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第五十一話 ひのきの棒でスライムを殴り殺したあの日から……

 武者震いっていうんでもなくて、

 普通にビビってる。


 イーライ・デウと戦ったときは何がなんだか

 よくわかってなかった。


 でも今の俺はわかってやってる。


 全員が無事で終われるわけがないと、

 わかってみんなと一緒に並んでる。


 彼らを騙して死地に立たせてる気がして、

 罪悪感が拭えない。


 だって本物のエリン様なら

 誰の手も借りずに済んだはずだから。


「配置、完了しました」


 リディアがそっと耳打ちしてくる。


 みんな寝ちまったみたいに静かで、

 ほんのちょっとのことで爆発しそうな緊張感で、

 声が出せない。


 集まったの百人程度。


 ほんとはもっと集まったんだけど、

 なんていうか……半分くらい女性の方でして。

 後方支援を中心にお願いした。


 残ったのからから選んだら百人くらい。


 大通りを塞ぐように二列横隊。

 家屋を使って一度に相対する数を制限する。


 テルモピュライ?


 それは言うなよ。

 あいつら全滅したろ。


 尖らせた丸太を組み合わせた拒馬みたいなのも

 設置したけど、効果あるのかな?


 武器は城の地下に眠ってた長槍。

 なんと二メートル以上もあるやつが百本以上。


 弓もあったが弦が切れてて使用不可。残念。


 しかし、こんな辺境で何を警戒してたんだ、この城。

 ちょっと気味悪いな。


 防具は厚手のコートを着てるくらい。

 中には鎖を縫い付けたのを着てるのもいる。


 半農戦士どころか、まんま農民やね。


 城の衛兵たちは遊撃隊として森に潜伏。

 これはリディアの進言だ。


「ルシアスがいればよかったのですが……」


「ルシアス?」


「人間に戦略や兵法を授けていた悪魔です。

地上に出てすぐ、兄さまとケンカになって出て行きました」


「いないんなら仕方ないさ。

俺にも戦術の心得はあるんだぜ?」


 歴史と戦略シミュレーションが

 俺に戦争を教えてくれた。


 やれやれ……

 本とゲームだ。

 それがここに集まった人たちの運命を左右する。


「ふふ、頼もしいですよ、エリン様。

ミルダルスたちは自由にさせてよかったんですか?」


「ああ、あいつらは戦いなれてる。

向こうの判断で動いてもらっていい」


「賢明だ、エリン。

ミルダルスはパックと呼ばれるグループを

戦いの中で形成する。

ミルダルス以外とは連携できない」


 アグニが誇らしそうに解説。


 なめした革を身体に巻きつけるような

 特殊な防具を身に着け、両手に斧。


 両手に斧?


 まさか、回るのか?

 回るからこそババなのか?


「あなたはどうしてここにいるんです?

あっちでお友達と遊んできなさい」


「伝令とエリンの護衛だ」


「それなら私で充分です」


「そうか? お前、そんなに強いのか?」


 なに挑発くれちゃってんの?


 リディアも、子供の言うことだから、ね?

 本気にならない。


「剣抜くなー、リディア。

まだ敵が来るまで時間あるから」


 すげー不満げだ。

 俺がアグニの肩持ったって思ってる?


 一番戦えそうな二人がケンカしてたら

 士気に関わるでしょーが。


「にしてもその恰好、やっぱすげー好きだわ」


 リディアは例のマジックアイテムっぽい

 黒いレザーアーマーに同素材のパンツに着替えてる。


 髪も後ろでまとめて、やたらビジュ強い

 軽装の女戦士って感じ。


 でもあれ? 気を逸らそうと思って

 せっかく褒めたのに無反応?


 そっぽ向いて目も合わせない。

 やっぱまだ怒ってんのかな?


「エリン様、みんなに何か一言お願いします」


 恐る恐る話しかけてきたのは、

 なんかどっかで見たことある太ったおじさん。


 アグニにケンカ売った人だっけ?


「え~、一言って何言えばいいの?

俺なんかが何言ったって一緒……」


 振り返って、まだ戦う前なのに

 もう後悔した。


 やっぱり、みんなを戦いに巻き込むんじゃなかった。


 すごい顔になってる。


 どこか刺されて血がずっと流れてるみたいな、

 少しずつ、自分が死んでいってるのを感じてる顔。


 頭の中で検索かけてた名言も名演説も吹っ飛んだ。


 そうだよな。

 ずっと逃げ続けた相手と、彼らは戦う。


 俺ならそこにいられないよ。

 絶対に逃げる。その自信ならある。


 だからさ、なんていうか……


 俺は迫りくる黒煙のほうに向きなおる。


 改めて見ると黒い壁が倒れこんでくるみたいな

 圧迫感があった。


 どんな言葉だ?

