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第二十八話 サンクチュアリ

 なるほどねえ、これにそんな力がねえ。

 でもまあ、出どころを考えれば当然か。


 と俺が感心してるのは前回、狂乱の天使が連れてきた

 あのでっかいイーライ・デウの遺物。


 山をも砕くっていうハンマーの破片だ。


 近くで見るとほんとでかい。

 破片なのに学校のプールくらいありやがる。


 こんなの振り回すのと戦うなんざ、バカだねえ。


「なあ、これお前らはなんともないの?

イーライ・デウんときは近づくだけで焼けてたよな?」


「いま私が苦しんでるように見えますか?

怪物どもにしか効果はありません。

近辺の動植物がゲヘナから受けていた影響も消えました。

麦の生育もよく、食料の生産効率は群を抜いています」


「なるほど。確かにそれは有利な交渉材料だな。

さらに森を切り開いて耕作地にして、切った木は建材に。

半年ですごい発展ぶりじゃないか。

前はまともな家なんかなかったのに」


 リディアどうしたー?

 カメムシ食べちゃったみたいな顔してるぞ。


「難民ですよ。人間のね。ああ忌々しい。

これが怪物どもを遠ざけるとわかると、

多くの人間の難民が流入してきました。

その中に技師が含まれていたのです」


「いいことじゃないか。優秀なエンジニアは国の宝だ」


「あいつらは国民ではありません」


「まだそんなこと言ってんのか。

多様な種族を国民として受け入れれば、

それだけ同盟の幅も広がる」


「介入の口実も増えますよ?

同時に厄介事も抱え込むということをお忘れなく」


「うぐ……」

 くそ、プーチンのせいで反論できない。


「ま、まあでも?

このままだと城の内と外で別の国になっちゃうぞ。

国家は国家内国家を認めない。衝突する前に手を打とう」


「それならこの後、それぞれの種族の自治長との面会を

予定しています。言っておきますが、大変ですよ」


 うわ、なにその邪悪な笑み。

 俺が苦労するのを見るのが楽しみですってか。


 悪魔め。


「ところで……その~、リディアさん?」


「なんですか、急にもじもじして。

可愛いでしょうが。抱きしめますよ?」


「そういうのは本物のエリン様のときで。

えっと、この破片が影響する範囲の呼称ってあります?」


「ありませんが……

名前、つけたいんですか?」


 全力でうなずく。

 だってここは人類に残された唯一の安住の地。


 たぶん。


「……言ってみなさい」


「しゃ──」

 噛んだ。

「サンクチュアリ」


「意味は?」


「聖域」


 腰に手を当てて威圧的だったリディアも思わず笑った。

 そうだよね。ここ、悪魔の国だもんね。


「いいと思いますよ。

そのユーモアは神には通じないでしょうが、

それこそ悪魔らしい諧謔というもの」


 思わずガッツポーズ。


 やったぞ、ホラドリムの同胞たちよ。

 俺は異世界にサンクチュアリを作ったよ。


 これもうトロフィーコンプでよくね?


 感極まって、でっかいトロフィーに

 両腕広げて張り付いていると、

 遠くから俺たちを呼ぶ声がする。


 クロムか?

 農閑期の畑に用のあるやつなんていないだろうし。


「おーい、リディアさーん」


 リディアさん?

 誰だ? 俺の知らない男の声だ。


 走ってきてるのは垂れ目の長身爽やか君。


 いろいろ道具の入ったウエストポーチを提げてて

 手ぬぐいを首にかけてる。

 仕事の途中で抜け出してきたって感じだ。


 笑顔が甘いね。村瀬に言わせるなら、

 このスイーツ系男子がよ、てとこだな。


「どうしました、ヨナさん。会談の時間ならまだ先ですよ?」


「いえ、もうお見えになられてると聞いて。

今日の会談にはぜひ、新しい公会堂を使ってもらいたくて」


「ああ、あなたの設計した。みなさんの要望があったのは

ついこのあいだなのに、仕事が早いですね。

素晴らしいです」


「いえ、そんな……素敵だなんて……」


 言ってねえよ。


 なんだこいつ。見るからに舞い上がってんじゃねえか。

 リディアの前で。


 リディアの前で。


 リディアしか見えてないし、声は上ずってるし。

 なんか距離も近いし。


 ふわっとしてんのに意外とがっしりしてて

 手なんかごつくて職人しててかっけーし。


 俺より若いし。

 リディアもなんか十代の女子みたいに笑ってるし。


 あ、ダメだこれ。

 自分と比べちゃってる。

 その時点で負けてる。


 なんだよ、急にこっち見やがって。

 呆気にとられた顔してんじゃねーよ。


 今日の俺、そんなヘンな格好してないだろうが。

 防寒着のマントにくるまれてるから

 首回りもこもこでちょっと可愛いだろうが。


 下は大変なことになってるよ?

