第九十六話 容疑は業務上横領
……神の話題でちょっと脱線した。
モニターを見てると俺たちの話に反応して増減するような
タイミングもあって、わりと怖い。
「……で、結局これは何をしてるの?」
「ん? まあ、簡単に言えばシマナツの夢っスかね」
「そういえば夢見るんだっけ。夢見るAIかぁ~~、
クロノトリガーっぽい。ちなみに今はどんな夢を?」
「わかんねっス」
「わからんのかい。じゃあ何でずっと見てるの?」
「経験っス。覚醒時の対話と分析、解析をずっとしてると、
この文字列のパターンや速度でなんとなく、今シマナツが
どんな感情かなってわかってくるっス」
「ほうほう、では今はどんな感じなの?」
「それが、わかんないっス」
「シュウちゃんって意外とポンコツ?」
「意外とってのが意外と嬉しい……じゃなくって、う~ん、何て言うか、
シマナツの一番ヤバいとこは
人間の無意識に相当する部分があるってことで、
ここで言う夢はその無意識とのデータのやり取りなんスよ」
「AIに無意識か。もはやファンタジーだな。ユング心理学とか
適用できちゃったりして」
「それ、冗談じゃないっスよ、先生。守護天使が入ってから夢の中で
対話に近いパターンが増えてる。トサカは無意識のデータが整理されて、
いわゆる原型に近いものが生まれつつあるんじゃないかって」
「シマナツってもしかして危険なものなのでは?」
「今さらっス。先生はどんな情報をどれだけ蓄積してるか、自分でも
把握できてない情報の怪物と毎晩イチャるすしてたわけっス」
「とんだヘンタイ野郎だな。そりゃみんな俺を狂人扱いするわけだ」
「そっスね。ぶっちゃけ私も最初、シマナツと普通に喋ってるの見て、
ヤベー、こいつと話したくねーって思ってたっス」
「知らぬが仏だ」
「ほんとに仏になんないでくださいね」
これは冗談じゃない。シュウちゃん、真顔。
群道君、関谷さん。シマナツとの直接の関係ははっきりしないが、
すでに二人も死傷者が出てるんだ。
空気が沈んだとこでいきなりシュウちゃんが舌打ち。
こういう空気はダメですか?
「あ、ごめんなさい。これ悪い癖、直さないとなんスけど。
今のこのパターン、あ、もういっちゃったか……。
その、私にはたまに怖がってるように見えるんス」
「怖がってる? って夢の中で?」
「ええ、まあ。トサカは守護天使の入った新しい環境に対する
軽い拒絶反応だって言うんですけど、私にはどうもそれだけじゃ
ない気がするっス」
「本人に聞いてみたら? どんな夢を見たのかって」
「それが、覚えてないって。このログをシマナツ自身に解析してもらう
ってのが一番早いんスけど、今はまだ稀にしか出ないので、
本人が夢の形で思い出せるまで様子を見てるっス」
「そうだなあ、それがシマナツにとっての悪夢なら、
悪夢を追体験させることにもなりかねない。難しいとこだな」
「まったくっス。ほんと、ますますAI相手に仕事してる気分じゃ
なくなってくるんスよねえ」
「しばらく一緒に見てていい? それが出たら教えてくれ」
「虚無の夜を共に歩む同士はいつでも歓迎っスよ。
このモニターを流れる星々に身を任せるっス」
「いいねえ、シュウちゃんとならどんな悪夢も怖くない」
「そういうの菜穂さんの前では言わんでくださいよ、殺される」
「そ、そういう感じじゃないだろ、菜穂さん……」
「本性を知らないだけっス」
怖いこと言うなよ、俺が悪夢を見るだろ。
オタクってのは語り合うのが好きなので、数時間はあっという間。
シュウちゃんの言ってたパターンは出なかった。
シマナツが悪い夢をみませんように。
────────────
いやまいったな、これ。
何年かぶりに車運転して迎えにきたのに、菜穂さんいない。
代わりに警察がいてビビった。
昨日の刑事さんの話で、いきなり怖いのが来たのかと。
でも、俺じゃなく菜穂さんに、だった。
容疑は業務上横領。シマナツだな。
逮捕状が出る段階ではなく、任意同行だそう。
でも、逃げたと取られたら逮捕状出るよな。
とりあえずシュウちゃんに連絡。
「逃げたぁ⁉」
「……かどうかはわからんが、いない。シュウちゃんごめん、
そっちからも菜穂さんに連絡してみてくれ」
「まったく何考えてるんスかあの人は。状況悪くしてんじゃねえよ!」
なんか投げたな。
んで、トサカのうめき声が聞こえたな。
そっと電話を切ろう。
車に戻ろう。
ドア開けた瞬間、白石に威嚇されるのは諦めよう。
「あれ? 菜穂さんは?」
「今朝、勝手に退院したってさ。お前、今のけが人相手に
やるつもりだったの?」
「戦いだからね、容赦はしないよ。ましてやせんせーと二人きりに
なろうなど、コンゴ横断」
「訂正はせんぞ。自分で調べなさい。しかし、どうするかな。
俺のとこにも連絡ないし、探そうにも……」
「いいじゃん、大人なんだし、ほっとけば? せっかく
日曜日空いたんだしデートしよ?」
「腕の骨が折れてて、警察に任意同行を求められてる大人だ」
「わあ、漫画みたい。捕まえたら賞金出る?」
「捕まえる側なのか⁉ マジで容赦ないな。その徹底ぶりを勉強に
いかしてくれると先生はとても嬉しい」
「二人っきりのときにそういう話はやめて……」
「むしろそれ以外なんの話をしろと? お前もそろそろ志望校くらい
出さんか。カリンも村瀬も出したぞ?」
「知ってる。カリンは音大。両親ぜったい説得するって。
村瀬は杏奈さんの行った大学。アドバイスもらったって。いつの間に?
