だよ、コーイチ君」
「カリンママじゃん、それアレ?」
「ええ、そうなのよ、ちょっと驚かせちゃったわね。
お客さんが来てるのは知ってたんだけど」
フェイスガードを取ったらCGでカリンの年齢を進めたような
顔した女性。身長はだいぶ高いな。
ほう、髪を伸ばすと清楚系美人になるのか。
ちょっと目が合うだけですごい緊張する。
いや、生徒の保護者なんだから緊張して当然だけど。
「は、はじめまして、カリンさんのクラス担当、瀬名浩一です。
本日は突然、お邪魔してしまい──」
「知ってます。ふぅん、あなたが白石ちゃんに告白したっていう、
愛に溺れた憐れな教師なのね」
俺が白石を見ると、さっと目を逸らしやがった。
カリンママが俺を値踏みするように見てるだろうが。
なんでチェーンソーを持ったまま近づいてくんだよ。
「あなた、カリンにも何かしてるわよね? あの子、最近、様子が
変わったもの。人生に目標が見つかったみたいなのって、
誰かさんの影響かしら?」
「カリンさんは自分で目標を設定できる自立心のある生徒です。
カリンさんの話をよく聞いて、目標を共有できたなら、
どうか惜しみない援助をしてあげてください」
白石、菜穂さん、なんでそんな意外そうな目で俺を見る?
教師の仕事は好きだって言ったよな?
「その口ぶりだと、あなたはカリンの目標が何か、知ってるのね。
私でもお父さんでもなく、あなたに最初に相談したのね」
「学校の進路相談ですよ? 普通のことです」
「どうかしら? あなたの今の状況を見ると、どうにも信じられない。
二人も女の子掴まえて、あなたまさかカリンにも──」
「ママ、何やってんの⁉ さっきのアシカのファミリーがロックに
目覚めたみたいな声なに?」
「ねえコーイチ君、私そんな声してる?」
「ちょっとだけ……」
カリンがエントランスの階段を下りてきた。
すげーな、洋館バフ。
カリンでさえ一瞬、お嬢様に見えた。
ジャージだけど。
「セナコー、ママになんか言われた? 気にしなくていいよ。
それキャラ作ってるだけだから」
「カ、カリンちゃん、先生になんて口きくの⁉ 謝って!」
「うっさいな、先生が来るって言ったのに、なんでしいたけの原木
切り始めるんだよ。菜穂さんもびっくりしてるし。
この家、不気味なんだから誤解されるようなかっこすんなって言ったよね」
「ご、ごめんなさい。カリンちゃんがものすごく懐いてる先生だから
嫌われたくなくて、いろいろ考えてたらパニックになったの」
「な、なついてねーよ。ほら、みんな上がって。セナコーにも
話、聞きたいし。ママ、紅茶とコーヒー両方」
「はーい。ママも参加していい?」
「しいたけの原木切ってろ」
「カリンママ、ドンマイ。カリン、照れてるだけだから。
私のコーヒーにはミルクと砂糖ね」
「ありがと、白石ちゃん。大丈夫、わかってるわ」
「菜穂さん、立てる?」
「足がまだ……」
白石と二人で菜穂さん支えてカリンの部屋に行った。
思ったよりファンシー。今どきのっていうより、レトロポップな
雑貨や家具で統一されてる。
「カリンは少女漫画なんて読まないと思ってたけどな。しかもちゃんと
巻数が順番になってる」
「カリン師はマンガマイスターだよ。私にもすすめてくれて、
昨日、感想を言い合ってるうちにここに来ることになったの」
「師?」
「なんのマンガ? なんのマンガ? 私も読みたい」
「ネトゲの嫁が──」
「わかった、言わなくていい。それでなんでここに来ることになるんだ?」
「いやね、主人公がギルド会計の粉飾決算を疑われて、融資を約束してた
ギルドから同盟を破棄されるんだけど──」
「なんて?」
「つまんなそー」
「とにかく! シチュがちょっと今の私と似てるの。それで考えたんだ。
シーマを発表した時点で杏奈は後戻りできない。なのに、私を好きに
させておくかなって。ぜったい動きを封じてくるはずだと思ったの」
「杏奈さん、見るからにデバフキャラだもんな。実際、その通りだ。
業務上横領で警察が動いてる」
「あのクソ眼鏡。あ、ゴメン。でもまいったな、横領って言われたら
横領ってことになっちゃうんだよね」
「シマナツは会社で所有してるんだったな」
「それだけじゃない、コーイチ君の家に運んだPCも。なんなら
守護天使だって会社の資産だよ」
「うわ~~、よくわかんないけど、菜穂さんまっくろだ」
「そうなんだよね~。こればっかりはシーマの危険性を訴えたって、
何の関係もない。まったくヤなとこ突いてくるよ」
「そういや、フェイク動画作るってあのウザいおじさんに会いに
行ったんじゃなかったっけ? なんでケガして帰ってきてんの?」
俺と菜穂さんはそっと目線を交わす。
関谷さんの事件自体は報道されてるけど、俺や菜穂さんの名前は
出ていない。ひとまず事件とは無関係だから。
とはいえ残虐な手口ゆえに注目度は高く、関われば身の危険だけ
ではない。社会的に追い詰められる可能性もある。
菜穂さんもそれはわかってるから話さない。
「ああー、今なんかヤラシイ合図したー。なに今の?」
「ちょ……菜穂さん、うちでそういうの困る。
セナコーの家に帰ってからヤってくんない?」
「カリン、字が違うぞ。カタカナで言うな。しかし、そうだな……
フェイク動画を作るのは難しくなりそうだ」
カリンのベッドに部屋の主みたいに座ってた菜穂さん
──この人どこ行ってもそこが自分の家みたいな顔してるよな──
が、耳元で指を鳴らしてる。
考えてるときの癖かな?
「いや、関谷さんには悪いけど、この事件はうまくすれば
フェイク動画より効果があるかも」
一気にカリスマ社長の顔。
そこに利益があるなら人の死だって利用する、冷徹な目だ。
決してクールじゃない。
悪魔が好みそうな貪欲。
こうなっちまうと、誰も声をかけられないんだよなあ。
彼女の時間を奪うことが取り返しのつかない損失になる気がして。
それって俺たちみたいな凡人には恐怖なわけで……。
読んでいただき、ありがとうございます。
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