第六十二話 つかまるよ? マジで
そりゃまあ、手を取っといて、やっぱいいや、
てわけにもいかない。
引っ張り出しましたよ、ジョージ。
意外と身体が大きい。
伸ばした髪と無精ひげがキャラにまったく合ってません。
エディット失敗した?
「いい身体してんじゃん。
自信持てよ、ドラゴンいけるぜ」
胸板に軽くパンチ。
なんか触りたくなるよね、筋肉って。
ジョージ、赤くなってる。
そういや俺、エリン様だ。
リディアやクロムがいつも側にいて感覚おかしくなってるけど、
エリン様も負けず劣らずの美少女。
軽々に男に触れるもんじゃない。
リディアがキレる。
「じゃあ、話してもらえるか? ボネはどこにいるんだ?」
「知りません」
「おい、この流れでそれはないだろ。さっきの
──ボネみたいなこと言うんですね──
はなんだったんだよ。イベントフラグだろうが、ヘタクソか?」
「ふふ、エリン様、物まねがお上手ですね」
「天然、防御力たけぇ~。
なあ、もしかして俺がボネをアンナに引き渡すとか思ってる?
それはないから安心してくれ」
「そんなの心配してない。
僕が恐れているのは国を失ってなお互いに食らい合う貴族たちだ。
父さんに付いてボネを戴冠させた連中は、
父さんが生きていなければボネを見捨てるよ。
やつらこそ、アンナにボネを引き渡す」
「ルイス卿はどうなった?」
「わからない。兄さんはボネを逃がすために戦った。
僕にボネを守れって言ってね。
……なんにもできなかった」
「ボネは生きてるんだろ? お前が守ったから」
「バシレイアの支援者が送り込んだ聖堂騎士が保護したんだよ。
僕は逃げまどっただけ。誰かの背中をずっと見てて、
気づいたらこのサンクチュアリにいたんだ」
てことは、ボネはバシレイアか。
おいジョージ、バラしちゃってるぞ。
機密管理がなってない。
肩を落として身体を縮めてるジョージを責める気には
なれなかったけど。
「サージは?
彼は信用できるからお前のことを知ってたんじゃないのか?」
「彼は先々代領主、最後の国王の臣下さ。
ボネが正当後継者だと思ってる。
ボネがエリン様の力を借りられるなら……わかるだろ?」
「ルイス卿もお前もいらない」
「言わないでよぉ……」
「泣きそうな声出すな。しっかりしろ、お前はまだ生きてる。
お前にしかできないことがある証拠だ」
「たいしたことない。ボネはなぜか僕を信用してて、
僕がいないと姿を見せない」
「ん? 姿を見せない?
それはつまり、会ったことあるんだよな」
「彼女は居場所をこまめに変えてる。
ときどき使者が手紙を持ってくるんだけど、一度だけ、
彼女自身が来たんだ」
「なるほど、まだ生きてるって証拠が必要だったんだな。
そのときはどんな話を?」
ジョージがちらっと外を気にする素振り。
聞かれてる?
当然か。
ルイス卿の安否、ボネの動向。
それによってサイドの変わるやつが様子を伺ってる。
アンナ派に通じてるのももちろんいるだろう。
「場所を変えるか。俺の部屋なんてどうだ?」
「え? 僕は構わないけど、サージたちが許さないんじゃないかな」
「俺を誰だと思ってる? トーレで俺に逆らうやつは皆殺しだ」
しないけどね。
できやしないけどね。
そんでもジョージにはこのくらいかましておかないと
付いてこないだろ。この性格じゃ。
案の定、外ではサージが待ってた。
後ろにジョージくらいデカいのが二人控えてる。
エリン様にそんな威圧が効くわけないだろ。
けど俺にはちょっと効いちゃうんだな。
「エリン様、約束が違います。
ジョージ様は私たちの保護下におかれると……」
「そんな約束してねえ。こいつがルイス卿の
息子ってことは誰にも言わないよ。それでいいだろ?」
「困ります」
「なんで?」
「彼のもつ情報は我々と共有していただかないと」
「ボネの身柄を先に俺に押さえられると思ってんのか?
もちろんそのつもりだ」
サージの背後にいた二人が前に出てくる。
なあ、ジョージ?
せめて女の子の後ろに隠れるのはやめようか?
でも、どうするかな。
このイカついのを俺が軽くひねる……
なんてのは無理だしなぁ。
まずはコストのかからない手札からだ。
「リディア!]
あ、やっぱりいた。
向かいの離れた納屋からふらっと出てきた。
隠れ家まで内緒でついてくるんだもんな。
その辺にいるだろうとは思ってた。
でもなんでクロスボウ二挺持ってんの?
