表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/85

第六十五話 橋を渡ったらがいこつ

 モリー……だよね?

 リディアが連れてきたの?


 あ、ダメだ、エリン様のキスでトリップしてる。


 モリーのほうは……

 なんかぶつぶつ言ってる。


「やっぱりこの二人、そうだったんだ。

しかもこの雰囲気、リディがネコなの?

は? は? なにそれ最高じゃん。ごちそうさまです。

てか尊い。守らなきゃ、私が守らなきゃだよ、これ」


「お前、三人の中では一番しっかりしてそうなのに、

なんかあるたびに評価落としてくな」


「あ、しまった、気づかれちゃダメなのに……」


 お早いお帰りのリディアが御者台から荷台へと飛び移る。


 ふわっと、スカートがわずかに広がる優雅で滑らかな動きは、

 そんなに速くないのに目で追えない。


 モリーも俺のほうを見たまま硬直してる。


 わかるよ、リディアに背後に立たれるとオワタって気分になるよな。


「モリーではないですか。なぜここに?」


「えと、あの、その、未来が見えて?」


 ウインクしてちょろっと舌を出す。

 リディアに首根っこ掴まれてちぎれるとこだった。


「ひいっ、助けてエリン様。あ、ちょっと、なんで目え逸らすの?」


「エリン様はお優しいですから、

子供がひどい目にあうのを見たくないのでしょう」


「モリー、なんでついてきた? ホントに未来を見たのか?」


「そ、それはエリン様といえども……」


 リディアがモリーの鼻や耳の形を確かめるみたいに触ってる。


「どれがいらないですか?」


 モリー、半泣き。

 俺、鳥肌。


「おいおい、脅しにしちゃやりすぎだろ。

脅し……なんだよね?」


「私とエリン様の大切な時間を邪魔したのです。

罪の大きさは理解していただかないと。

モリー? これはあなたのためなんですよ」


「よせって。モリー、ちゃんと話せ。

他の誰にも言わないから、俺にだけ話せ。ほら、ここだけの秘密だ」


「ク……クロム様に言われましたぁぁ~~」


 解放されたモリーが俺の胸に飛び込んでくる。

 リディアもなんかホッとしてるけど、ビビらしたのお前だから。


「おお、よしよし、怖かったな……にしてもやっぱりクロムか。

ボネとの会談なら後でちゃんと話すつもりだったけどな」


「疑り深くて用心深い。兄さまらしいです」


「あの……エリン様、リディ。言っちゃったのは内緒にしてね?

じゃないと私、おやつ抜きにされちゃう」


「……なんとむごい」


「兄さまはときどき外道になります。そこがいいんですが」


「いいのか? まあ、いいのか。

モリーは俺たちが話してたこと、どのくらい聞いてた?」


「荷台にいたら車輪の音がうるさくてほとんど何も。

ただ、ずっと見てて思いました。二人ってなんだか恋人同士みたいって」


 貫通クリティカル。


 モリー、俺の急所が見えてるのか。


 リディアは難しい顔してる。

 あんなに距離が近いのに推しとは一線引くタイプ?


「大人をからかうんじゃありません。

エリン様と私は家族同然。あの程度のことはにちちょ──

日常茶飯事です」


「噛んだ……」

「……噛んだな」


「だからなんですか?」


「「いえ、なんでもないです」」


 モリーと俺の声が揃ったことにリディアは多少の驚きと嫉妬。


 その嫉妬がいかんのよな。


 でもまあ、お見逃しいただけたようで。

 静かに御者台に戻って馬車を走らせる。


「モリーも連れていくんですか?」


「うん、まあ、ここから歩いて帰れ、てわけにもいかないからね」


「はいエリン様。私はエリン様にならどこにでもお供いたします」


「ボネはエリン様とだけ会うつもりのはず。

他に誰かがいては会ってくれないかも」


「それってリディアもだよね?」


「私はエリン様、ジョージ、お二人の信頼を得ています。

護衛も兼ねています。でもあなたは違う。

モリーは予定外の異物。さっきみたいに荷台に隠れていなさい」


「エリン様の膝から降りてほしいならそう言えばいいのに。

降りないけど」


 モリーがぎゅってしがみついてきた。


 ふわふわしてかぁいいなぁ。

 強制的に頭撫でさせられる。


 その勝ち誇った顔もまた……ね。


「アグニのときも思いましたが、あなた、見境がないですよね。

かわいいものに」


「そ、そう?

