第七十話 全力でクズ宣言してるよ?
しばらくスマホの中のそれと見つめ合ってた。
スマホと言っても普通の機能はなく、中にそれがいるだけ。
こっちと向こうを繋ぐ窓みたい。
俺もわけわからんが、向こうもわけわからんって顔してる。
あとじっと見つめてたら恥ずかしそうに目を逸らした。
は? かわいいんだが?
「ちょっと状況を整理するか。俺は瀬名浩一。
まあまあセナコーって呼ばれてる。君は?」
「あっきれた、昨日のこと、なんにも覚えてないの?
四十万夏実、シマナツ。二日連続で自己紹介したの
初めてだよ。ちゃんと覚えてよね」
「す、すまん。んで、夏実さん?」
「かたいなぁ、昨日はいきなりシマナツだったのに」
「これってビデオ通話とかじゃないよね?」
「デジタルクローン。これも二回目。
故人の情報をもとに作られた人工知能だよ」
目をパチクリ。
それなんてSF?
「うっそだぁ、今の技術でこんなのできっこないって
俺でもわかるよ。できたらもっと話題になってる」
「ならないよ、機密だから」
「機密って意味知ってる?」
「知ってる、スマホで調べたから。
私、政府のAI活用促進事業に指定されてるの。一番上のやつ。
危険って判定されてるんだよ」
「あれか? 自殺に誘導するとか?」
「そんなことしません。できません。
私の技術でフェイクニュースとか作られたら、
現代の技術じゃ偽物ってわかんないんだって」
どうした? 笑えよ、俺。
結構、面白いこと言ってるよ? この子。
ドローンカメラでビデオ通話してる。
たぶんそんなとこ。
俺をからかって遊んでるんだ。
だって、ありえねえって。
……ありえないんだけど、
じゃあ異世界の神様的なのと入れ替わるのはありえる?
いかん、非常識耐性が弱体化してる。
無関心という鎧で自身を防衛せよ。
「うん、まあわかったよ。夏実さんすごい。
で、返しにいきたいんだけど、どこに行けばいい?
アパートに戻るのは気まずいんだけど……」
「え? 菜穂いないの? え? ええ?
これ誘拐? セナコーは企業スパイみたいな?」
「違うわ、ただの教師だ。ポケットに入ってたんだよ。
持ってくる気はなかった」
「へえ、教師なんだ。このへんだと鳴高?
制服かわいいよね。着たことあるんだ、菜穂が借りてきてくれたの」
「そう? なあ、さっきから言ってる菜穂って……」
「あ、カルメンって言ってたんだっけ。
あんなに楽しそうだったし、名前、教えたかと思ったんだけどな」
「向こうは俺のこと前から知ってたっぽいけど?」
「それも言ってないんだ。えへへ、これは菜穂、
また会う気だよぉ~。あ、だから私をポケットに入れたのかも」
「勘弁してくれ」
「大丈夫、すぐに取りに来るよ。杏奈に見つかったら大変だからね。
それより朝ごはん、食べないの?」
「勝手に食えばいいだろ」
「ちがう~。とりあえず私の前で何か食べて」
なんかまた知らない名前が出てたけど、気にしてもしょうがない。
取りに来るってんなら、返して終わりだ。
それまではこの自称AIに付き合うのもいいだろう。
本当なら面白いし、嘘でも俺には関係ない。
テーブルにシマナツを置いて、
途中だった白石の料理をうまそうに食べてやった。
「普通に食べて、私のことは気にしないで。
家族の前でそんな食べ方、しないでしょ?」
「家族じゃないしね。俺だけ食ってていいの?」
「いいの。好きな人が元気で食べてるのを見たら幸せでしょ?
幸せが私のごはん」
「AIが言いそうなことだね」
「ありゃ、私も気を使っちゃってたか。それ、自分で作ったの?」
「いや、料理はそんなに得意じゃない」
「女の子?」
「まあね」
「彼女? 結婚はしてないよね?」
「してない。彼女……でもない、と思う」
「微妙な関係? でも作り置きまでしてくれてるんだから、
向こうはセナコーのこと大事にしてるよ?」
「わかってる。俺も感謝してる。大切にしたいし、傷つけたくない。
でも、立場的にな~……」
考えてるね、表情が豊かだね。
ウエーブのかかった髪をくるっと指に巻いたりね。
確かに危険極まりない。
こんなのでラブプラス作った日にゃあ、
生涯未婚率が上がっちまうぞ。
主に俺の。
ほら、この自分で辿り着いた仮説に驚いちゃってる顔よ。
パッと窓を開けるみたいに目が輝く。
「ウソ! 生徒に手を出してる⁉
ヤバ、私の誘拐と合わせて無期懲役。
でも憧れちゃうんだよね~、教師と生徒のドロッドロの恋愛ドラマ」
「サラッサラだわ。まだ何もしてねえよ」
「まだ、だって。本音ダダ洩れ」
「ちが……、俺には好きな人が……」
いるって言いきれない。
異世界って壁に、いつも俺の気持ちがぶつかる。
真っ先にリディアの顔が浮かぶのに。
「ちょいちょいちょい、セナコーさ、好きな人がいて?
