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第七十八話 いや、ビアンカ一筋

 何度でも言うぞ……


 落ち着け、俺。流されるな。


 恋人条件満たしながら恋人にしないクソ主人公どもを

 しっかりと心に抱くんだ。


 いっぱい見てきただろ?

 傷つけずにやんわりと突き放す残酷な手口を真似ろ。


「あのな白石、そのことなんだけどな……やっぱり

こういうふうに会うのはやめたほうがいいと思うんだ」


「うんわかった」


「え、わかったの?」


「せんせーがそうしたいんでしょ? じゃあそうする。

決めたんだ、これからはせんせーの言うことちゃんと聞く。

せんせーのしたいことをするの。本当の彼女として」


「おーい白石さん、それちょっと違うっていうか……」


「わかってる。なんでも言いなり、なんでもせんせー優先って

フェアじゃない。対等じゃない関係は続かない。

でも今はそうしなきゃなの。どっかのオバサンにせんせーを

取られて終わるなんてぜったいにイヤ!」


「オバサンはやめたげて? 菜穂さんまだ二十六……」


「九コも上じゃん⁉ そんなの先史時代だよ。

そりゃあ? そーゆーことは? 向こうのがうまいかもしんないよ?

でも私には育てる楽しみがあるっていうか、どうせ私もそうなるんだから」


 そこでガスコイン神父が一言。

《……貴様も、どうせそうなるのだろう?》


「おいガスコ黙れ。そうならねぇよ」


「導いてくれてるんじゃなかったの?」


「くっ……俺のアホ。いいか白石、俺と菜穂さんはぜんぜん

そういう関係じゃない。お前が気にすることじゃないんだ」


「つまり……先生はわたし一筋?」


「いや、ビアンカ一筋……」


「なぁんだ、想いは通じ合ってんじゃん。そだよね、

考えてみたら私たちにはきせー事実があるんだもんね」


「ないよ?」


 白石の余裕の笑み。


 え? まさかエリン様、白石にも……?

 白石が右手を差し出しただけで胃がキュウってなった。


 なに? なになに? 人差し指の爪だけやたらデコってる。

 重くない? 星とかハートとか盛りすぎじゃない?


「見ててね……」


 白石が集中すると、人差し指の爪が浮いて俺たちの周りを飛び回った。


 白石はうっとりと自分の爪を眺めてる。


「私たちの子供よ……」


「ぜったい違うと思う」


「もー、せんせーノリ悪い。ここは

──なら弟か妹を作ってやらなきゃな──

でしょーが。はい、言ってみて」


「んな無責任なこと言えるか」


「知ってる。せんせーは責任感強い。

だから私をこんなにした責任、とってよね?」


「そういうの、学校ではホントにやめてくれよ?」


「わかった。ここならいいんだね。これからも来るね」


「どうしてこんなことに……」


「見て見て、やっぱりこの子、せんせーの側だと元気いい。

私一人のときはデコったの重くてプルプル震えてるの。

それはそれでかわいいんだけどね」


 確かに、ハチぐらいの速度で飛び回ってる。

 その威力を知ってるからちょっと怖い。


 しかし、なんでまだこれができるんだ?

 ピンチで一時的にエリン様の力を付与しただけじゃない?


 譲渡なの?


「お前、自分の爪がこんなことになって怖くないの?」


「なんで? 私の爪だよ? 切らなくていいから楽だし。

せんせー、この子に名前つけてよ」


「爪に名前つけるとか、筋肉に名前つける類いのヘンタイだと

思われるだろタスクだな」


「なんでタスク?」


「爪弾って言ったらタスクなんだよ。必殺技みたいでかっこいいだろ?」


「う~ん、せんせーも男の子なんだね~。

私はかわいいのがいいの。キキとかララとか」


「じゃあキキかララにしろよ」


「うわぁ、最低の返しだ。減点しとくね?」


「減点されるとどうなる?」


「ランダムでセーブデータいっこ消す」


「それだけは勘弁してください。卒業した生徒の顔は

覚えてないけど、クリアしてきたゲームは全部覚えてるんです」


「せんせー、ゲームのことになるとやっぱバカ……送信っと」


「授業中ならスマホ使うなって注意できるのに……」


「カリンと村瀬、明日来るって。お祝い持って」


「なんの?」


「二人とも気が早いよね~。まだだって言ってるのに。

でもま、ちょっと順番が前後するだけだからいっか。

どうせそうなるって神父さんも言ってるし」


「ガスコのことは忘れろ。ん? どこ行くの?

