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第八十四話 シーマとは違うのだよ、シーマとは。

 菜穂さんが俺の家に飛び込んできて、シマナツと二人して

 わんわん泣いて、互いに謝りあって三十分。


 ちょっと落ち着いてコーヒー淹れたころに、

 コンビニで大量のお菓子を買った村瀬が戻って来る。


 無邪気な新商品食べ比べが始まって、一通りランキングして

 話が弾んで、ふいにみんな押し黙る。


 今ここ。


「SHIIMAのことだけど、菜穂さんはあれを──」


「当然、知らなかったわ。杏奈の開発してるAIがあそこまで

完成してるのも知らなかった。たぶんこれ、だいぶ前から

ニグと話が進んでたんだと思う」


「そこんとこ、どうなんだ? シマナツは知ってたんじゃないか?」


「ニグとどんな話になってるかは知らないよ。ただ、シーマの

ことは知ってた。プレゼンで私が発表するはずだったの」


「杏奈がプレゼンでやらせようとしてたことってそれ?

シーマが自分で自分をプレゼンしてたじゃない。

シマナツがやる必要あった?」


 シマナツは黙って首を振る。


 困惑した表情を、まだテレビに映ってるシーマと比較しそうになって

 テレビを消した。


 そして、俺がテレビを消した理由を察して、口だけ動かして

 ありがと、と伝えてくるのがシマナツだ。


 シーマとは違うのだよ、シーマとは。


「……あのね、違うんだよ。あれは私が知ってるシーマじゃない。

シーマはあくまで私のフィードバックを受けて、

安奈の作ったAIだった。でも今見たあれは──」


「シマナツから四十万夏実の情報を消した汎用AI。

つまり自律しないシマナツ」


「コアの問題はどうなった?

それには杏奈さんも触れなかったんだろ?」


「何らかの方法でクリアしたと考えるしかない。少し見ただけで

断言はできないけど、シーマはシマナツに近い性能を持ってる。

それはシマナツのコアの解析なしには実現しないって、

杏奈自身が言ってた」


「でも、コアの解析は危険なんですよね?」


 黙って俺たちの話を聴いてた村瀬が唐突に発言。


 菜穂さんが面食らってる。


 そりゃそうだ。完全に部外者だからね。

 まあ、俺もなんだけど……。


「えっと、ゴメン、あなたコーイチ君の彼女の友達、だっけ?」


「さらっと白石を彼女にすんな」


「村瀬だよ。私とも友達になった」


「あらそうなの? ありがとう、シマナツと仲良くしてあげてね」


「お母さんですか。コアの解析が危険ってどうしてわかるんです?」


「え? そりゃお前、そういう、専門的な……アレで、やべえなって。

ねえ、菜穂さん?」


「先生、動揺しすぎ。危険とわかっているのは、誰かが覗いたから。

そしてその誰かが、無事でなかったから、ですよね?」


「おおう、この詰め方、懐かしい。

村瀬っちは実は杏奈の腹違いの妹とかじゃないよね?」


「村瀬っちやめて、反吐が出る。

それなら考えられるのは、その誰かが安奈さんに見たものを伝えた」


「あ! 確かに、安奈さん、群道君の実家に謝りに行ったって

言ってたなあ」


「群道君?」


「コーイチく~ん、君は機密情報の管理がなってないな~。

セキュリティクリアランス下げるぞ♡」


「そんなもん、俺にあんのかよ?」


「あるんじゃない? 私を所持してるんだし。でもね菜穂、

村瀬の言うとおりだよ、群道君は私が寝てる間に何かしたんだ。

それは間違いない。それを誰かに伝えてても不思議はないよ」


「群道君は杏奈が連れて来たんだもんね……」


 菜穂さんが腕を組んで天井を見上げる。


 シマナツが腕を組んで天井を見上げる。


 村瀬はちょっといいポッキーひたすら食べてる。


 お、俺は、俺は、えーと、みんなにコーヒーを……。


「よし! 行くかー」


「そうだね、それしかないね。セナコーも、いい?」


「わかるように言ってくんない?」


「この流れだと群道君? に会いに行くという以外、ないですよ」


「いや、群道君には会えない、というか話せない。

なので杏奈が行ったという実家に話を聞きに行こうと思う」


「うん、行ってらっしゃい」


「コーイチ君も来るんだよー。私一人だと怖いじゃん」


「教師舐めてんだろ。授業の準備とかもあるんだが?」


「それ。私がカナンの取締役でいられるのも、先端教育プログラムの

期間までだよ。それが終わったらニグの役員がなだれ込んできて、

会社もシマナツも全部持っていかれる。急ぐの」


「急ぐったって、こんな時間からいきなり行って話なんて聞けるか?」


「だから明日だよ。こっちも、今日の発表で大騒ぎだろうから、

たぶん午後に迎えに行くと思う」


「午後……か。明日の午後は一コマだったな。

それが終わってからでいいか?」


「ちょっといいです? それって意味あるんですか?」


 村瀬が喋るとみんな黙るな。

 一番年下が一番影響力持ってない?


