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第七十二話 Nail・it・Girls

 シマナツが着せ替え人形?


 どういうことだ?

 そんなんじゃ、デジタルクローンだなんて言えないだろ。


 そんでなんで白石は納得いったって顔してるわけ?


 お前ぜってーわかってねえだろ。


「なるほどねー、

どっかで見たことあるって思ってたんだよね、シマナツ」


「し、知っているのかシライシー⁉」


「なにそれ? おやじギャグ? せんせーこそなんで知らないのよ?

これあれだよ、『Nail・it・Girls』だ。

簡単に『ニグ』って言ってるよ」


「あ、ニグなら聞いたことある。なんだっけ?

オンラインで服とか買えるやつ?」


 白石はワイドパンツを見せつけてくる。

 お尻はあんまり突き出さないで。


「これ、ニグで買いました」


「へー、他のとなんか違うの?」


「色とかサイズとか、カスタマイズできる。

面白いよ、ゲームみたいで」


「ゲームと聞くとがぜん興味がわくなぁ」


「ゲームじゃなくてコミュニケーション。みんな私の兄弟姉妹よ」


「待て待て、意味がわからん。服を買うんじゃないの?」


「せんせー、ニグ使ったことないのもろバレ。

ニグは簡単に自分そっくりのアバターを作ってくれるの。

そんで商品の服をいろいろ着せ替えれる。

体重とか忖度ナシなのがエグい、けど頼れる」


「思ったのと違った、がないわけだ」


「それだけじゃないよー。

気分やシチュでどんなコーデにするか相談もできるの。

友達と一緒に服を選んでるみたいなんだー」


「ちなみに今日の白石のコーデは?」


「んとね、結婚する予定の年上の彼氏の家に休日に遊びにいくコーデ」


 聞くんじゃなかった。

 聞こえなかったふりしよう。


 シマナツ……AIがしちゃいけない顔してるぞ。


「ふうん、自分そっくりのアバターが喋り出したら

ちょっと怖い気もするが、

シマナツはそれのために作られたってこと?」


「……というよりは私をもとにしてそのアバターの技術が

作られたってとこかな」


「ん? じゃシマナツとさっきの杏奈さんはニグの偉い人?

すごい、せんせーどこで知り合ったの?」


「ちがうちがう。私たちはあくまでアバター作成の技術を提供してるだけ。

ニグの商品とはいっさい関係ないよ」


「技術提携か。だとしたら確かに勝手に持ち出していいもんじゃないな。

杏奈さんが怒るのも無理はない」


「事情が分かった途端に杏奈側? ひどい男。

私も菜穂も捨てるのね」


「せんせー、ひどい。私のときみたいに助けてあげてよ」


「なんなんだよ、お前ら。急に結託すんなよ。

捨てるも何も、ちゃんと持ち主に返すんだろうが」


「つまんねー」

「正論しか言わねー」


 気が合うのかな、こいつら。

 でもすぐに悪ノリしそうだから取り扱い注意だ。


「ん? ちょっと待てよ。なあシマナツ、今の話だと

着せ替え人形がお前からできたんだよな?」


「お前呼びウエルカム。

そうだよー。最先端ビジネスモデルは私です」


「でもそれだと、お前自身は着せ替え人形じゃない。

どうやってお前がシマナツになったのか、説明になってないぞ」


「お、そこ気になっちゃう? でも残念、

今日はここまで。続きはまた明日ね」


「明日なんてないだろ。今日中に取りに来るんだから」


「わかんないかな、せんせー。

続きが聞きたかったら返すなって言ってるんだよ」


「わかってるね、相棒。そーゆーことです。

続きを聞きたいセナコーは何とかして私を手元に置く。

私は毎晩、少しずつ物語を語るの」


「千夜一夜物語か。終わるころには子供できとるわ」


「あはは、せんせーったらAIとどうやって子供作んの?

子プログラム?」


「菜穂とならできるけどね? はは、冗談だってば」


「ちょい待ち、それ聞き捨てぬ。菜穂って誰ぞ?

AI仲間じゃないの?」


「違うよ? 菜穂はね~、私の親友。

最後まで私から目を背けなかった人。私を生かしてくれた人」


「あ、今そーゆーのはいいんだ。

ね、せんせーは菜穂って人の家からシマナツを持ってきた。

これで合ってる?」


「合ってる。

……なあ白石、やっぱり今日は一度、帰らないか?

