第四十三話 殺し合うというのは互いに見つめ合うことだ
腕が……
疲れてきました。
あれ? おかしいな?
すぐ来るかと思ったんだけどな。
かっこつけて高く掲げたりするんじゃなかった。
ヤベ、手が震えてきた。
どーすっかなー、一旦下ろす?
んで来たらまた上げんの?
かっこ悪くね?
いやそれ以前に俺、間違えてないよね?
解釈違いとかだったらどうすんの、これ。
なんか不安になってきた。
いい感じのとこに枝発見。
やっぱランタンかけとこ。
あー、疲れた……て、
やっぱ振り返ったらいるじゃねえか。
光の届くギリギリんところに佇む影。
鳥の羽みたいなのに覆われた黒いローブ。
間違いない、処刑人だ。
まずは解釈合ってた。
おめでとう。
でも俺がイキってランタン掲げて
勝手に不安になってキョドって、
いそいそとランタンかけなおしてるの見られたわけ。
いきなり大ダメージだわ。
遭遇直後に一乙なみだわ。
ソロじゃなく、マルチでね。
いたたまれない空気がもう……
「どうして俺がここにいるんだ、て顔だな」
見えないけど。
恥ずかしいときこそ勢いだ。
それっぽい雰囲気で押し切れ。
「俺の深謀遠慮は未来を見通す。
お前の正体もわかってるぞ。
投降しろ。ここで終わりにしよう」
まずはハッタリ。
これですんなりいくとは思ってない。
ただ、なんか喋ってくれたらいいなって。
あ、身体を左右に揺らしながらこっち来た。
おいおい、名乗りくらいあげろよ。
そんなんじゃ四天王になれねえぞ。
「やめておけ。ころ……殺したくない。
俺はイーライ・デウの一撃にも耐え、
あの狂乱の天使が逃げ出すほどの……
おい聞けよ、大変なことになるって言ってんの、
あーくそ、やっぱダメか」
集中だ。
見えてはいるんだ。
そもそもエリン様の身体は本来の俺とは
比べ物にならないくらい高性能。
俺がうまく使えてないだけ。
キャラは強キャラなんだよ。
プレイヤーがヘボい。
とはいえ同じ個所への同じ軌道ならさすがに反応できる。
首狙いの横凪ぎ。
ジャスト回避なんか狙わなくていいから、
余裕をもって避けよう。
エリン様の反射速度ならいける。
足を引きながら上半身をのけ反らせ……
フェイントかよ。
余裕をもって回避なんかするから
見てから反応されてる。
引き付けてのジャスト回避推奨。
首を狙って振りぬいた袖に剣が引っ込み、
逆の袖から伸びた剣が俺の腕の付け根を切り上げる。
だがそれも対策済み。
俺、アクションは得意じゃないからさ、
どっちかつーとパターン攻略なのね。
アグニのときもそうだった。
わかりやすい大振りの一撃は、
相手を追い込むためのフェイント。
軸足には飛びのく溜めを残しておきましたとも。
……踏まれてる。
足。
いってえ、足の甲割れる。
こいつあんなにふわふわしてるくせに
でっかい岩が落ちるみたいなストンプしやがる。
他にできることなくて、とっさに腰をひねって、
そしたらなんとか腕が落ちるのは免れた。
エリン様、幸運持ちだ。
確率で被ダメ軽減のやつね。
避けたけど、脇の下を切られてる。
太い血管の通ってるとこ。
傷は浅いみたいだけど、血の気が引く。
気持ち悪くなる。
息が詰まる気がして、
それを否定しようと声を上げる。
ザコは喚かないと何もできん。
処刑人の胸に全力パンチ。
エリン様の力なら俺の不格好な正拳突きでも、
昏倒間違いなし。
手ごたえなし。
俺の拳はローブを突き抜け、
そのまま前に倒れ込むみたいによろける。
いつ脱いだんだよ、ローブ。
広がったローブに視界を遮られる直前に、
長い、片手で扱うには長すぎる剣が、
水平に弧を描いてくるのが見えた。
前に飛んだのは我ながらいい判断。
なんか踵に当たった気がしたけど、見ないでおく。
俺はしっかりローブを掴んでいて、
処刑人の顔を見てやろうと素早く起き上がった。
顔を見られるのがよほど嫌なんだろう。
背中を向け、身体全体でローブを巻き取るみたいに回る。
ローブごと引き寄せられて、
引っ張り返そうとしたら剣の柄頭が俺の顎を撃ち抜いた。
