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第六十六話 それは粉塵爆発というものでございます

 転がってきた生首から目を離せなくて、

 拾えって命令されてるみたいで。


 気づいたら生首に手を伸ばしてた。


 もしかして魅了とか支配とか、それ系のデバフ入っちゃってる?

 中身がエリン様じゃないから精神系スキルは相性悪い。


 そういやネルガルって人の魂を掌握するんだったよな?


 ゾッとしたけど拾い上げた生首を放せない。


 おい俺、何する気?

 顔を近づけて何する気?


「エリン様、お気を確かに」


 俺の手の中で生首が真っ二つ。

 後ろを振り向いたら生首の身体のほうが俺に迫ってきてた。


 まあ、すぐに細切れにされたけど。


 リディアは一回で何ヒットまで出るの?


「こいつらは冬の死霊。ネルガルの尖兵です。

人の心も身体も凍り付かせ、ネルガルによる魂の掌握を導きます」


「うん、くらいかけてた」


「ああ゛くらいかけた⁉」


 もんのすげえ重低音。

 ネルガルと中の人一緒かってくらい。


 心配すんな。

 俺の魂はとっくに掌握されてるよ。


「……お前にな」


「まともに戦えるのが私しかいない。

あなたまで手をかけさせないで」


「厳しいなあ。リディアはジョージたちを助けてやってくれ。

俺はボネを追う」


「逆のほうがいいのでは?」


 疑いの目。

 俺じゃボネを助けられないと?


 俺はニヤリと笑い、左手を上げる。

 鏡の前で練習した。


 拳を強く握ると手の甲の骨が皮膚を突き破って起き上がり、

 もう一つの手のように手首を掴む。


 痛いのは我慢。


 ちょっと涙目だけど、泣いてない。


「使い方がわかってきた。

俺が心から誰かを守りたいと思えば、こいつは答えてくれる」


「小さい、ショボい。エリン様ほどとは言いませんが、

もっと大きいの出せないです?」


「うっさいな、あんなでけえの出したら痛くて失神するわ。

そもそも出せんし」


「そんな小さいのじゃ、あの数は無理ですね。

早くボネを追いなさい。のろまな死霊どもに先を越されますよ」


 ジョージが頑張ってくれて、結構な数を足止めできてる。


 ジョージを無視してボネを追ったやつを

 ストラとマリスがヒット&アウェイで引き付ける。


 いい連携だけど……

 危なっかしいなぁ、やめてほしいなぁ。


 そもそもこいつら、斬属性と相性悪い。

 腕とか切ったくらいじゃくっつけちゃう。


 リディアみたいに細切れにしたら別だけど。


「エリン様! 来てくれたんだね。

僕たちのことはいいからボネ様を助けて」


 ストラに親指立てて駆け抜ける俺、

 かっこいい……


「バッカお前、モリーがいるからってかっこつけんなよ」


「モ、モリーは関係ないだろ!」


 あらっ、ストラってそうなの?

 ぜんぜん気づかなかったわ。


 俺、生徒の恋愛とか全然気づけないんだよなぁ。


 とりあえず、ストラの前にいる死霊が振った剣に

 こっちから籠手を当てに行く。


 相手の技の当たり判定にカウンター技を置きにいく感覚だ。


 音叉のように音が響き、死霊の剣とそれを持つ手が砕け散る。


「気を付けろ、がいこつは素手だけど強いんだ。

新米勇者の死因は撲殺が多いから」


 なんかリディアのため息が聞こえた気が……


 仕留めるのは任せた。

 積極的に攻撃するのはまだできん。


 ボネはどうやら水車小屋に向かってる。

 立てこもる気か?


 しかしこの死霊ども、リディアが言うほどのろまじゃない。

 革に鋲を打った鎧着てても、スカートで走りにくいボネより速い。


 いやこれ違うな。

 革に鋲を打ってるんじゃなくて、革を鋲で身体に留めてる。


 恐るべし、アンデッド軍団。


 ボネは水車小屋に駆け込み、扉を閉め……


 ない。

 なんで⁉


 水車小屋で挽いた小麦をまき散らしてる。

 ま、まさか……


「おいバカ、やめろ、何する気だよ」


「何ですって? バカはそっちでしょ。

知らないの? 小麦はね、火を点けると燃えるのよ」


 石臼を回す鉄の軸をナイフで思い切り叩いてる。

 叩くと火花が散るよ。


「燃えるんじゃねえ、爆発すんだよ!」


「上等」


 おいジョージ、

 これちょっと気が強いとかいうレベルではないんだが?


 目力だけで着火しそうなんだが?