さっきの杏奈さんが戻ってきたりすると面倒というか……」


「うわっ、せんせーの顔、すっごいやらしい……やましい?

どっちも一緒か。一緒だ。何しに行ったの? 菜穂さんの家に」


「少し……一緒に、お酒を飲んだだけだ。なあ、シマナツ?」


「ああ、うん、そうだネ、それだけ」


「へえ、AIって嘘つくんだ?」


「あ、AIはね、嘘とかはよくわかんないの。

嘘だろうとホントだろうとそれがどれだけ論理的かを判定してる……」


「じゃあ、シマナツはすごいAIだね。

人の目を見て嘘つくんだもん。何があったの?

どっちでもいいから言って。言わないとシマナツ抱いて川に飛び込む」


「落ち着け、白石。別に何もなかった……はず」


「そうよ、一緒に寝ただけ……てこれはマズい?」


「覚えてないんだ?」


 怒りで打ち震えてる人をこんなに間近で……

 見るのは今日、二回目ですね。


「なあ、聞いてくれ白石。

俺は酔ったからって女性にそういうことをできるような人間じゃない。

正直、手を握るのだって怖いんだ」


 俺は……ね。


「そういうことって?」


「いや、子供に直接的な表現は──」


「子供じゃないわ! そんくらい知ってるよ!

バカにすんな! 酒乱! 淫行教師!

アァァァァホオォォォ‼」


 走って出てった。


 途中で転びそうになってヒヤッとしたけど、

 ちゃんと靴を履いていってくれた。


 追いかけてもよけい怒らせるだけだな。

 俺に怒ってんだから。


 心配だし、カリンに連絡しておこう。

 できれば一緒にいてやってくれ……と。


 休日に生徒にブチ切れられて、その友達にフォローを頼む教師。


 シマナツの言うとおり、全力でクズだ。


「ゴメン、付き合ってないって思ってたから……

余計なこと言っちゃったね」


 台所に戻るとシマナツが謝ってくる。


 気まずそうな空気も斜め下見てる視線も、完璧に人間そのもの。


「付き合ってないよ。付き合う気もない」


 白石が置いてった買い物袋から要冷蔵のものを冷蔵庫へ。


 豆腐とかブロッコリーとか、ヘルシー油とか。

 俺の身体にすげー気を遣ってくれてんじゃん。


 だからっていうんじゃない。


 けど、付き合ってないって聞いてホッとしたシマナツの顔に、

 妙に腹が立った。


 テーブルに冷凍うどん叩きつけるくらいには。


「わざと言ったな? 白石に昨日のこと」


「……付き合ってないんでしょ? 何か問題?」


「白石を傷つけたくない。

あいつの気持ちは大事にしてやりたい」


「面倒くさ。それセナコーも白石のこと好きでしょ。

付き合っちゃえばいいじゃん。

どうせダメならダメになるんだし、そのほうが白石も諦めがつくよ」


「そういうものだとしても俺とじゃない。

あいつには俺よりずっと相応しい人と──」


「それをあんたが決めるなよ。

相応しいとか、資格がないとか、そんなのあとから考えればいいだろ。

結局あんたがビビってるだけでしょうが」


「違う。俺はあいつのことを真剣に考えてる」


「私のことなんていいんだよ!

あんたがどうしたいかでしょ? あんたがどうなりたいかでしょ?

もっと自分のこと考えてよ、お願いだから」


 AIに怒鳴られた。


 でもなんていうか……

 それ、俺に言ってる?


「……菜穂さんとなんかあったのか?」


「うるさい、黙れ」


 画面からフェードアウト。

 隠れちゃった。


 でもちょっと離れたところから、すすり泣く声が聞こえてくる。


 見えてなくてもそこにいて、

 どうしようもなく行き詰った悲しみを一人で抱えてる。


 そういう空気の震えを感じる。


「お前が自分の気持ちを優先したなら、やっぱり危険すぎると思う。

次に来たのが杏奈さんでも菜穂さんでも、お前を渡すよ」


 あえて冷淡な言葉をなげかけてる。

 安奈さんみたいに。


 彼女も俺も、そうせざるをえなかった。


 特定秘密とかどうでもいい。


 人として喋り、人としてそこにいるシマナツが俺はただ、怖かった。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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