第三十四話 なんかFFのボスみたいなこと言ってんね
朝、寒ぃぃ~~
いつも起きる前にリディアが暖めてくれてたのね。
横着してベッドの中で着替えちゃう。
顔を洗う水、キンッキンに冷えてやがる。
ありがたくねぇ~。
でも朝食はリクエスト通りのマフィン。
チーズ混ぜたやつで、前に俺が美味しいって言ったの、
ちゃんと覚えててくれた。
あとは種いっぱいのキウイみたいなフルーツのサラダ。
そして茹でたイモ。
イモはこっちの世界でも最強。
リセマラすんならイモ一択。
朝っていうか、もう昼に近い時間だな。
普通に寝坊してる。
エリン様と一緒に調査できるなんて知ったら
クロムが喜んで起こしに来ると思ったのに。
まだ遺体は見つかってないのかな?
しょうがない、俺のほうから行くか。
クロムの部屋ってまあ~せまっ苦しいんだ。
城主の使ってた執務室なんだけど。
持ち込まれた書物や得体の知れない小物の多いこと。
「これまた増えてない?」
「エリン様、お触りにならぬよう。
どれも厳選された呪いの品でございます」
なんかかっこいいフィギュアだけど?
この軍旗持ってるのとか神造形なんだけど。
「ついに生き物まで入荷してんじゃん。
これは、黒い……鳩?」
「珍しいでしょう。
王の森で弱っているのを見つけました」
クロムは鳥かごに布をかぶせ、
デスクでまとめていた資料を俺に差し出す。
「ご希望のリストです。
しかし驚きましたよ。エリン様自らが事業再編とは。
何かお気に召しませんでしたか?」
「お前の計画は安定的で持続性もある。
長期的に国力を高める観点で言えば、満点」
「──ですが?」
クロム、嬉しそうだな。
自分の事業を否定されるのを喜んでるみたい。
子の成長を見守る親の心境か。
「こいつは本の受け売りだが、人は変化のない労働を嫌う」
「やつらの好みを気にする余裕はありません」
「好みじゃない、性質だ。気質であり、本質だ。
そいつを無視したイデオロギーは破綻した」
「すればいい。何か困りますか?」
「俺の目指すトーレに住むのは悪魔だけじゃない」
俺はデスクに積まれた本を床に落とし、
空いたスペースに腰かける。
クロムは不満顔だが、今は俺の意見を通すとき。
態度もデカくやらせてもらう。
「人が融和を好むのは利益が担保されている間のみ。
恒久の利益などなく、すなわち恒久の融和もない」
「人は困っているときにこそ助け合える」
「一時の感情です。続かない。
やつらが続けられるのは憎しみだけ」
なんかFFのボスみたいなこと言ってんね。
よっぽど嫌なことあったんだね。
「じゃあやるなら今だな。
その一時の感情が失われないうちに」
クロムは微笑んでうなずく。
あっさりだな。
リディアにしろクロムにしろ、
エリン様に対して過保護すぎだろ。
最初から協力してくれるつもりだったのに、
言わずにはいられなかったんだ。
クロムから見た人間の姿を。
「まずは種族は関係なく、技能をもつものの中から
経験豊富な技術者を選んで主任に指名する。
器用なもの、体力のあるもの、対話の得意なもの、
目的に応じて人材を主任の下に集中させよう」
「種族は混合で?」
「そうだ。
今のように種族の特性で事業を振り分けるのではなく、
技能や資質で仕事を選ばせたい」
「私が種族ごとに仕事を分けた意図を
ご理解いただけていないようですね」
「わかるよ。種族間のトラブル回避だ」
「なるほど。目的的な人材の運用を優先し、
多少のリスクは厭わない、と」
「苦楽を共にしてこその信頼関係だ。
それに、そのトラブルも有効に活用したい。
問題が発生したとき、クロムたち悪魔に
積極的に介入してほしいんだ」
クロムが机を軽く叩いて笑ってる。
快諾してくれるみたいでありがたいけど、
こいつのことだ。
俺の意図をろくでもない解釈してんだろうな。
「巧妙なる支配の演出ですね。
そう、やつらに必要なのは支配なのです。
エリン様がそこまでおわかりとは、
失礼ながら思いもよりませんでした」
ろくでもない解釈してた。
「俺はただ、
問題があったら俺たちを頼ってほしいってだけ」
「今のエリン様のようにね。
ご安心を、悪魔は人に頼られてこそ」
「人間だけじゃなく、ミルダルスやグレイブンにも
悪魔への恐怖と畏敬がある。
クロムたちならうまくやれると思うが、
そいつを憎しみに変えるなよ」
「悪魔は甘やかすのが得意です。
代償を得る、その日まではね……」
笑顔がとろけるみたいに甘いね。
甘やかされてる俺とか、怖くなるだろ。
クロムが唐突に立ち上がって緑色のコートを羽織る。
ボタンは何かの獣の牙。
結構鋭い。
それ自分に刺さらない?