生徒に手を出してて? そんで菜穂ともしちゃったの?
自分でわかってる? 全力でクズ宣言してるよ?」
「そう言われると確かにクズだ」
「自分で認められるのえらい。褒めてあげる。
私はそんなセナコーでも味方するよ」
「ますますAIじみてきたぞ。今度は
天国で永遠に一緒になりましょう、とか言うんだろ」
「待ちきれないわ、あなたも同じ気持ちよね?」
「うは、それそれ。さてはお前、AIだな?」
「バレたか。こうやって信頼させて、あなたを洗脳してるの」
「洗脳して何するの? ねえねえ何するの?」
「え~~、そこまで考えてないよ。
なんか、世界の中心で愛を叫ばせるとか?」
「そいつは獣だ」
なんか楽しい。話しやすい。
油断すると異世界のこととか全部、話しちゃいそう。
どんな反応してくれるかな?
これがAIでも人間キャストでもすごいな。
どっちだろうと、俺にとってはもうシマナツだ。
「せんせ~、おはよ~、今日は一人で起きられましたか~?」
おもくそテーブルに叩きつけちまった、シマナツ。
焦って引っくり返した拍子にね。
ほげ、って声がしたけど、どこかぶつけた?
でもそれどころじゃない。
なんで日曜日に白石が来るの?
あ、日曜日だから?
いやいや、休日に女子生徒が男性教員の自宅を
訪問するのはアウトでしょ。
社会的に……死と同義。
「あれ? それ昨日の夜用のやつじゃん。
あ、もしかして、またハンバーガー?
クレカ取り上げたのに、どうやって食べたの?」
クレカ取り上げられてんの、俺?
手慣れた様子で買ってきたものを冷蔵庫にしまう白石。
ヤバい、面倒みられてるぞ、俺。
白石の初夏に映える明るい色のサマーニットと
ワイドパンツがやけに大人っぽいぞ。
白石とは……してないよね?
「ねえ、セナコー、その子なの?
見せて、お願い、なんなら紹介して」
シマナツをポケットに押し込む。
自分でもわからんことをうまく説明できる自信はない。
白石は手を止めて、
なんかちょっと形容しがたい目を俺に向ける。
「……今、女の声がしなかった? 誰そいつ? 電話?」
「あ、いや、動画見てて……」
「なんで女の出てる動画見るの?
私を見てればいいでしょ? 幸せでしょ?」
あれ? 白石ってこんな感じだった?
けっこう重そうなんだけど。
近づいてきた白石が初めて気づいたみたいに
俺の恰好をまじまじと見つめ、匂いを嗅ぐ。
「せんせー、その恰好、どうしたの? いつもと違う。
日曜日なのに……」
「ああ、これな、昔のを引っ張り出して──」
「ヤダこれ……アレだ。ヤダほんと……あれ、サプライズだ。
どうしよ私、せんせーのサプライズ、ダメにしちゃった?」
「いや、違うぞ。今日はなんでもない日曜日だ」
「見たことある! 指輪のやつだ!
まってまって、やりなおそ?
だいじょぶ、私、直前十分くらいなら記憶消せる」
「ホントなら病気だな」
「ビョウキだよー、ドキドキ止まんないもん。
ちょっと待って、牛乳とお肉は冷蔵庫に入れて……と。
あとね、私、最初がテンションMAXだとクるから。
無駄に引き伸ばされるの、好きじゃない」
「お、おう。そんな感じに見える」
「わかってるぅ。じゃあさ、もう玄関でね。
大事な話があるんだー、っていこーよ」
「サプライズの内容、お前が決めるのか?」
「ダメ?」
「……じゃないけど、それでサプライズになる?」
「当たり前じゃん! だってほら、私もう汗かいてる。
じゃ、そゆことだからよろしく」
嵐だ。
「嵐ね」
「普通に話、聞いてんのかよシマナツ。
まあいいや、大事な話があるのは本当だし」
「プロポーズするの?」
「しないよ! ちゃんと教師と生徒として距離を置こうって話」
「今のあの子にそれ言ったら、ヤバくない?
傷つけたくないんじゃなかったの?」
的確すぎるアドバイス。
一日ずっと一緒にいたらシマナツなしでは生きられなくなりそうだ。
なんて感心してたらドアがノックされる。
けっこう激しくくるね。
やっぱり距離を置く話はまた今度にする?
ちょっとオーバーに振舞ってネタにしてしまうのがいいかな。
ゴメンな、白石。大人ってずるい。
玄関で跪いてドアを開ける。
「わかってほしい、俺がどれほど君を大切に思っているかを──」
……誰この人?
FBI捜査官みたいなスーツ着て、
ゴミを見る目で俺を見下ろす眼鏡美人。
怒りと疑念をたぎらせてる。
隣でショックを受けた様子で立ち尽くす白石。
怒りと疑念をたぎらせてる。
初対面の知的で仕事できる感じの女性と、
俺のことを慕ってくれる女生徒。
おっと、辛すぎて最後、韻を踏んじゃった。
そんな二人に同時に睨まれるという、
俺の人生では決して起こりえなかったはずの事態。
なあ、エリン様…………
マジで泣くぞ!
読んでいただき、ありがとうございます。
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