若者陰謀論【1000文字未満】
「最近の若者は……」
中年おじさんの言葉はいつもこれだ。何かとつけて若者は悪とした。同調する太鼓持ちの出っ歯が酒を注ぐ。古錆びた居酒屋。そうだそうだとうなずくばかり。
「若者は忍耐が足らん。少し怒鳴った程度でどうこう言いおって」
「全くですなぁ。全くですなぁ」
出っ歯の音頭に気を良くしたか、中年はにんまりと笑う。酒も回って口も回る。
「そういえば聞いたかい。最近の若者は政治にくい込み、自分達の言いなりにしているらしいよ」
「大変ですなぁ。全く若者は」
「うむ、そうだ。少子高齢化が進んだからといって、自分達の毒牙を国に立てている。確かに若者は減ったかも知れないが、老人が蔑まれる理由にはならない」
「その通りですよ。若者は国を乗っ取る気だ」
二人は敵を得て仲間を得たと笑い合う。彼らの脳裏には自分達に頭を下げる青年達がいる。なぜか女性は含まれていない。
中年はあることに気付き首を傾げた。
「しかし、あいつらが政治を操っているとなるとだ。我々への月間給付金がなくなったのは彼らのせいなのか?」
「その通りでございます」
「では、優先席に老人ではない奴が座るのも?」
「その通りでございます」
「なら、老人が運転すると事故を起こす車も?」
「その通りでございます」
「なんてことだ!」
中年は頭を抱えた。おぞましい若者。彼らは自分達を相手に暗闘を仕掛けてきたのだ。この居酒屋には若者がいないから助かっている。しかし、人気の場所だったら。
寒気がする。もしかしたら、妻子に嫌われているのも若者のせいか。若者が彼女達を盗ろうとしているのか。
「気付いてしまいましたか」
居酒屋の店主がやってきた。影多き、深刻な表情。中年と出っ歯は自然と背筋を伸ばした。
「そう、お二方。この世の悪の裏側には若者がいます。奴らのせいで、我々飲食業界は苦しんでいる。無給で働いてくれないし……」顔を近付ける。「貴方も戦いませんか? 悪しき若者と。大丈夫、所詮奴らはマイノリティ。老人という多数派には勝てませんよ」
不安に直撃する魅惑は、脳を麻痺させるに丁度よい。中年と出っ歯は頭を縦に振り、秘密結社に入った。
一方その頃。中年の娘は老人の陰謀へ刃向かっていた。