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第二十話 終わる日を乗り越えても俺が終わる

 怯えてなんかやるもんか!


 と啖呵を切ったはいいけど怖いものは怖いわけで。

 何かと理由をつけて誰かが白石と一緒にいたよ。


 俺の教師生活十年で初めて

 女子三人と昼食を食べるってイベントも。


 まいったな、モテる教師みたいじゃないか。


 授業で脱線するなだの、あてた女子生徒に気があるだの、

 わけのわからんダメ出しを食らってただけだが。


「んでもよー、なんでセナコーが説明会に出んの?」


 放課後、説明会の準備を三人に手伝ってもらっていたら、

 カリンがたいして興味もなさそうに聞いてくる。


 こいつ、サボりたいだけだな。


「斎藤先生が心労で倒れた。

村瀬、テーブルのそっち持ってくれ」


「はあ……ついに私も呼び捨てですか。

サリちゃんゴメン、これはそういうのじゃないから」


「誰でもいいから持ってくれ」


「斎藤先生、ダメだなー。マッチョは気が小さいってね」


「男はみんなそうだ。女が思ってる半分もない」


「先生のは思ってたより大きかったよ?」


「どのくらい? ちょっと手で大きさ教えて」


「んとね、こんくらい」


「そんなに!?」


「だ・れ・か、そっち持ってくれ」


「はいはい、キレんなし。

斎藤先生がなくなったのはわかったけど、

なんで代打がセナコー?」


「死んだみたいに言うな。

斎藤先生と金森のことで話したからかな?

あとはこないだのこともあって、

俺がいると安心する保護者もいるんだと」


「すげーじゃん、頼られてるよ、それ。

情報に惑わされてんなー、保護者。実物見たらがっかりするぜ」


「頼られたからって給料上がらないんですよね。

公務員って頑張りがいないですよね」


「先生が頼られてると私も嬉しいよ。みんなに自慢してい?」


「お前らはいろんな角度で俺のメンタル削ってくるよな。

そういうわけだから俺はすぐには帰れん」


「んー、じゃ晩御飯は先生のだけ別にしとくね?」


「……お前らは今日も俺の家に泊まるのか?

互いの家に泊まってることにしてるからって

親御さんはなんにも言わないのか?」


「村瀬に勉強教わってるならオッケー」

「今度二人を家に連れてくるなら構わない、と」

「二人の家ならどっちでもいいって。今度お礼、持ってくね?」


 こいつら、俺の家に入り浸るのも今だけたよな?

 じゃないと終わる日を乗り越えても俺が終わるぞ。


 こいつらがダラダラやってるせいで予定より時間がかかった。


 準備が終わってからも説明会が始まる直前まで残って、

 リハとか言いながら俺の女性遍歴を追求してた。


 ねえよ、そんなもん。


 終わる日までには数日の余裕がある。

 それでもやはり怖かったんだろうか?

 俺と一緒にいたかったんだろうか?


 説明会が始まる前に資料を読みながら

 教頭と打ち合わせている間も、

 俺は白石たちのことを考えていた。


「瀬名先生は会合でフェアウエルというアプリについて

発言されていましたよね?」


「ええ。別の生徒から相談を受けていました」


「そうでしたか。

どうやら今回の事故とそのアプリを関連付けるような話が

SNSで注目されているようでして。

おそらく保護者の方からも質問があると思います。

回答をお願いしても?」


「私もそれほど詳しくはありませんが、わかる範囲でいいなら」


「構いません。

はっきりとわからないことには答えず、調査中と」


「実際、調査することになるでしょう。

でもどうします?

生徒のスマホをチェックするわけにもいかないし」


「そこは保護者の協力をお願いするしかないでしょう。

穴だらけの調査になりますね」


「なんでただの教員がこんなことせにゃいかんのですかね?」


「聖域で働く大人の責任ですよ、瀬名先生。

結局は見守るというのが何より難しい」


「……そうですね」


 俺はふいに笑ってしまって教頭先生から顔を背けた。

 別に彼を笑ったわけじゃない。


 ただ、気づいたんだ。あいつらが帰らなかった理由。

 三人のうち誰かが、必ず俺を見てた。


 ほんとダセえな、俺は。


 生徒に見守られてんじゃねえか。


 情けないやら嬉しいやらで、

 あいつらにケーキでも買って帰ろうって思った。


 説明会でも頭がクリアになって理不尽な糾弾も受け流せたし、

 相手を傷つけないように気を配った回答もできた。


 俺って単純。


「あの……今日は斎藤先生は来られないんですか?」


 まるでしびれを切らしたみたいな

 その質問で雰囲気が変わった。


 とたんに保護者からの目が厳しくなり、

 斎藤先生を出せ、みたいな空気が伝わってくる。


 どういうことだ?

