第九十九話 強烈なファンタジー脳だからどうしてもよぎる
それからカリンはなななッズの魅力についてとうとうと
諭してくれたわけだが……
ニグとなななッズの接点はデザインを提供した一度きり。
それから何年も経って、菜穂さんたちが起業したカナンのAIが
ニグで使うアバターに採用された。
「偶然……じゃねえよなあ」
「何が? ねえちょっと前見てる? 見えてる?」
「なあカリン、そのデザイナーがデザインを提供した経緯って
わかんないか?」
「ええ、そこ? ピンポイントで来るやん。興味の方向性おかしない?
えーっと、なななッズの三人があまりに楽しそうで、眩しくて、
自分も仲間になってみたくなった……みたいな話?
SNSでたまに有名人と繋がっちゃうやつ」
「話題作り」
「それを言っちゃあ、おしめーよ。夢ないなー」
「教師だぞ? 現実語る商売なわけ。でもそのときはまだ四頭身だろ?
デザインを提供してもらっても反映できんだろ」
「確か、一緒にアバター制作のツールも提供してもらってたはず。
それを使って安奈さんがシマナツをアップグレードする動画が
専門的すぎてイミフで、でもそっちの界隈でバズってた」
「天才高校生ってやつだ」
「杏奈さんはそんときから特別だったよね」
「その後は?」
「半年くらいでなななッズは突然、配信を終了。他の動画とコラボとかの
話も出てたのに急だったから、いろいろ言われてた。
だいぶ後になって夏実さんが亡くなったってわかったけど。
泣いたなあ……動画の中じゃ、そこまで病気が悪いって言わなかったんだ。
いつも元気で、笑ってるとこしか、ね」
となると、夏実さんが終末期医療を受け始めたころか?
夏実さんが死を強く意識し始めたころ。
唐突に提供されたデザイン……
急激に進化したシマナツ……
今の俺は強烈なファンタジー脳だから、どうしてもよぎる。
『契約』の二文字が。
クロムならわかるかな。なんと言っても契約の悪魔だし。
でも、今度向こうに行くのを待ってる時間はない。
異常に進化したシマナツ、シーマの登場、関谷さんを殺した
杏奈さんと群道君。
異世界じゃない、俺の世界で何かが起こってるんだ。
そしてそれらが不気味に繋がってるんだ。
「セナコー? おいセナ……先生ってば!」
いきなりカリンに肩を揺さぶられた。
後続車にクラクションも鳴らされてる。
「ああ、すまん。考え事してた」
「顔……」
「うん?」
「顔が怖い。それは絶対に学校ですんなよ」
「人気がなくなるなら望むところだ」
「たぶん学校にいられなくなる」
どんな顔してたの、俺?
向こうの世界での行動に影響受けすぎだな。
そうだ! ゲームしよう。そういうときはゲームだ。
ゲーム大会とかほざいて、白石たちに俺の得意なゲームをやらせよう。
んで俺が無双する。
完璧なプラン。
ウキウキしながらレンタカーを返却した。
ガソリンスタンド併設で給油もらっくらく。
鍵を返して、手続き済ませて、ハイ終わり。
よーし、みんなを集めよう。
今夜は寝かさないぞー……マジで。
って意気込んで外に出た。
マジで?
背広とかワイシャツ姿の男女三人が店の前に立ってる。
勘違いじゃなければ、目も身体も俺に向けてる。
隣にいたカリンも脅威を感じたのか、半歩下がって俺を盾にした。
「瀬名浩一さんですね?」
背広が声をかけてきた。俺と同い年くらいだけど、なんていうか
圧が違うのよ。壁が迫ってきてるような圧迫感。
他の二人も横に広がって半包囲。
そして撃ち込まれる実弾……警察手帳ですね。
手帳機能のないバッジみたいなやつ。
ちゃんと確認してね、て目線を送ってくるけど、大抵の人は
そんなもん見せられても本物かどうかなんてわからん。
「関谷さんのことでお話を伺いたいので、一緒に来ていただいても?
そちらの七海菜穂さんもできればご一緒に」
女性警官がカリンに寄っていき、カリンが俺に向かってうなずく。
逃げるなよ?