わりと性能でしかガチャ回さないんだけどな」


「アグニ! あの毛玉、ホントに腹立つ。

聞いて、エリン様、あいつ私が未来を見たって、

いまだに信じてないんですよ」


「実際、あなたの見た未来は実現しなかった。

未来を見ているとは言い難いですよ」


「なぜ煽る? モリーに対抗意識あるの?」


「あ、あ、リディアまでそういうこと言うんだ。

私の見た未来が実現しないのは、回避されてるから。

エリン様のお力です♡

私が教えなかったらその通りになっちゃうんだよ。試してみる?」


「そんな簡単に見れないくせに」


「今回は違いますぅ。たぶん契約者のほうが見たんだと思う。

私たちには関係ないから」


「え? 本当に見たの?

それは聞かせてくれ。貴重な情報だ」


「どうしよっかな~リディアは信じてくれないしな~」


 リディアに目くばせ。

 子供相手にムキになんなよ、的な。


 睨み返された。

 当たりつよない?


「モリーのおかげで私、助かったのですよ?

疑ってなんていません。すごい力デスヨ」


 ちょいカタコト。


 そんでもモリーがそっくり返ること。

 褒められて伸びるが、調子にのって自滅するタイプだ。


「わかってくれればいいんだ。二人とも、よく聞いてね。

といっても、たいしたことないの。

知らない女の人が殺されそうになってる。

知らないんだから関係ない……なんで二人とも怖い顔してるの?」


「モリー、それはどこだ?」


「んとね、橋の近くかな」


「この先に橋があります。ジョージとの合流地点に近いです」


「リディア!」


 馬がいななき、全速で走り始める。


 俺はモリーをしっかりと抱きかかえ、

 振り落とされないように手すりにしがみついた。


「クソ、なんでボネの居場所がバレてる?

アンナ派のやつらに勘付かれたか?」


「こちらの裏切りとは限りませんよ」


「支援者のほうか。バシレイアだもんな。

互いの権力を削ぎ合うのをスポーツだと思ってそうだ」


「ふふ、うまいこと言いますね」


 意外なとこでミッション達成。

 リディアをスマートなジョークで笑わせた。


 そんな場合じゃねえ。

 ないんだけど……


「ふへっへ」


「うわぁ、エリン様がヘンな顔して笑った。リディア、何したの?」


「モリー、手綱を」


「おいやめろ、こっち見なくていいから前見ろ。

ほら、あの橋なんじゃねえの?」


 橋の向こうに人が集まってる。


 いや、なんだか妙な雰囲気。

 誰かが取り囲まれてる?


 リディアは迷わず橋を渡り、

 集団に向かって減速せずに馬車を走らせる。


 リディアの目にはもう見えていたのだろう。


 集団の真ん中で剣を振り回すジョージ。

 逃げる黒い服の女。その両脇を固めるストラとマリス。


 ん? ストラとマリスもいるの?


 けどそれよりも、取り囲んでる連中……


「橋の向こうにがいこつ……だと?」


 あ、ちがうわ、どくろのお面をつけてるだけだ。

 剣も持ってるし。


 焦った~~、

 急に強くなるやつかと思った。


「おい、リディア、ちょ、ストップ」


 制止もむなしく、リディアは馬車を集団に突っ込ませた。


 俺とモリーが脱輪の揺れで悲鳴をあげてる間にも、

 リディアは馬車から飛び降りている。


 荷台が地面を擦ってようやく停止し、

 モリーを御者台の下に隠して降りる。


 転がって来た生首がお出迎え。


 エリン様の股間にそれはないけど、縮みあがるのを感じたね。


 仮面の下の顔は冷凍庫から出したばかりって感じで

 青白くて霜が付いてる。


 凍らせた卵みたいな目が俺を見るんだよ。

 黒ずんだ歯の隙間から氷の息吹。


「お前が……エリンか?」


 もんのすげえ重低音。

 頭の後ろのほうまでビリビリくる。


 何を言われたかも何を言えばいいのかもわかんなくて、

 ただ生首を見下ろしてる俺。


 固まるんだなぁ、ホントに怖いと。


 何はともあれ……

 これが俺とネルガルのファーストコンタクトだったってわけ。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

あなたの一押しが支えです。評価・ブックマーク、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