あれか?
デーモンハンター的な……
「抵抗したので腕を折っておきました。
すぐにラースのところへ連れて行きなさい。
彼なら綺麗に接いでくれますから」
サージの足元にクロスボウを投げ出す。
狙撃手がいたのか。
やれやれ、クロムとダーガの言った通りか。
都合が悪くなったら俺はともかく、
ジョージは殺すつもりだったんだろう。
……かわいそうになってきた。
「アグニ、もういいですよ、降りてきなさい」
「お前が私に命令するな」
音もなくアグニが降ってくる。
屋根の上にいたらしい。
ぜんぜんわからんかった。
怖いんだよなぁ。
一番サイズ大きいのに気配がないって。
サージもイカつい男たちも声すら出せない。
ジョージは目が合っただけで気絶寸前。
味方だっつの。
「じゃ、ジョージは借りてくよ」
「……いつ、返していただけるので?」
「う~ん、ボネに会えたら考える」
これ見よがしに背中向けて、悠々とジョージを連れて帰れる。
認めたくはないが、
交渉において圧倒的武力以上に有効なカードはない。
ただ、禍根を残す。
何度も……それも味方に、使っていいカードじゃないのは確かだ。
「この男、どうしてエリン様と腕を組んでるんですか?
おい、死にたいのか、貴様」
「脅すな。お前らが怖いんだよ。ほら、ジョージもしがみつくなって。
この二人は最も信頼できる俺の仲魔だ。
リディアとアグニ。覚えといてくれ」
アグニは誇らしげだけど、リディアは不満げ。
はいはい、お前が一番だよ。
「え、エリン様は最初からお二人を呼んでいたんですか?」
「ん? いや、なにも考えてなかった」
「そこはサージの考えを見抜いていたと言えばいいんですよ」
「あ、そか、すまん。
もちろん、全ては俺の手の上だ」
「なーなー、エリン、あいつら殺さなくていいのか?
お前を殺そうとしたんじゃないのか?」
「殺すとか言うのはやめなさい。
ああいうやつらにとってこんなのはただの挨拶だよ。
俺に会わせた時点で、ジョージをかっさらわれるのも想定済みさ」
「それじゃあ僕は、
サージの了解のうえでエリン様に引き渡されたってこと?」
「まさか。これはあいつらのベストじゃない。
お前があいつらよりボネに影響力を持ってると思われたら、
排除しようとするだろうよ」
「そんな。ボネは僕のことなんか……」
口の中でもごもご言ってる。
頼りないが、今はこいつに頼るしかない。
「面倒なんだな、人間は。
ケンカしないならつまんないから帰る」
「自由だなぁ」
アグニと別れた後、悪魔城に入ったんだけど……
ジョージ、みんなに見られてるな。
悪魔城に出入りする人間は増えたとはいえ、まだまだ少ない。
今後のイメージ改革も必要だな。
名前、なんにすっかな……
クリスタルタワーじゃ難易度高すぎだし、そもそも塔じゃん?
ラダトームとかかっこよくね?
ハッ、エクスデス城?
カーバンクルとカトブレパス、どっかで取れる?
ギルガメッシュも配置しないと。
源氏の兜、盗むのとか大事だしな。
あ~、どうすりゃいんだ~。
「エリン様、あの、そろそろ……。
このままだとジョージが緊張で石になります」
しまった、思い出ダンジョンに潜りすぎた。
部屋に戻ったのにジョージ、ほったらかし。
なんで床で正座?
リディア、呼吸の回数かぞえるのやめなさい。
制限は設けてないから。
「すまん、考え事してた。楽にしてくれ。
さあ、ここなら誰にも聞かれる心配はない。ボネとは何の話をしたんだ?」
ジョージはごくごく控えめにリディアに視線を送る。
リディアに見返されてすぐうつむいたけど。
「あの、エリン様、そのことを話す前にお願いがあります」
「エリン様に求めるな、ただ差し出せ」
「いまそういうのいいから。
なんだよ? 俺にできることなら聞いてやる」
「僕は、エリン様みたいに賢く、強くなりたい。
どうか僕を男にしてください」
「…………」
「…………」
互いに無言でリディアとここまで気持ちが
通じ合ったのは初めてかもしれない。
あのさ、ジョージ、言いたいことはわかるよ?
でもね、客観的に自分を見てほしいんだ。
高一くらいの女の子の部屋で、
ベッドに座ったその女の子に、
ほぼ土下座で、
男にしてください、て頼んでる。
つかまるよ? マジで。
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