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第六十九話 俺が触れていいものじゃない

 ボネに似てる人、わけがわかんないって顔してる。


 そりゃそうだ、俺もわけわからん。

 下半身見るのやめて?


 半裸の美人を前に縮こまるヘタレっぷり。


 うん、間違いない、これは俺だ。


「ボネ? あたし、カルメンだよ?

昨日、話したじゃん、覚えてない? 私もよく覚えてないけど」


「すまん、カルメン……さん?

俺も飲みすぎたみたいで、ちょっとどういう状況なのか……」


「うんうん、わかるわかる。じゃ、上書きしとく?」


 そんなディスクシステムみたいに言われても……


 ボネと同じ顔だけど表情が違う。

 自分ごと相手を焼き尽くすような激しさはない。


 こっちはすごくゆったりとして、でも力強い

 大河のような穏やかさ。


「あの、今日は何曜日ですか?」


「どっから記憶トんでんだよ、ウケる。日曜日だよ。

んで、しないの?」


 助かった。無断欠勤は免れた。


 呼吸が戻ってきてる。

 俺、息してなかった。


 あれ? いまこの人、しないの? て聞いた?

 何を? デイリー消化?


 なんで急にこんなに甘い匂いになるの?


 とりあえずズボン履いた。守られてるって素晴らしい。

 ボネ(2Pカラー)は、なんでそんな残念そうな顔するの?


「あの……俺のシャツを……」


「ん……どうぞ?」


 腕を広げて挑発的な笑み。


 どうすりゃいいんだ……

 脱がすの?

 犯罪じゃない?


「アッハハハハ、なんて顔してんの。

キャラ変わりすぎ。うわっ、これ噛んだの私?

ごめんね、こんなの初めてだよ~。よっぽどすごかったんだね。

……やるじゃん」


「きょ、恐縮です」


「そっちのクローゼットにメンズのシャツいくつかあるから、

好きに使って。いや~~しかし、噛むのか~、私。

朝までぐっすり眠れたのってそのおかげ?」


 ボネ(2Pカラー)は嬉しそうにベッドにダイブ。

 枕を抱いて足をバタバタさせてる。


 やめろ、見える。


 たっかそうな服ばっかだな、このクローゼット。

 シンプルな白シャツあるけど、この光沢はなに?


「あ、待って、それ着るならネクタイもあるよ。

ほら、動かないで」


 後ろからハグされるみたいにネクタイしてもらう。


 首元に見える彼女の指の滑らかな動きが、

 他のどんなところよりも艶めかしい。


「き、気持ちはありがたいんだけど、

返しには来られないと思うし、やっぱり俺のを……」


「なに~? もう二度と会う気はないって?

冷たいなぁ、昨日はあんなに熱かったのに……なんてね。

いいよ、あげる。嚙んじゃったお詫びと、このシャツもらうから」


 そう言って彼女は俺を姿見の前に立たせる。


 何が違うんだろう。


 絶対に似合わないと思ってた光沢のあるシャツと、

 バカみたいに細いネクタイがしっくりくる。


「ね、カッコいいでしょ?

得意なんだ、人に服とか選んであげるの」


「あ、ありがとう……」


「……そしてさようなら?」


 なんだか自分がひどい男にしか思えないが、

 また会うなんてできない。


 彼女に会ったのは俺じゃないんだ。


 鏡の中の自分に向かってうなずくと一瞬、

 彼女の手が首にかかった気がした。


「一期一会っていうのも嫌いじゃないけど、

私たちはこれが初めてじゃないんだよ。ね、セナコー」


 いきなり名前?

 しかもあだ名?


 驚いて振り返ると、彼女はベッドの上で足を組んで

 意味ありげに笑ってる。


 落ち着け、エリン様だ。

 酔っぱらって教えたんだ、きっと。


 俺は彼女から目を離さないようにゆっくりと壁際を移動。


 背広を見つけてひっつかみ、玄関にダッシュ。


「……お邪魔しました」


 それでも黙って出て行けない俺。


 ドアも音をたてないように閉めるよ。

 近所迷惑になるからね。


 わりと普通のアパートの二階だった。


 線路が近くにあったから、それに沿って走ったよ。

 少しでも遠くに、できるだけ早く彼女から離れたかった。


 2Pカラーも怖えよ、ボネ。


 最寄りの駅の名前は知ってた。

 降りたことないけど、通勤途中の駅。


 意外と近いな、どっかで会ったりしないかな。


 駅のホームで座ったらようやくスマホの存在を

 思い出すくらいには落ち着いた。


「か、かわええ……」


 待ち受けがネコになってる。

 うちの庭だよね、これ。


 エリン様が撮ったの? 他にもたくさん撮ってるな。


 車とか電車とか、ビル群、学校、ハンバーガー、水道……

 そうね、水道は便利ね。


 ハンバーガー多いな、気に入った?

