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第九十五話 ゲームを生み出したのは宇宙史に残る偉業だろ?

 刑事さんが帰ってからも、俺は座ったままぼんやりしてた。


 まあ、群道君の怪力や三階から飛び降りても平気なのを見て、

 そうじゃないかなとは思ってた。


 前はアモンだったし、今回は誰だ?


 安奈さんと群道君が操られてるって考えるなら、

 やっぱりあいつだよなぁ。


「……ネルガル」


 つい口に出しちゃったけど、名前を言うだけで怖い。


 俺もやられそうになったからわかる。

 ネルガルの力、魂の掌握。


 身体が凍っていくように冷えて、自分のものでなくなっていく

 あの感覚は疑似的な死だ。


 安奈さんもあれをやられたのか?


 でもなぜ? どうして安奈さんを?

 そもそもゲヘナ・レグルスの連中はこっちに何しに来てる?


 メッセージも謎だ。

 お前がエリンか、だって?


 何言ってんだ、バカが。エリン様はこっちにはいない。

 今は向こうに戻って…………


「……俺か? 俺を追ってきてるのか?」


 いやいやいや、飛躍してるぞ。

 なんで俺なんか追ってくるんだよ。


 斎藤先生に取りついたり、安奈さんを操ったりして、

 それでどうなるってんだよ。


「……もしかして、わからない? 誰がエリン様と入れ替わってるか、

あいつらはわからない。なのに俺……」


 あいつらの前でエリン様の力を使っちまった。


 急にフロアの隅の暗がりが怖くなって、明るい自販機の前に移動する。


 ビビるなよ、そうと決まったわけじゃないだろ。


 でも……


 でもだよ? あいつらの狙いが俺だとしたらアモンのときも、

 関谷さんのことも、俺のせい?


 あ、ダメだ、こういうとき一人でいたらダメだ。


 思考がどんどん悪いほうへ転がってく。

 自販機の前で頭抱えてうずくまってる。


「俺が死んだら、エリン様はどうなるんだ? 影響あるのか?

……くそ、わからねえ。こんなの聞いてねえぞ。

あ~~もう、ヘンに考えすぎだ。俺は巻き込まれただけ、

ゲヘナ・レグルスのやつらだって別の目的があってこっちに……」


 こっちに来てる……。


 ふと気になって、スマホで調べてみた。

 『アモン』って名前の悪魔。


 まさかとは思ったが、ヒットした。

 地獄の大侯爵。詩作を好むって、そのまんまかよ。


 俺はメガテニストだから悪魔にはそこそこ詳しい。


 断言できる、アモンなんて悪魔はいない。

 ……いや、いなかったはずなんだ。


 なのに、こっちの世界でもずっと昔から存在してる。


 俺の世界が変わってきてるぞ。

 俺とエリン様が入れ替わることで。


 エリン様はどこまで把握してるんだ?

 それとも、なんとも思ってないのか……


「……この世界のことなんて」


 伝えるべきなのか……そして、言うべきなのか。


 できるなら、もう入れ替わるのはやめろと。

 こっちの世界が壊れてしまう前に。


 エリン様がなぜ俺と入れ替わるのかもわからないのに、考えすぎか?

 全部、想定内かもしれないじゃないか。


「想定内なら何なんだ。人がもう死んでるんだ」


 暗闇に向かって話しかけてる。


 まったく悪魔ってやつは人を操るのがうまい。


 あの短いメッセージだけで俺はエリン様への不信感と、

 自分で勝手に想像した恐怖でパニックになってる。


 サタニックパニックかよ。


 立ち上がってまっすぐ前を見ろ。日付が変わる前に家に帰れ。

 悪魔がいようがいまいが夜は深まり、やがて朝がくる。


 いま自分にできることなんて大してないんだから、悩んでも無駄。


 それに……向こうに行けなくなったら、もう会えなくなる。

 それは嫌だ。


 これも口に出して言っておく?


「絶対に嫌だ。必ずまた会いに行く」


 はい、恥ずかしい。


 ────────────


 日付が変わる五分前には我が家に到着。

 ぎりぎりミッション達成。


 明日はまだ日曜日だし、白石たちが泊まっていったりしないか

 心配だったが、みんな帰ってた。


 偉い!


 台所ではシュウちゃんがモンエナ片手にモニター見つめてて、

 トサカはソファで寝てる。


 この二人ずっとこんな調子でシマナツと守護天使を

 モニタリングしてて、だんだん顔がゾンビみたいになってってる。


 そしてテンションだけが上がっていく。


 労働監督局に通報すべきか?


