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第七十一話 事情もわかんないのに慰めるのとかムリくね?

 急に沈黙しやがったな、シマナツ。


 何がすごいって、

 目を逸らして無関係を装っている雰囲気が伝わってくんだよ。


 ポケットに入れたスマホの中からだぜ?

 ありえねえよ。


 だが、今は目の前の二人だ。


 どっちから片づけるかな?


 俺が異世界で獲得したスキルの数々。見せてやんよ。


「えっと、すみません、どちら様ですか?」


 キマッタ…………

 完全なよそ様ムーブ。


 これで白石も妙な誤解はしないだろう。


 跪いてプリンスチャーミング的に手を差し出す、バカみたいな

 ポーズのままだけど。


「夏実を出しなさい」


「いたっ、痛いって、手をひねらないで」


 ケガした右手がひねられてます。

 自分の身体で感じる痛み、新鮮。


 エリン様の身体で感じる痛みはちょっとぼんやりしてて

 ダイレクトに脳にこない。


 けどさすがは自分の身体。

 脳天に刺さるぅ~。


「ちょっと、せんせーに何してんの?

つかあんた誰? せんせーの何?」


 白石の発言、状況から瞬時に仮説を組み立てる眼鏡ちゃん。

 頭いいわ、この人。


 そんで驚く表情とタイミングがシマナツに似てる。


「驚いた。教師が生徒と付き合ってるの?

バカが二人揃うと事故が起きるって本当ね。

まあいいわ、学校側に通報されたくなかったら、

さっさと夏実を返しなさい」


「今せんせーのことバカって言ったでしょ?

私バカだけどそういうのはわかるんだよ」


「そーだそーだ、自分だってバカのくせに。

衣替えしてんの一週間も気づかなかったくせに」


「それホント? 一週間はやべーわ、人類史上最長だわ」


「人類史上って……ちょ、やめてよ。腹よじれる。

あとねあとね、平然とブラ忘れてくる」


「あ、それ村瀬もある。ノーブランド村瀬。

そんなスーツでバチクソかっこつけといてそっち側?

ナヴィ語でノーブラって言ってみ?」


 白石とシマナツが悪ノリしちゃって手が付けられん。


 怒りで打ち震えてる人を、こんなに間近で見るのは

 初めてかなあ……


 俺の喉をかき切る五秒前って目をして、黙って手を差し出す。


「待って、セナコー、渡しちゃダメ。

そいつは悪いやつだよ。私を菜穂から奪う気なの」


「え? せんせー、それ何? ビデオ通話?」


「お前が話してた相手だよ」


「あれ、そういえば私、誰と話してたの?」


 眼鏡ちゃんが俺の手からシマナツを奪おうとしたけど、

 俺は余裕で遠ざける。


 カリンよりはぜんぜん遅いな。


「返しなさい。それはわが社のものです」


「返すよ。持ってきちまった菜穂本人にね。

悪いけど、俺はあんたが誰か知らない。信用もできない。

他人の家から持ち出したものを渡したりはできないね」


「……意外と言うじゃん、セナコー」

「せんせーの本気はこんなもんじゃないよ」


 ひそひそ声ってよく聞こえるんだよね。


 頼むからもう煽るな。

 眼鏡ちゃん、急に優しそうに笑うの超怖い。


「言っておくけど、あなたそれ、持ってるだけで

特定秘密保護法で処罰の対象になるのよ?

それでも渡さないって言うの?」


 ああそうさ、怯んださ。

 俺が怯まないわけないだろう。


 だがここで彼女に従っても、後でカルメン=菜穂と

 トラブルになるのは目に見えてる。


 それならせめて倫理的であるよう心がけよう。


 一応、私、教師なもんで。

 生徒の目の前なもんで。


「これがあなたの会社のものだというなら、

秘密を漏洩させた責任はあなたにもある」


 悔しそうな顔させたった。


 同時に俺も後悔した。

 シマナツが本当に特定秘密の可能性が高まったから。


 だからね、二人とも……


 ッシャオラァ、とか

 やんのかファイティングポーズとか

 やめて?


 これ以上、この人を怒らせないで?


「……わかりました。後で菜穂に取りに来させます。

それまで外出はせず、それから目を離さないで。

後で守秘義務の書類にもサインしてもらうから。そっちの生徒さんも」


 生徒さん、を強調してきた。

 サインしなきゃ即通報だな、これ。


 とはいえ一旦は引いてくれた。


 こっちだってカルメン=菜穂が来てくれれば、

 素直に返しますよ。


 相手が背中を見せたことで油断した。


 眼鏡ちゃんが急に振り返って、

 ビビった俺はシマナツを取り落とす。


 眼鏡ちゃんが冷静にキャッチ。持ってかれる?