 隣にいる教頭先生も困惑してる。


 ここは俺が受けるか。


「斎藤先生は体調が優れないため、欠席しております。

また改めて斎藤先生を交えた話し合いの場を

設けられればと考えています」


「違うんです、事故のことじゃないんです。

いま、フェアウエルについてお話しになられましたよね?」


「ええ、利用してしまって不安を覚える生徒がいる場合、

学校側でもスクールカウンセラーを置いて対応していきます」


「昨日、うちの子が話してくれたんです。

使ってるって、消せなくて怖いって。

聞いたら、教えてくれたのは斎藤先生だって言うんですよ」


「は?」


 マズった。

 間抜けな声出した。

 こっちが把握してないって言っちまったみたいなもんだ。


 ざわついてる。

 でも俺は足元から這い上がってくる寒気でマヒしてる。


 黙れよお前ら、何言ってるかわかんねえよ。


 頭より身体が先に気づいてる。

 何か間違ってる。


「……教頭先生、今日、なんで俺を呼んだんですか?」


「え? 聞いてませんか?

斎藤先生が、瀬名先生にお願いしたって……」


 俺は席を立って走ってた。

 走りながらスマホ出して白石に電話かけてる。


「クソ、なんだよこれ」


 スマホの画面がフェアウエルのアイコンだらけになって、

 どこ触ってもフェアウエルが開くだけだ。


「バカか俺は。

誰が決めたんだよ。

終わる日じゃなきゃいけないって誰が決めたんだ」


 呪いのアプリなんてバカげてるって言いながら、

 終わる日のことは勝手に信じてた。


 関係ないだろ。


 本来、悪意は時も場所も選ばない。

 だから怖いのに、それがわかると思い込んでた。


 あるいは思い込まされた。


 エリン様の身体って普通っぽかったけど、

 やっぱ凄かったんだな。


 自分の身体だと足は遅いし、すぐ息切れする。

 家まで一瞬だって止まる気はないのに足が前に出なくなる。


 膝に手をついて吐きそうになって、

 そんで意味ないってわかってんのにスマホを取り出す。


 はい、フェアウエルだらけの画面。


「ふざけんな、ちくしょう」


 あーあ、やっちゃった。

 スマホ、地面に叩きつけてる。


 駅前で周りにもけっこう人がいて

 俺のことやべえヤツって感じで見てる。


 ほんとにやべえヤツならよかったのに。

 嫌になるくらい普通だよ。


 恥ずかしそうに壊れたスマホ拾って、

 喘息みたいに喘いで、汗だくで、

 家に着くころにはすっかり弱気になってる。


 エリン様じゃない俺が駆けつけて何ができる?


 動画の自分見て、周りからヒーロー扱いされて、

 勘違いしちゃった?


 俺はエリン様じゃない。

 ただの人間。普通の教師だ。


 怖え、冷静になっちまうとめちゃくちゃ怖え。

 胸を叩いて、足も叩いて、叫びながら家に突撃したよ。


 ダメなやつってのは何やってもダメだな。


 俺に何かできるとしたら相手の不意をつくのが前提なのに、

 叫んで、自分が来たのを教えちまってる。


 玄関のドアが開いたまま。


 飛び込むと纏わりつく湿気と熱気。


 汗の中に沈み込むような血の臭い。


 なんで近所の人に助けを求めねえの?

 警察呼んでもらうとかさ、

 いろいろあるだろうが。


 でも台所に入って、そんなの無駄だと思った。


 耳の中にゲンコツ突っ込まれたみたいに頭が圧迫されて、

 目まいでぶっ倒れそうになったよ。


 俺がいつもゲームしてるソファの上、天井。


 カリンと村瀬が張り付いてる。

 空気抜かれたみたいに服が身体に密着して、

 手足が捻じれるようにして押し付けられてる。


 粘りのある鼻血が糸を引いて垂れてて、

 それだけなのに空気が赤く煙っていた。


 俺は呆然と立ち尽くして祈ってた。

 何してんだ、早く来いよって。


 俺じゃ無理だ。


 これ、俺じゃ無理だよ、

 

 ……エリン様。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探りで執筆中です。

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