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第八十六話 カナン……約束の地って意味

 マジなんなんだ、このイケメン?


 寝不足で目をこすりながら出勤してみたら、なんかいるし。


 早く学校に馴染みたいとか言って、まだ正式な赴任前から

 学校に来るとか優等生アピがキッツイ。


 仕事が楽しみって宇宙人かよ。


 デスクが隣だからってやたら話しかけてくるの、前任の斎藤先生と被る。


 斎藤先生は暑苦しくてウザかったけど、こいつは爽やかすぎて

 俺のような陰の者を周囲の空気ごと浄化しにくる。


「あの、相馬先生?

本当にいいんですか、午後の授業入ってもらっても。

確か、古文が担当でしたよね?」


「呼び捨てでいいですよ。後輩ですし」


「いや、そういうわけには。あの、相馬先生、私の机に何か?」


 デスクに手をついて俺のほうに身体を傾けてくる。

 明確な領土侵犯。


 ……にしても、顎とか鼻のラインがクロムに似てるな。

 髪とかサラサラでいい匂いするし、女子か⁉


 要するに非人間的美形。


 徹夜明けの俺なんぞ微笑み一つで消し飛ばせる性能。


「じゃあ、僕は先輩って呼ばせてもらいますね」


「何がじゃあ、なんだよ。話通じてんのかお前国語の教師だろ」


「世界史も得意です。今日やる範囲を教えてもらっても?」


「あ、ああ、教科書は……私のでいいか。セルジューク朝の勢力拡大は

十字軍遠征に繋がるので、ここは地域より年代を重視して

ヨーロッパ、中東を並行して進めてます」


「文化の衝突と交流。歴史のダイナミズムですね。

フェデリコ二世の十字軍には触れるんですか?」


「そこはフリードリヒ二世で。面白いし、やりたいけど正式に

十字軍と認められてはいないしね。時間があったらってとこです」


「ふふ、相変わらず歴史がお好きなんですね」


「相変わらず?」


「ああ、いえ、なんでもありません」


「あの……顔近くない?」


「そうですか? 僕は誰ともこのくらいの距離感ですね」


 死ぬわ。

 女子とかキュン死だわ。


 おい、マユちゃん、いま撮っただろ⁉


「で、ではそういうことですので、よろしくお願いします。

私は午後から用事で外出しますので、何かあったら指導教官に……」


「外出されるんですね。ご一緒しても?」


「俺の代わりに授業するやつが一緒に来たら誰が授業すんだ?」


「あはは、先輩、素だと一人称、俺なんですね。かっこいいです」


「あ、ありがとう?」


 こいつとはできるだけ距離を置こう。

 きっとあれだ、サイコパス的なやつだ。


 俺の隣、そんなんばっかかよ。


 でも歴史には本当に詳しかったな。


 なんにせよ徹夜明けに顔良すぎサイコパスの謎の詰め寄り、

 および午前の授業でさすがに疲れ果てた。


 おかげで迎えに来た菜穂さんの車に乗った途端……


「顔が死んでるんだけど?」


 これですわ。


「誰のせいだよ?」


「コーイチ君のせいだよね。徹夜でシマナツと遊ぶとか……

子供か。私を起こさなかったのがさらに許せん」


「子供か」


「シマナツは?」


「ぐーすか寝てるよ。授業中いびきが聞こえるんじゃないかって

ひやひやしてた」


「呑気なものね、これから自分がどうなるかわからないってのに」


「そっちはどうだったんだ? 会社が買収されるってわりには

ずいぶんのんびりしてるように見えるけど」


「ま、今さらどうにもできないからね。ただ驚いたのは、

安奈のサイドにも知らない人たちがいたってことかな。

シュウちゃんとか、すっごい動揺してた」


「杏奈さんの独断専行だった?」


「まさか。シーマは一人じゃ開発できない。少なくとも、開発に

直接携わったメンバーは知ってたはずよ」


「杏奈さんには会えないのか?」


「向こうはメディア対応で忙しいから。特番とか組まれてるし。

ただ、一部では私が姿を見せないことで憶測が広がってる」


「革新的スタートアップの創業者が対立。ありがちだけど面白い」


「悪かったわね、ありがちで。でもほんとわかんないなー、

杏奈が何を考えてるのか」


「カナン……約束の地って意味だっけ?

三人にとって大事な場所なんだろ? 安奈さんがシマナツの

危険性を無視しなかったのはカナンを守りたかったからだ」


「結局、売り払ってるじゃん。誰から何を守ったのよ、あいつ」


「菜穂さんから? 従業員を?」


「ハンドル握ってなきゃ殴ってる」


「すんません。けど、俺には安奈さんが自分の利益のためにカナンを

売ったとは、どうしても思えない。

そうしなきゃならない理由があったんじゃないか?」


 赤信号で止まってる間、菜穂さんがジト目で俺を見てくる。

 なにその疑いの視線。


「なんかさ、コーイチ君、すげー安奈の肩持つじゃん。

……ヤった?」


「菜穂さんは俺をなんだと思ってるの?