 と思ったら、何が起こったかわかんないでいる

 シマナツをそっと俺に手渡す。


「夏実、あなたがどれだけ菜穂から時間を奪ったか、

わかってるの?

もう死んだんだからこれ以上、菜穂を苦しめないで」


 ひでえこと言いやがる。


 けど涙目だった。言い返すなんてできなかった。

 黙ってスーツ姿の背中を見送るしかなかった。


 シマナツも見るからに落ち込んじゃって、

 俺と白石はどうフォローしようかとオタオタしてる。


 事情もよくわかんないのに慰めるとか、ムリくね?


「とりあえず、中に入るか。そうしろって言われたし。

白石もいてくれたほうがいいな」


「そのつもりだし。……サプライズは?」


「そういや白石はこういうの見たことあるか?

これAIらしいんだけど」


「さあ、あるんじゃないの? アメリカとか中国とかすごいんでしょ?

……サプライズは?」


「いや、それにしたってここまでのはないよ。

さっきの、えっと、あの人って誰なの?」


 テーブルについてシマナツをティッシュの箱に

 立てかけると、すこぶる不満げだ。


「杏奈。菜穂の共同経営者」


「キョードー経営者だって。ガチじゃん。

せんせー、五分後にスパイ同士のバトルが始まるよ」


「スパイはバトルなんかしない」


「え? うそ……でしょ?」


「俺も現実を知ったときには驚いたよ。

でもあいつら、誰かを殴るよりネットでデマ

流したほうが有用だってどっかで気づいちまったんだ」


「なんだよ、かしこぶりやがって」


「ホントだよ。ジェームズボンドにやられろ」


「あなたたち、そのバカな寸劇、本気でやってる?

それとも私を笑わせようとしてる?」


「本気で笑わせようとしてる」


「せんせー、その子はお茶飲むの?」


「どうやってだよ……」


「飲めないけど前に置いてくれると嬉しいな」


 白石が手慣れた様子で紅茶淹れてる。


 その夫婦カップどうした?

 買ったの?


「んで、ちょっとは落ち着いた?」


 俺たちが紅茶飲むのをじっと見てる。

 まるで自分も一緒に飲んでるみたいに。


「……杏奈の言ったことは全部ホントなの。

私が会社の所有物だっていうのも、

菜穂をずっと苦しめてきたっていうのも」


「三人はどういう関係なんだ?」


「せんせーとの関係も気になるんだけど?

ま、それは後でいいや。夏実さん? だっけ。どうぞ」


「シマナツでいいよ。

私たち三人は中学からの友達なの。

菜穂と私は幼馴染で、そこに杏奈が加わった感じ」


「あ、うちらに似てる。私とカリンが小学生からで

中学から村瀬がドッキングした」


「お前、言葉のチョイスが微妙にズレるよな」


「やだ、せんせーほめすぎ。でもそれにしちゃ、

シマナツだけ若くない? さっきの杏奈っちは一回り違うっしょ」


「これ、高校生のときのままだからね。

ホントはもっと痩せてて、立つこともできなかった」


 白石が首をかしげ、シマナツを手に取る。


 振ったり、逆さまにしたり、転がしたり、

 これで口に入れたりしたら三歳児だ。


 シマナツはなんか笑って喜んでる。

 絶叫系が好きなタイプ?


「ね、せんせー、

これってシマナツと喋ってるんじゃないの?」


「喋ってるよ?」


「いや、そうじゃなくてさ、シマナツがどこかにいて、

それと繋がってんだよね?」


「あ、こいつ、なんにもわかってなかった⁉」


「あはははは、面白いわこの子。

リアクション薄いなと思ったら濃すぎた」


「むっ、じゃあせんせーは私にわかるように

説明できるんだよね? じゃなきゃわかってるって

言えないよね? ね?」


「そうきたか。だが俺は説明するのが本業だ。

俺の授業、わかりやすいだろ? 努力してんだぞ?」


「あんまし聞いてない」


 やる気なくすわー

 ハラスメントだわー


「あのな、このシマナツは現実に存在する四十万夏実という人の

情報をもとに作られたAI。人工知能だ。

存在の定義はここでは置いておくとして、

彼女はデジタルの世界にしか存在しない」


「うっそだあ、今の技術じゃこんなのできないって

私でもわかるよ。できたらもっと話題になってるって」


 白石のリアクション、俺と同じなのなんかショック。


 シマナツも画面から外れるくらい笑い転げてるし。


「てめーら人前でイチャコラしやがって。

うん、でもセナコーの説明だと半分正解かな。

私、四十万夏実の情報から作られたんじゃないの」


「おいおい、それでどうしてシマナツって言えるんだ?」


「う~ん、説明が難しいなぁ。

なんていうか……私は、着せ替え人形だったの」


 着せ替え人形……

 ビスクドールときたね。


 やれやれビスクドールといやあ、


 また恋の予感がしてきたね。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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