帽子を取っただけでした。
女性警官が少し驚いていて、背広とワイシャツが短く言葉を交わす。
女性警官がすぐに誰かに連絡してる。
「それ、今すぐに一緒に行かなくちゃダメなんですか?」
行かないとは言わない。でもすぐには要求に応じない。
年取ってくると、こういう当たり障りのないラインが
見えるようになってくる。
「できれば今から来ていただきたいのですが」
「すみません、その子のお姉さんが迎えに来るので、それまでは
一緒にいないといけないんです」
全員の目がカリンに。
ヘイトをコントロールするスキルを使っちまった。
後衛がピンチだ。
「失礼ですが、そちらの子は学校の生徒さんですよね?
以前も休日に一緒にいることがあったようですが、不適切では?」
「いえ、その子のお姉さんとは以前からの知り合いなんです。
それで頼まれて、個人的に進路の相談なども受けていますね」
カリン、口が半開き。まさか信じてないよな?
いいから喋るな。ここは俺に任せておけ。
「どうなんでしょうねえ、
ちょっと少年担当課に聞いてみないとわからないですね」
普通はまず青少年サポートセンターとかじゃない?
明らかに防御力の低い後衛が狙い撃ちされてる。
でもこの人いま、以前からって言ったな。
俺のこと調べられてる。あのベテラン刑事の忠告が身に染みる。
「そんな大げさなことじゃありませんよ。親御さんに確認して
いただいても構いません。あくまで学校での指導の延長です」
「それはもちろん信じているんですけどね、瀬名先生、確か自宅で
同僚の教員による暴行事件の被害にあわれてますね?
そちらの子はそのときにも一緒にいたはずです。何か危険なことに
巻き込まれていないか心配なんですよ」
もちろんこんなの言いがかりだ。突っぱねていい。
けど、向こうがどれだけ本気かわからない。
もしカリンが補導なんてされたら、高校三年生の大事な時期。
これから両親も説得しなきゃいけないってのに、今後に響く。
わかってるよ。これが脅しだってくらい。
無視できない脅し。
「カリン、お姉さんに連絡して、待ち合わせ場所を変えてもらってくれ。
大事なことみたいだから、僕はこの人たちと話をしてくる」
「……わかった、《姉さん》に連絡だね」
いつもの姉ちゃん、じゃなくて姉さんとあえて言ってる。
ナイスだカリン。菜穂さんに連絡してほしいのをわかってくれたか。
俺が任意同行に応じたら、警察はカリンに構わなくなった。
さすがに関谷さんの事件とカリンは結びつかないだろ。
パトカーに乗せてもらえるかと思って期待したけど、
普通の乗用車だった。覆面パトカーでもない。
ラジオからは知らない女優がパーソナリティを務める番組が流れてた。
ワイシャツ君がこの子、アイドル上がりなんですけど演技が
抜群にうまいんですよと教えてくれた。
ありがとう。
その情報、今いる?
「無視してください。そいつ、誰にでもその子を推してくるんです。
私も名前、覚えさせられましたよ」
「声が涼やかで素敵ですね。なんていう女優さんなんですか?」
「神薙さあや。これ本名だなんて信じられます?」
「神薙は知りませんけど、さあやって子なら、前の学校で
担当した生徒にいましたよ」
なんかワイシャツ君がテンション上がってる。
本名だとそんなに嬉しいんか?
ただ、菜穂さんが読んだっていうマンガのせいで一瞬、ドキッとしたよ。
あのイジメられてた子。
さあやって名前だった。名字は違うけどな。
警察署で話を聞かれたのは会議室みたいな場所で、聴かれた内容も
関谷さんの家に行った日のこと。
一日の行動を朝から順番にってやつ。
要するにもう話したことの繰り返しだった。
菜穂さんとの関係についても聴かれたけど、学校の先端教育プログラムで
知り合ったっていう事実を話すだけだ。
警戒しすぎだったかな。
これは通常の事件捜査の一環なんだろう。
……なんて余裕かましてたら、写真を見せられた。
ブレードランナー。
血の付いた砂鉄入りグローブだ。
あのとき、気が動転してすっかり忘れてた。
なんでこんなもの持ってたのかって聞かれたら、
説得力のある説明なんかできない。
しかもこれ、持ってきたの菜穂さん……。
「なんでこんなもの、持ってたんです?
関谷さんとはAIの話をするだけの約束だったんですよね?」
やっぱりそうきますよね。
読んでいただき、ありがとうございます。
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