 小屋の中に死霊どもをおびき寄せて燃やす気でいる。


 粉々に吹っ飛ぶんだけどね。粉だけに……


 笑えねえ冗談だ。

 ボネ、お前の使い道は自爆じゃないんだよ。


 こんな雑魚相手に死んでもらっちゃ困る。

 その雑魚にやられそうになってたのは言わないで。


 俺は頭を下げ、籠手で庇いながら死霊たちの間を駆け抜ける。


 剣は籠手が防いでくれるけど、掴まれるのがヤバい。

 凍傷になりそうな冷たさで、皮膚にくっついてきやがる。


 ボネはナイフを鉄の軸に振り下ろす。


 くっついてるやつなんか構うな。

 引きずっていくくらいエリン様ならできる。


 水車小屋に殺到する死霊どもを押しのけ、

 俺が一番にボネに飛び掛かる。


 俺とボネの額がぶつかって火花が散ったみたいに目がくらむ。


 轟音と振動が俺の頭をシェイクして、

 ボネを守りたいって願いが口から溢れた。


 死霊たちの手の冷たさが熱さに変わり、

 俺の身体にいくつも手形を残して吹き飛ぶ。


 目の前が真っ白になって、耳鳴りがすごくて、

 自分が立ってるのか寝てるのかもわかんない。


 ただ、埃と煙が収まっていく中で、

 地上で横倒しになった水車の上で、

 楽しそうに踊るボネを見上げてた。


 どうやら守れたみたいだ。

 籠手の防御範囲は隣接マスに及ぶ、と。


「今の見た、すっごい爆発、もう最高。

なんであんな爆発になったのかしら?

ティルダ王家の血かしら? 魔術師の才もあるなんて、さすが私」


 こいつも耳鳴ってるな。

 声がめちゃくちゃでかい。


「今のは粉塵爆発というものでございます、マイマジェスティ」


「粉塵爆発?

小娘のくせに頭良さそうな言葉を使うのね。

名乗ることを許します。どうせすぐ忘れるけど」


「私はエリンと申します」


「エリン? 奇遇ね、私もそんな名前の人に会いに来たの。

人……かしらね?」


「人です。私がそのエリンです」


「アッハハハ、面白い子ねぇ。エリンは悪魔の女王なの。

名前を騙ると呪われるわよ? 私は怖くないけどね。

どうせ私の美貌に嫉妬して生き血を欲してるのでしょうけど、

私の知略で操ってみせるわ。

だって悪魔ってそういうものでしょ?

神に見放され、契約に縛られ、人間に利用される。憐れよねえ」


「そうですね」


「あら、ジョージ! 見てたわよ、

あなたも剣を振って戦えるようになったのね。

勇ましかったわ! ヘンリーにはまだまだ及ばないけど」


「あ、あの……ボネ? その人が……」


「でもどうして子供連れ?

そのチビッ子のどっちかがエリンだなんて言わないでよ?」


「この二人は上司だよ。よく一緒に巡回してる」


 なるほど、巡回の名目で一人になるのか。

 ……一人じゃないけど。


 足元に転がってくる生首、アゲイン。


 リディアが投げ込んできた。

 見るからに不機嫌そうだ。


 隣のモリーは腕を組んで巨大ロボみたいな威圧感を演出。


 生首が目と口を開く。


「ボネ、貴様の伴侶たる──」


 ほぼノータイムで川に蹴り込むボネの胆力は本物。

 ネルガルさん、何か重要なことを言おうとしてたような……


 女たちはそんなの無視して睨み合ってる。


 ストラとマリスは川にバラした死霊を蹴り込む遊びをユリイカ。


 俺とジョージだけだね、おろおろしてるの。


「その超然とした佇まい……なるほど、あなたがエリンね?

初めまして、私はティルダ王家の血を引く

ティルダ領正当後継者のボネよ」


「私はリディアです。エリン様にお仕えし、守り、育み、

髪の一筋までをも敬い、その天上の歌声のごとき声に常に耳を傾け、

愛をもってお応えするのが──」


「リディア、もういい。

俺がエリンだよ、ボネ王女殿下」


 王家の血筋にプライドがありそうだから、

 王女と呼ぶのがいいだろう。


 挨拶から外交は始まってるぜ。


「は? え? ホントにこの子なの?」


 めっちゃキョドってる。

 ジョージがこくこくとうなずくと、一緒にこっくりとうなずく。


 余裕の笑顔だけど、顔真っ赤。


 さっき俺に言ったことを考えればね、

 そりゃしょうがないよね。


 大丈夫、気にしてないから。

 言うとリディアが怒るから言えないんだけど、察しろ。


「えと、ね……エリン様? もちろんおわかりでしょ?

私はバシレイアの支援を受けていて教会の悪魔観を

踏襲せねばなりません。

個人と公人としての見解は必ずしも一致するとは限らないのです」


「建前?」


「そう、それ! 話がわかるぅ!

私たち、うまくやっていけますわね」


 強引に手を取られて握手。


 振り払うわけにもいかないが……


「リディア?」


「はい」


「ちょっと不安になってきた」


「私もです」


 リディアと意見が合うのは嬉しい。

 もっと前向きなことならよかったんだけど。


 とはいえボネは失うわけにはいかない人だ。

 まずは無事でよかった。


 まあまあ癖のあるキャラで、扱いにくそうではある。


 でも考えてみよう。

 こっちの世界で扱いやすいやつなんかいたか?


 初対面ではラスボスかって思うくらいやべーやつと俺は今日、

 デート気分を楽しんでたじゃないか。

読んでいただき、ありがとうございます。

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