帰るんなら途中まで送るよ」


「今日、泊まる。もともとそのつもりだったから。

お母さんには言ってあるから大丈夫。

制服もバッグも持ってきてるからここから学校行けるし」


「あの、その、親御さんはお前がここにいるの知ってる?」


「お母さんはうすうす勘づいてるかなぁ。

お父さんは彼氏できたの疑ってるけど、せんせーだとは思ってない。

そんな感じです」


 情報処理がおっつかなくてフリーズしてる俺を残して、

 白石はばあちゃんの部屋のふすまを開ける。


 だんだん白石の部屋になりかけてる。


 いやこれこそ既成事実だろ。


「や、やっぱりタクシー呼ぶから、帰らないか?」


「なに~~、急に慌てちゃって。あ、一人になって

またハンバーガー食べる気でしょ。好きだよね、せんせー。

でもダメです。私がいる間は食べさせません。

その代わりおいしいものいっぱい作ってあげるからいい子で、ね?」


 追い打ち既成事実。


 めちゃくちゃ笑うじゃん、白石。

 俺いま、そんなに面白い顔してました?


「ね、せんせー。いっこだけい?」


「なんでしょう」


「せんせーが前に言ってた超遠距離片思いの相手って菜穂さん?」


「いや違う」


「そっか、ならいいんだ。

ねえちょっと、そんな顔しないでよ、くやしーなー。

私もさ、せんせーにいつかそんな顔させてやるから」


 どんな顔?


 白石がばあちゃんの部屋に引っ込んだ後、しばらく

 自分の顔を手でこねくり回してた。


 とりあえずガスコイン神父にさくっと引導を渡してから

 二階の自室に戻って明日の準備。


 なんか不安になったからPCにエリン様への伝言を追加。


『白石には絶対に手を出すな』


 ん? これだと菜穂さんにはいいってなっちまうか?

 どうしよう……


 文面考えてたら学校から通知。


「えぇ……マジかよ。これいいの? あとで教育委員会に

怒られたりしないだろうな」


 ──────────


 朝から味噌汁ってちょっとした奇跡。


 俺だって朝早いのに、白石はそれより早く起きて

 朝食と弁当を用意してた。


「せんせーが空っぽの弁当箱持って帰ってくると嬉しくって、

作らないわけにはいかないんだよね」


「にしたってお前、こんなの大変だろう。

ヘンな気を回さなくていいから、授業に集中してくれ」


「大丈夫、ちゃんと授業中寝てるから」


「ちゃんと寝るな。俺の話、聞いてる?」


 制服にエプロン……か。

 バフ重ねてやがる。


 家庭カテゴリと学校カテゴリでカテゴリが別だから

 バフ効果が重複するんだよ。


 最速攻略には必須のテクニック。

 まあ、最速攻略されてるのは俺なわけだが。


「今日は五時限でラストで、そのあと出向することになった。

帰りがいつになるかわからないから、今日は来るなよ」


「え、ぜんぜん待つよ? お風呂入れとく?」


「頼むから家に帰ってくれ。お母さんに気づかれてるんだろ。

ちゃんとそういうんじゃないって仄めかしておくんだぞ」


「大丈夫だよ。お母さん、せんせーのこと気に入ってるし。

卒業まではお父さんに内緒ね♡ て言ってたし」


「お前それ、具体的に話が進んじゃってるじゃんよ⁉

勘付かれてるにもほどがある。その誤解はすぐに解け」


「はいはい、興奮しない。お味噌汁飲んで、ね。

三者面談のときにじっくり話し合お?

じゃ、私は先に出てるから玄関の鍵、よろしくね」


「同棲してるみたいに言うな。おい、話はまだ……まったく、

あ、このなめこの味噌汁、うま」


 くそう、胃が喜んじまってる。

 俺の身体が求めちまってる。


 朝食、カロリーメイトで済ませたりしてたからなあ。

 こんなちゃんとした朝食、細胞レベルで喜ぶに決まってる。


 ヤバいぞ。

 これなし崩しだぞ。


 時間が経てばたつほど、お互いに傷つくことになる。


 ……たぶん。


 ええい、怯むな。このままだと娘と付き合ってると勘違いした

 母親を交えた三者面談だぞ?


 それなんて地獄?

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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