 あと人もいっぱい。


 ゲーセンで遊んでる白石たち、元気そう。

 なんか一年くらい経ってる気がする。


 知らないイケメン。普通に2.5次元。誰こいつ?


「こっちじゃ二週間くらい……か」


 別の世界なんだから同じ時間軸で動いてなくても不思議はない。


 今度行ったとき十年くらい経ってたらヤだな。

 ストラたちに身長抜かされてたり……


「俺、ホントにしたのかな……?」


 白石の画像とか見てたら急に申し訳ない気持ち……

 まあ罪悪感ってやつが涌いてきた。


 そーゆーことをしたのだとしても、俺の意思じゃない。

 でも俺の身体だし、白石にとって違いはないんだ。


 異世界に行く前、白石は俺の家に泊まった。

 俺はそれを受け入れた。


 ただ並んで寝ただけだ。

 それでも、もう教師と生徒の関係を逸脱してる。


「戻ってきてもぐっちゃぐちゃかよぉ~。

どうしてくれんだ、エリン様」


 泣き言。

 両手を股の間に挟んでる。


 どこに出しても恥ずかしい、情けない男だ。


 こんなんでどうやって生徒に、『将来のことを真剣に考えろ』

 なんて言えるんだよ。


 電車の揺れに合わせてため息ついて家まで帰ったよ。


 愛しの我が家。

 やっぱり落ち着く。


 あれ? 壊れたとこ修理入ってる。

 誰が手配したんだ? どうせやるつもりだったからいいけど。


 家に入るとシャツから漂う甘い匂いが妙に気になって、

 歯を磨いて顔を洗った。


「これは~、白石たちかなぁ」


 ぶっ壊れた仏壇のあったとこに、やたらファンシーな自作仏壇。


 色が明るい、プリクラ貼るな。

 ばあちゃん、ビックリすんだろうが。


「ただいま、ばあちゃん。騒がしかった?

あいつらバカだけど、友達想いのいいやつらなんだ。

勘弁してやってくれよ」


 仏壇の前に座ったら動けなくなった。


 話したいこといっぱいありすぎて、

 どれから話していいかわかんなくなるやつ。


 あと疲れた。


 俺は自分の世界には平穏な日常を求めたい。

 知らない天井はもうたくさんだ。


「腹減ったな。なんかあるかな……」


 冷蔵庫開けてみたら、タッパに入った手作り料理。

 食べる日付が貼ってある。


「白石……しかいないよな。料理うまかったし。

エリン様、完全に胃袋掴まれてんじゃん。あ、でもこれうまそ」


 昨日の日付のが残ってるから食べよう。


 白石とは教師と生徒に戻るつもりだけど、

 食べ物を腐らせるのはダメ、絶対。


「うまっ、何コレ、伝説の家政婦か?

そういや今回は家が綺麗だ。

エリン様、スマホも使ってたみたいだし、こっちに順応してる?」


 食べながらひとりごと言ってる。

 相当キてるな、俺。


 学校からは普通の連絡事項だけだから、

 エリン様が代わりに教師もやってるってことだ。


 向こうの世界の歴史とか話してねえだろうな。


「おーい、菜穂ー、起きたのー? 朝ごはん食べよーよ」


 誰? なにこの声? どこから?


 周囲を見回しても誰もいない。

 テレビや動画でもない。


「もしかしてまだ寝てるー? 起きなよー。

なんで起こしてくれなかったのってキレるくせに。

ニチアサタイム、始まっちゃうよー」


 怖い怖い怖い。

 なんか仏壇の部屋に置きっぱなしの背広から声が聞こえる。


 恐る恐る近づいて、猫みたいに姿勢を低くして

 背広を突っついてみる。


 あれ? なんかポケットに入ってる。スマホ?


「あ、セナコー、やっぱり泊まったんだ。

飲みすぎてたもんねー。菜穂いる? 起こしてほしいんだけど」


 女の子だ。

 画面に二十歳くらいの女の子が映ってる。


 ウエーブのある髪に眼鏡。

 ちょい眠たげな眼で、鼻とか小っちゃい。


 ひだのあるブラウスの上に茶色のカーディガン。

 休日のゆったりコーデ。


「これ、電話か? でも着信音しなかったよな?」


「なに言ってんの? あれ? そこどこ?

菜穂のアパートじゃない?

うそ、あの子セナコーの家に泊まったの⁉」


 いま一つ噛み合わない。


 ビデオ通話かと思ったけど、

 そのわりにはカメラが自由に動きすぎな気もする。


 スマホの中にその子がいるって感じだ。


 そーゆーアプリ?

 AIとコミュニケーションするみたいな?


 でも……妙にリアルだ。

 表情も会話も自然すぎる。


 俺に反応してるんじゃない。

 俺を含む周囲の全てを感じてる。


 要するに、人間そのもの。


 なんかよくわかんないけど、

 俺が触れていいものじゃないのは、確かだ。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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