「なんだ、どっか行くのか?
リディアから聞いてると思うけど、今日は──」
クロムが人差し指を立てる。
クロムってちょくちょくアホだからわかりにくいけど、
仕草の一つ一つが優雅っていうか……
目を惹きつける。
人を黙って従わせる威厳がある。
カリスマってやつだよな。
「クロム様、急いでお伝えしたいことが」
「入れ」
ノックとほぼ同時の声に、
俺はデスクから降りる暇さえなかった。
今ちょっと気まずい感じのストラと対面。
ストラの尊敬するクロムのデスクに横柄に座ってる俺。
そりゃ目も合わせてくんないよな。
悲しいぜ。
「ご報告します。
王の森にて複数人の遺体が発見されました。
現場の状況から、警吏がクロム様の検分を要請しています」
「うむ。すぐに向かう。ストラ、
案内はいいから森に人が近づかないよう手配してくれ」
「はい。失礼します」
スンっとしててもかわいいなあ。
でもちょっと大人ぶってるっていうか、
大人びたっていうか。
国境の一件で変わったな。
それとも単に成長してるだけか。
「エリン様に挨拶もなしとは、まだ整理がつかないか。
申し訳ございません、
ストラには少し時間をあげてもらえますか?」
ストラが出て行ってしまうと、クロムがうやうやしく
俺の手を取る。
「ああ、いや、国境でのことは俺が悪かった。
俺が情けないとこ見せちまったから……」
おーい、顔を近づけるな。
君だけを見てる感出して笑うな。
お慰め申し上げなくて結構ですから。
「ストラも同じことを言っていましたよ。
エリン様に謝りたいと私に泣きついてきたのもつい先日。
すぐに以前のような無邪気な笑顔を見せてくれますとも」
ヤバい。
鼻ツーンってなる。
俺はやや乱暴にクロムの手を振り払い、
先に立って歩いた。
「でも案内はいらないってのはやりすぎだろ。
最初から知ってたみたいじゃないか」
「最初から知ってましたから」
「お前なあ……わかってんのか?
こいつは場合によっちゃ、難民たちに俺たちへの
敵意が生まれるかもしれないんだぞ」
「それが犯人の目的かも」
「サボタージュ?」
「難民の多くはサルワト教徒。
教会からトーレへの工作を指示されたものが
いないとも限りません」
「こないだの暗殺といい、やることエグイな。
神に仕えるもののやることかよ」
「神の試しは多くの命を奪います。
心が痛みますねえ」
「言ってろ。
でもそれは可能性の一つだ。
ハーパが契約したって可能性もある」
「どうでしょう。
さすがに誰かが契約すればわかると思うのですが。
私、こう見えても──」
「契約を司るんだろ。リディアに聞いたよ」
ちょっとしょんぼりしてる。
名乗りたかったんだね。ごめんね。
そういうの、悪魔には大事だよね。
「仮定に仮定を重ねることになるけど、
ハーパが契約してたとして、人間たちが求める
正義にクロムたちは応えられるのか?」
「私たちはエリン様の意思に従います」
「俺がハーパを処刑するって言ったら?」
「ただちに」
クロムが踵を返してどっか行こうとしたから、
慌てて止めた。
「待てって、仮定だっつったろ。何するつもりだ」
「すみません。
人の願望を曲解し、力を行使させ、
取り返しのつかない運命に追い込んだうえで
人にそれを自身の願望だったと誤解させるのが仕事なもので」
「ろ・く・で・も・ねぇ~、悪魔。
今回はそういうのなし。
俺はできれば誰にも傷ついてほしくない。
少なくともそこに明確な悪意があるとわかるまでは」
「でしたらよい方法がございます。
ハーパが契約して力を振るったのなら、
そこにはやはり契約者の意思が介在します。
契約者のみを人間どもに引き渡すというのは?」
「人は人に、悪魔は悪魔に、か」
「公正でしょう?」
「その場合、ハーパに悪意はない?」
「ありませんよ。明確には」
「……悪魔め」
「恐れ入ります」
褒めてねえ。
やっぱり邪悪なんだな、こいつら。
リディアとばっかり話してるとわかんないけど。
……それともリディアもそうなのか?