 もし俺があの人たちと一緒にいたら、

 逃げ出さなくなるような言葉って。


「リディア、これ切ってくれ」


 手首折れて固定してる右腕を差し出す。


 リディアは固定に使ってる布を、

 何も聞かずに切ってくれた。


 拒馬の隙間から前に進み出てマントを脱ぎ捨てる。


 下に着てるのは袖なしで背中が開いた毛織物。

 ぶっちゃけDTを殺すセーター。


 腕も足も背中もさらけ出して腕を広げ、

 肩甲骨のあたりにぐっと力を込めた。


「怖いなら俺の背中だけを見てろ。

俺の声だけを聞け。

力も持たず、死の恐怖に打ち震えながら、

それでもそこに立つことこそが勇気だ。

お前たちこそが勇者だ。

決して槍を下げるな、一歩も引くな。

俺の後ろにいる限り、誰も死ぬことはない」


 ゆっくりと、波が押し寄せるように声が上がる。


 俺が前にいること。

 それ以外に勇気を与える方法なんてない。


 エリン様の名前を叫ぶ彼らは知らないだろう。


 恐怖に歪んだ顔で、それでもそこに立っている彼らが、

 俺にどれほど勇気を与えてくれるか。


 きっとこんな気持ちから

 祈りって生まれたんだと思うよ。


 どうか、誰も死なないで。


「槍を構えろ」


 俺の号令で全員が拒馬に乗せる形で

 槍を高く構える。


 ようやくゲヘナの怪物の姿が見えてきた。


 イーライ・デウの遺物の力で身体を焼かれ、

 焦げた表皮が割れて血や体液をまき散らしながら、

 そいつらは走って来た。


 いや、這ってきたのかな?


 人や獣に似た形はしているものの、地上の生き物の

 模倣に失敗したかのようにどこか間違っている。


 関節が逆だったり、手足の数が違ったり、

 欠損部分を魚や昆虫の特徴が補ったり。


 そしてどこかが、必ず捻じれてる。


 腕や足だけじゃなく、胴体や頭、背骨など、

 本来なら生命を維持できない形状で、

 その捻じれの苦痛に苛まれ続けてる。


 痛苦に悶えて手で地面を掻いて、崖を這い上がるように、

 そいつらは地上を這いまわる。


「あいつらは許されてないんだな。

この地上にいることを」


「仰る通りです、エリン様。

手早く送り返してあげるのが慈悲というもの」


 リディアが何食わぬ顔で俺の隣に立ってる。

 逆側にはアグニも。


「いや何やってんの、お前ら。

危ないから下がってろよ」


「ろくに腕も動かせないくせに、

強がるんじゃありません」

 リディアはそっと俺の耳に口を寄せる。

「怖かったら、私の背中を見ていなさい」


 あんまりにも耳がこそばゆくて腰抜けそう。

 驚いて離れると、リディアは悪戯っぽく笑っていた。


 余裕だ。


「安心しろ、エリン。私がついでにそいつも守ってやる。

感謝しろよ、リディ」


「次に愛称で呼んだら毛皮を剥いで襟巻にする」


 こいつらが一番危険だ。


 リディア、今ちょっと火を吐かなかった?


「ああ、もう。二人ともいていいからケンカすんな。

目の前まで来てんだ。集中しろ、フォーカァス」


 リディア、鼻で笑いやがった。


「ずいぶん威勢がいいですね。

あんなに戦うのを嫌がっていたくせに」


「怪物相手なら別だ。

(ひのきの棒でスライムを殴り殺して以来)

俺が人生でもっとも多く時間を費やしたのは、

怪物狩りだ!」


 もうやけくそ。


 初めて見たわ、リディアのそんな顔。


 綺麗な白い歯を剥きだしにして、

 完全に狼になってるアグニと区別がつかないくらい、

 凶暴に笑ったんだ。


 それが合図だったみたいにミルダルスたちが

 ウォークライをあげて怪物の群れに突進した。


 あいつらも狂ってんな。

 十倍以上の数に躊躇なしかよ。


 突出したミルダルスに群がる怪物たち。


 よし、群れで行動してるが知能は高くない。

 ミルダルスが突撃したおかげで図らずも梯団構成。


 敵の横っ腹に予備戦力を突入……

 といきたいとこだが、こっちは防衛専用だ。


 今はまだ、こっちへの圧力を減らしてくれるだけで

 ミルダルスの働きは充分。


 来た、きたきたきた……


 ミルダルスに群がってるのに比べれば

 その数はまばらだけど、

 近くで見るとわりとデカいし、グロい。


 軽自動車くらいのデカさと速度で突っ込んでくる。


 結局、俺どうするつもりだったんだろうね?

 かっこつけて前に出て、突っ立ってるだけで。


 なんも考えてなかったな。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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