こいつはいつも、俺がいると思ったところにいない。
戦闘経験の差だ。技能の差。
目の前が眩しくて手をかざしたら、
剣が手のひらを貫通してきた。
先端は尖ってないからそこで止まったけど、
手のひらを突き通したまま剣が旋回し、
手首があっさり折られた。
骨が重い鉄の塊になったみたいに鈍く、
内側から手首を圧迫した。
痛みが吐き気と一緒になって喉元までせりあがる。
不機嫌な犬の唸り声なんか聞こえてこない。
俺の悲鳴しか聞こえてこない。
右手、使えなくなっちまった。
俺が使える唯一の力が。
エリン様の身体能力でごり押しできるなんて、
考えが甘かった。
クソだ。
真剣勝負なんて初見殺しだらけのクソゲーだ。
処刑人は俺を踏み台にして木の上の秘密基地へ
上っていこうとする。
俺じゃ勝てない。
涙と鼻水垂らしてうずくまってろ。
後で後悔でもして自分を責めればいいだろ。
なのに、なんでしがみついてんだよ。
こいつが俺を無視してでも秘密基地へ行こうとしてる。
そこに誰かいるんだって、
間違ってなかったって、
なんで喜んでんだよ。
痛いのと熱いのとで感覚がおかしくて、
とにかく痛みが大きくなれば力が入ってるんだと思って、
痛みを大きくすることに集中した。
すげえぜ、エリン様。
簡単に投げ飛ばしちまった。
思わずなんかいろいろ吹いて笑った。
「足りねえんだよ、俺の見た未来にはな。
切り刻まれて、血まみれになるにはまだ足りねえだろ」
初めてじゃないかな。
処刑人から感情みたいなものが伝わってきた。
ローブをマントみたいに羽織って、直立して、
袖から出すんじゃなく、両手で剣を持ってる。
剣の全体は見えてるから、隠す必要はないってか。
「ちゃんと人間じゃねえか。立派に足もついてる。
だったら喋れよ、会話しよう。
なんでこんなことしてんの?
話してみな、力になるよ?
どこ出身? 初めて買ったゲームなに?
友達になろうよ。誰か言ってたじゃん、
殺し合うってのは互いに見つめ合うことだって。
ちがったっけ~?」
なんだ俺? アホになってる。
俺、ジョーカーみたいに笑ってる。
膝もガクガク笑ってる。
処刑人の動きがスローモーション。
ウイッチタイム発動。
動かせるのは左腕と首の上だけ。
じゃあ左腕で受けよう。
アグニみたいに前に出て、根元で受ける。
あとは噛みついてでも、こいつを止めてあげよう。
もう友達だからね。
遠慮すんなよ。
相手の動きに合わせて前に出ようとして、
膝から力が抜けた。
立ってるだけで精いっぱいだったんだね、俺の足。
膝ついて、首を相手に差し出して、まさに処刑。
速さの乗った長大な刃は俺の腕ごと首を落とせる。
でも、そういう形になった瞬間、
ほんのちょっとだけど、処刑人の動きが鈍った。
処刑人が処刑を嫌がってるみたいだ。
ああ、そうか、思い出した。
処刑人ってのは不名誉な職業だった。
しかも親から子へ引き継がれる。
抜け出したかったんだろう。
名誉を、取り戻したかったんだろう。
俺の首を落とせばそれが叶うかい?
もっと早く気づいてやれたら、
お前も、守れたかなあ。
皮膚を突き破って、左手の甲の骨が立ち上がる。
生皮剥がれるような痛みが脳天まで走ったよ。
立ち上がった骨が指みたいに曲がって、
手の甲からもう一つ手が出てきたみたいに手首を掴む。
「白銀の……籠手」
エリン様の腕にあったガントレット。
一部でしかないけど、俺の手を覆ってる。
正直、迫ってきてる処刑人の刃より怖かった。
それに触れるとどうなるか、知ってたから。
剣が籠手に当たらないように引っ込めようとしたけど、
間に合わなかった。
あの音叉のような、空気の震える音がして
俺は思わず目を閉じていた。
直後、叫び声が聞こえたんだ。
男と女、重なって二人分。
女のほうはひどかった。
耳の中に爪立てられてるみたいなひどい声で。
鳥?
あるいは似てるとしたら、鳩だ。
読んでいただき、ありがとうございます。
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