心のうちでは俺を嘲笑し、魂を狙ってるのか?
俺はゆっくりと首を振る。
そんなこと考えるのはよそう。
俺の教えたカーテシーで俺を迎えてくれる。
そのリディアを信じられなければ、
俺はこの世界の何も信じられない。
「何やら騒がしいですな」
クロムに言われて見てみると王の森の入り口付近に、
大勢の人が集まって口論している。
夜型のグレイブンまで来てるぞ。
「なあ、誰も近づけないように言ったよな?」
「先手を打たれましたね。
どうやら事件は知れ渡っているようです」
くっそ、これやっぱ工作かあ?
やめてくれよ、同盟が遠のく。
俺とクロムを見つけると口論してる連中の
半分くらいがこっちに来る。
聞き取れない言語もあるな。
俺が理解できるのはエリン様が喋れる言葉だけか。
「わかった、わかったから落ち着いてくれ。
まずは現場の状況を……聞いてくれ、おい掴むな」
まずいな、どいつも興奮しきってる。
まるで彼ら自身が殺されそうになってるみたいに。
そりゃそうだ、怖いんだ。
安全だと思ってたどり着いたトーレで
仲間が惨殺されたんだから。
「下がれ!」
ビビった。
雷落ちたかと思った。
みんな魂抜けたみたいになってクロムを見てる。
お前、そんな声出せたんだね。
「ウルティマ・トーレ宰相クロムである。
これよりエリン様じきじきに現場の検分を行う。
話はそののちに聞こう。今は誰も森に入るな」
おお、道が開いた。
クロムって聞いて青ざめてるやつもいるな。
いざ、現場へ。
もう知ってるけど。
「エリン様はお優しすぎる。
羊が崖から落ちそうになっていれば、
怪我をさせてでもまず止めねばなりません」
森を進みながらクロムが諭してくる。
うるせーよ。
俺はただの教師だぞ。
為政者の心得なんぞ、わかってても実践できるか。
「優秀な牧羊犬がいれば崖に近づく心配もない。
それよりお前、宰相だったんだ?
牧羊犬じゃなくて」
「適当に言っただけです。
そういう肩書も今後、必要になるかもしれませんが」
「もうちょっと国の体裁が整わないとな。
そのためにもこの事件は早期に解決しなきゃ」
「我が知恵があればそれほど時間はかかりませんよ。
このような些事、あまりお心砕きなさいますな」
「頼もしいじゃないか。自分でなんとかしたいって
気持ちもあるけど、直視もできないんじゃなあ……」
「エリン様の目は美しいものだけ見ていればよいのです。
それ以外はこのクロムが、
あなたの目の代わりとなりましょう」
「はは、ありがと。
でも俺はできれば醜いものも見たいんだ。
おっと、ここだ、さすがに臭ってきてるな……」
振り返るとクロムいない。
あっちの草むらで思いっきり吐いてる。
ホントこいつは、凄いんだけど凄くないんだよな。
んで俺も草むらにかけこむわけ。
仲良く並んで吐いてるアホ二人。
せっかくリディアがマフィン焼いてくれたのに、
もったいないね。
読んでいただき、ありがとうございます。
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