「君たち親を人質に取られてるとかじゃないよね?」


「は? 何がっスか? あれ、先生じゃないっスか。本物?

さっき不思議な踊り踊ってたのとは違うっスよね?」


「幻覚見えてんぞ、少し休め」


「それ言うなら先生もでしょ。ヤバいことになちゃったっスね」


「ああ、まさかあんなことになるなんてな……。

白石たちは知らないよな?」


「言ってないっス。村瀬さんが何か勘付きそうだったんで、

さっさと帰らせたっス」


「すごいな、あいつらを素直に帰らせるなんて。どうやった?」


「焼肉おごるって約束したら秒で消えました」


「それ、誰がおごるの?」


「え……?」


「え……?」


 なんでそっちが聞いてない……みたいな顔すんだよ。


 教師が薄給とは言わないが、教材費の持ち出しとか妙に高い

 組合費とかでわりと削られるんだぞ?


 教師ってお金の話になると泣くぞ?


「冗談っスよ。いやぁ~~、先生のそういう顔、最高っスね。

菜穂さんが好きんなるわけだ。大丈夫、私持ちっス。先生の分もね。

舐めてるわけじゃないけど、たぶん倍は貰ってるんで。

ま、このままいくとそれもなくなりそうっスけど」


「俺もいいの? マジ?

シュウちゃん、今日のカチューシャ最高にかわいいよ」


「自慢の一品っス」


 俺はシュウちゃんの隣に座って一緒にモニターを眺める。


 高速でスクロールする文字列。

 何が起こってるのかさっぱりわかりません。


 ウォッチドッグスやったくらいでハッカーになれると思うなよ。


「……カナンには残らないの?」


「う~~ん、シーマが発表される前まではそのつもりでしたよ?

けど、今はもういいかなって感じっス」


「杏奈さんが許せない?」


「そんなことないっスよ。菜穂さんのやり方に不安があったのは

私も同じだったし、気持ちはわかる部分もあるっス。

ただ私にはやっぱり、安奈さんと菜穂さん、二人揃っての

カナンだったのかなって……」


 意味もなくマウスいじくってる。

 口では何と言っても、やっぱり不安なんだろうな。


「守護天使はどうなの? ビジネスとして」


「難しいですね。そもそも現状では守護天使が有用とされるのは

シーマくらいでしょうし。こんなウイルスみたいなもの自社のAIに

かませるなんて、フアンもサムもアルトマンも許さないっス」


「後の二人は同じ人じゃない?」


「ま、実験としては面白いので価値がないとは言わないけど、

実用化は期待できないっスね。ただ、これが実用化されないほうが、

AIにも人間にも幸せなのかもしれないっス」


「AIが道具であり続けるほうが幸せってのは人間の視点だよ。

AIの幸せをAIが定義するときが否応なしに来る」


「それはそう。今まさに、私たちは人類の知的生命体としての

地位を脅かしてるんですが……」


「え? これそんな大変なことになってんの?」


 俺はモニターに顔を近づける。ついでにモンエナも貰う。


「何してんスか?」


「人類の危機を少しでも読み取れないかと……」


「人類の危機……ねえ。そんな大したものでもないっスよ、

人類の知的生命体の地位なんてものは」


「そうかな? ゲームを生み出したのは宇宙史に残る偉業だろ?」


「ときどきバカんなるの嫌いじゃないっス。私らみたいなのには

けっこういるんスよ、進化したAIが過去に干渉して人類を生み出した

って本気で信じてるのが」


「おお、いいね。科学に夢を見た時代の考え方だ。

核が夢のエネルギーとか謳ってたころのさ」


「そう考えるとだ、セナコー助手よ、

我々が今なにをしているかわかるかね?」


「はっ、シュウちゃん博士、我々は今まさに、

神の誕生に立ち会っているのであります」


 なんかすげーだらしない感じで笑いだして、

 笑いだしたら止まらなくなった。


 あれ? モンエナってそういう成分入ってないよね?


 きっとシュウちゃんのテンションに引きずられたんだな。


 だって神だよ?

 シュウちゃんはそうやって果てしない作業を楽しんでるだけ。


 俺は……


 異世界で神の身体で地獄を統べる悪魔と戦う俺は……


 ねえ? 神だってさ……ははは。


 ……まさかね。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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