 リディアにミニスカートブームが到来してるおかげで

 足と背中が八割露出してるワンピースだけど。


 お前になんかぜってー見せねー。

 だからってリディア見んな。


「あの、こちらはもしかして……」


「そうです、この方がエリン様。我らが守護神です」


 おお、一瞬で両膝ついて平伏した。


 リディアは気分良さそうだけど、

 俺は騙してるみたいな気がして申し訳ないんだよな。


「申し訳ございません。エリン様のお姿について

あまりにも多様な噂が飛び交っておりまして……」


「いいよ、そういうのは。他のみんなにも言っといてくれ、

俺に頭を下げる必要なんかないって。

リディア、こちらの方は?」


「建築技師のヨナさんです。各地で聖堂建設に携わった

経験がおありで、それ以外の知識も豊富です。

区画整理や水道の敷設などにも尽力されておいでです」


「いえ、それらはマーパさんのご指導があってこそ。

あの方の知識には驚かされます」


「マーパは契約で築城などの知識を授けていましたからね。

ですが、実践はあまり経験がないのであなたのような優秀な技師と

作業できるのは彼女にとっても有益でしょう」


「そんな……優秀でかっこいいなんて……」


 言ってねえ。


「ですが姉のハーパは人を切り刻んで食べるのが好きです。

今の彼女にその力はありませんが、

誰かと契約でもしようものなら大変危険です。

気を付けてください」


 ヨナたん、顔真っ青で絶句。


 ついでに俺も顔真っ青で絶句。


「おや噂をすれば……」


 思わずヨナと手を取り合って飛び上がったよ。


 だって怖いもん。


 そんな人を食う悪魔なんて聞いてないよ。

 ストラやリディアからの脅威度の振れ幅がすごい。


「マーパではないですか。

あなたまでどうしました? まだ午前の仕事中では?」


 よかった~、妹のほうだった。


 ああ、いいねえ、片目隠れ女子。


 むらのある青のローブ着て服装に気を遣ってない感じで、

 でも寝ぐせはちょっと気にしてるね。


 良バランス。

 隙間を埋めるように確実な需要が狙える。


「どうしたって言うならヨナを呼びに来たんだけど……」


 なんか俺のほうをじっと見つめてる。

 ていうかヨナとつないだ俺の手を。


 こんガキャ、

 いつまでビビってんだよ、離せよ。


 俺がヨナから離れるとマーパはくだらなそうに

 鼻を鳴らし、俺に詰め寄ってくる。


「でもその前にちょっと、エリン様と話がしたいかな」


「エリン様と?

今後の開発についてなら私か兄さまが聞きますよ」


「リディアはいい。あっち行ってて、できるだけ遠く」


「なっ……」


 マーパは俺の手を掴んで強引に破片の裏へと

 連れて行こうとしてる。


 ヘルプ。リディア、ヘウプ。


 こういう何考えてるかわかんないのとは

 できるだけ二人になりたくない。


「待ちなさいマーパ、

エリン様にはこの後、大事な会談があるのです」


「そ? 公会堂でしょ。私が連れてくよ。

ヨナ、リディアと先に行ってて、案内してあげなよ」


「あのー、俺も公会堂の案内、してほしいなあ」


「私がしてあげる。いいからこっち来なよ。

話してくれないなら、今やってる事業から手を引くよ?」


 リディアが渋面で首を振ってる。

 リディアでも手に負えないタイプか。


 わかってる。せいぜいぼろが出ないように注意するよ。


 俺が素直に従うとマーパはリディアに向かって

 虫を追い払うみたいに手を振った。


 あれはかなりイラついてるときの無表情ですね。

 どうなっても知らねえぞ。


 ヨナは……まあ嬉しそうだな。

 リディアと二人きりだしな。


 クソが。


「で、話ってなんだよ?

他にも見て回りたいとこがあるんだ、手短に──」


 ハイ、壁ドーン。

 こっちの世界で二回目。

 今度は女子に。


 身長、エリン様とそんなに違わないのに迫力あるなあ。

 顔近づけられるとわりとジト目な感じで、

 無遠慮にこっちの腹を探られてる気分。


「あのさ、エリン様……」


 ちょっと言いよどんだ。

 なんだ? 悪魔同士じゃ言いにくいことか?


 でもそんなの俺に相談されても余計に困る。


「エリン様はさ……シたいの?」


 ん?


 破片の上で見たことない鳥鳴いてる。

 二羽並んで仲良さそう。


 あー、あと干し草とか積んであるから牧畜とかも

 やってるんだろうな。


 こっちの家畜ってどんなだろ。

 馬は普通にいたから牛とか豚とか?


 うん。今日はちょっと寒いけどいい天気。


 うん。

 そんで……


 今、こいつなんて言った?

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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