自慢じゃないが、俺は教師って役割を纏わないと女の子の

目を見て話すこともできない」


「あはは、そういう男ってクッソスケベだよね。

いやいや、そんなん信じられるかい。私と初対面でヤったことは

なんだったわけ? 目を見るどころじゃないっしょ」


「信号、青」


「あいよーっと。ん? ちょっと待って、曲がるの次じゃない?」


「ああ、だいじょぶだいじょぶ、まっすぐ行けば合流できる」


「コーイチ君ってわりと方向音痴だよね。よく誤誘導された」


「なんだよ、よくって。地図見るのが苦手なだけ」


「それを方向音痴って言うの。ねえ、この会話、二度目だよ」


「ええ? ナビしたのなんて初めてだろ……あれ?

俺もなんか覚えがあるわ」


「ふふふ、真実にだいぶ近づいたね」


「なあ、俺たち、ホントに前にどこかで会ったことある?」


「さあー、どうでしょう。ヒントは出してくけど、

答えには自分で辿り着いてね。それからちゃんと付き合おう」


「答えに辿り着かんでもよくなった」


「こ、こいつ、そんなに白石ちゃんが大事か」


「ちげーよ」


「じゃなに? 他に好きな人でもいるの?」


 なんで黙っちゃうかな、俺。

 こんなの、はいそうです、て言ってるようなもんだぞ。


「うわ……マジのやつだ。誰? 付き合ってんの?」


「そろそろ到着です」


「ごまかした! あやしい~、小学生とかじゃないよね?」


「菜穂さんは俺を何だと思ってるの?」


 菜穂さんが気まずそうに言いよどんだ。

 ホントに何だと思ってるの⁉


 なんて言ってる間に群道家に到着。

 築年数が俺んちに近くて安心感ある。


 インターホン鳴らして菜穂さんが名乗ったら、すごい勢いで

 ご両親が揃って玄関ドア開けに来た。


 菜穂さん、VIPかよ……

 と思ったらなんだ様子がおかしい。


「隆が見つかったんですか⁉」


「え?」


 いきなり軽く事故ってる。

 こういうときのサポート枠だよな。


 保護者対応用の生真面目教師ペルソナ起動だ。


「すみません、私たちは群道君と杏奈さんのことについて

お話を伺いに来たのですが」


「え? あ、あなたは……?」


「初めまして、瀬名浩一と申します。社員の安全性を高める

アドバイザーとして、今回同行させていただきました。

それで、隆さんが見つかったか、とはどういうことでしょう?」


「杏奈さんから聞いていませんか? 先日、病院から姿を消したんです。

それまで意識のない状態だったのに、忽然と」


「警察には?」


「杏奈さんが。大変な時期なのにわざわざうちまで来てくださって」


「そうですか……。

私は今、事情があって杏奈とは連絡が取れていないので」


 菜穂さんが最初の混乱から立ち直った。


 それから少し、群道君の消息について話してたが、

 もちろん菜穂さんが知るわけもない。


 意外だったのは両親の二人に戸惑いや不安はあっても、

 怒りはなかったことだ。


 菜穂さんを責めなかったし、安奈さんには終始感謝していた。


「恥ずかしながら、私らではあの子の言うことを半分も理解して

やれなかった。周りにもなじめなくて、将来が心配で見当違いの

叱り方をしてしまったこともありました。

ああ、こちらがあの子の部屋です」


 AIの開発に携わってるっていうから、ごっついPCとか

 あるんだろうなと思ったらノートPCのみ。


 文学の研究でもしてんのかってくらい本がある。

 コミュニケーションに関する本ばっかり。


「群道君らしいね。あの子はコミュが苦手っていうか、

みんなと同じにはできなかった。だからこそ、コミュをフラットに

論理的に分析できた。たぶんあの子のコミュの感覚は

私たちよりAIに近かったと思う」


「杏奈さんと出会って、カナンで働くようになって、隆は

毎日が楽しそうでした。私たちにもわかるように話す努力を

一生懸命してくれるようにもなって……」


 部屋を見回して俺が最初に気になったもの。


 それはノートPCの横に置かれた日誌だ。


「これ、見せてもらってもいいですか?」


「もちろんです。杏奈さんも見てましたよ」


 裏表紙が上を向いてる。

 安奈さんは後ろのほうを見て日誌を閉じたのか。


 素直に最後のページを開いてみた。


 ある程度は予想してたけど、これはまともじゃないね。


『AIが人の良き友であるには神になる必要はない。

それならそんなAIの良き友であるには、人は?』

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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