「意味は……あるよ?」


「そうでしょうか? シーマがシマナツのコアを模倣してるとして、

それが分かったって状況は変わりませんよね?

買収が阻止できるわけでもない。危険性を指摘するとして、

群道君とシマナツのことを検証できますか?」


「難しいだろうな。実際、俺も菜穂さんもシマナツと一緒にいて、

なんの問題もなかった」


「……公表、しようと思う。群道君のこと、シマナツのこと。

そうすればシーマの運用にストップがかかるかもしれない」


「菜穂さん、それじゃどっちにしろカナンへのダメージは避けられない」


「それでも、ニグのやつらに、安奈にシマナツを渡すよりはいい」


 ちょっといい感じだったんだけどな、シマナツと菜穂さん。


 シーマのことでお互いに慰め合って励まし合って、

 もう菜穂さんに返してもいいんじゃないかって思ってた。


 けど、安奈さんの名前を口にするとき、目から迸った怒りは

 シマナツを悲しそうな顔に戻しちまった。


「菜穂さんの覚悟はわかったよ。

でも今は、交渉のカードを増やすってことでいいと思う。

シマナツを菜穂さんの手元に残す交渉に使うためのな」


「セナコー……」


 菜穂さんがハッとして顔を上げ、申し訳なさそうに

 シマナツを手に取る。


 そうだ、目標だ。


 目標をどこに設定するかでまだできることはある。

 結局はシマナツをどうしたいか、だ。


 菜穂さんにそれを気づかせて、シマナツには感謝の視線を送られ、

 その向こうで思いっきり顔をしかめる村瀬。


 おい、何が不満だ?


「先生、話はまとまったみたいですし、私は帰ります。

駅まで送ってもらえますか?」


「お前、さっき一人でコンビニ行ってたろ。駅より遠いじゃん」


「送って、もらえますか?」


 圧マシマシ、語気強め。

 うん、イラついてる。


 すかさず菜穂さんがイヤらしい顔で寄って来た。


「なになに? 修羅場? コーイチ君、やっぱ村瀬にも

手を出してるの? 鬼畜~~。好きだぜ。

杏奈と同じタイプだから、雰囲気のある店でお花を贈るのがおススメ」


「あ~~、あのときの。杏奈、面白かったよね~。

『資産価値はないけど高価なものは女性の気を惹くのに

適していますね』だっけ?」


「ちょっとシマナツ、安奈のマネうますぎでしょ。

他にもなんかできる?」


 村瀬はモノマネで盛り上がる二人を無視してさっさと玄関へ。

 しゃーない、送ってくか。


 なんか話でもあるんだろうと思ってたのに、駅の近くに

 来るまで村瀬は無言。


 結構な遅い時間に、自宅近くの駅で、無言の女子生徒と

 並んで歩いてる教師。


 ねえこれヤバくない?

 なにか喋って! プリーズ!


「なんだ? 進路で悩んでるのか? そういうときは

なんでもいいんだ、頭に浮かんだやりたいことを口に出してみろ。

地球の海で泳ぎたい、とか言っても俺はちゃんと──」


 痛いってば。

 無言の村瀬が俺の脛を蹴ってる。ラッシュ。


 なんで?


「なんで?」


「なんで? わかんないの、このクズ教師。先生本気ですよね。

菜穂さんに本気ですよね? あんな大きなニュースになるんですよ?

先生にできることなんてあるわけないのに、

菜穂さんのためなら何でもするって顔してて……」


 襟を掴まれて、引っ張られて、顔が近い近い近い。


 ほんとなんで?

 なんで村瀬が泣きそうな顔してるの?


「サリちゃんどうするんですか? 本当に先生が好きなんですよ?

サリちゃん泣くのだけは、もう見たくないんです」


 あ~~、何か誤解させちまったみたいだ。


 確かに、最近サンクチュアリを守ったり、

 隣領の領主さまと会談したりで、自分のスケール感がバグってた。


 言われてみりゃ、世界的企業が進める買収劇に、一介の高校教師に

 できることなんてあるわけない。


 村瀬の言うとおりだ。


 一度、自分を、瀬名浩一を見つめ直すべきなの

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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