この流れだと私は菜穂さんの行った大学?」
「今のお前の偏差値じゃとうてい不可能だ」
「うっそ⁉ あの人そんなに頭いいの? ねえせんせー、頭いい女って
浮気する率高いんだよ。いま考えた。
あぁ~~、アホなのやっぱ私だけだ~~」
「白石は考えは足りないが決して頭は悪くない。自分の強みを生かせ。
あとちょっとは偏差値上げろ。選択の幅が広がる」
「進路相談なんて頼んでない! 私の強みってなに?」
「さあなあ、苦手科目の数学をがんばればわかるかも」
「あー、せんせーが私を怒らせて気を惹こうとしてる。そういうの
やめてよね、すぐ噂になるんだから」
白石のこういうところに普通に笑うようになってる。
これなんだよ、白石。
白石は人に好かれる。一緒にいるだけで楽しくなる。
教師やってるとわかるが、こういう生徒は二種類いて、
自分の魅力をわかってるのと、わかってないのにそう振舞える生徒。
どっちもリーダーの資質を持ってる。
「さて、と。ここで待ってても戻ってきそうもないし、帰るか。
シュウちゃんたちに昼食でも買ってってあげよう」
「はい! ピザBENTOがいいです」
「お前は帰るんだよ、家まで送ってやる」
「じゃあ、お昼うちで食べてけば? みんないるし」
「さらっと地獄に誘うな。DOOMかよ。お父さんいたらどうすんだ」
「いるよ? せんせーならすぐ仲良くなるって」
「グローリーキル確定だわ」
静かな攻防戦を繰り広げてたら白石のスマホが鳴った。
取り出してメッセチェックするの、すごい早い。
武器交換速度MAXか?
なんだよ、白石がすげーいやらしい笑みを浮かべるじゃないか。
「ふふ~ん、私、菜穂さんの居場所わかるかも?」
「なにぃ⁉ 今の連絡か? どうやってわかった?」
「女子高生の情報網、舐めんなよ。知りたい?」
「もちろんだ。菜穂さんは無事なんだよな?」
急に白石が真顔。
十代の女子の何が怖いって、こういうとこが怖い。
笑ってたと思ったら急に怒ったりするのが。
「ねえ、せんせー、私に何かあったときもそういう顔する?」
「ど、どんな顔してる、俺?」
「好きな人を全力で守るぞ! って顔」
少なくとも白石には今の俺がそう見えるんだろう。
そりゃ必死にもなるよ。
向こうでもこっちでも、人が死ぬとこを見てきたんだ。
全力でも、ぜんぜん足りなかったんだ。
「白石、『フェアウエル』のときに俺の家で襲われたよな?」
「……うん」
「そのことに気づいて、学校から走って帰ったときは、
こんなもんじゃなかったよ」
うまく逃げたつもりだったが、回り込まれてしまったな。
引き合いにだした状況が違いすぎたか。
まだ少し不満そうだが、失望はさせなかったってとこ。
「そうだね、あのときせんせー来てくれて、嬉しかった。
うん……そうだ、そうだよね。よし! じゃ、行こっか」
「どこか教えてくれ」
「ん? カリンち」
カリン値? 何のステータス?
いやちがう、カリンの家だ。なんで?
業務上横領の容疑をかけられて病院から脱走した菜穂さんが、
なんで俺の生徒の家にいるわけ?
読んでいただき、ありがとうございます。
まだまだ手探りで執筆中です。
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