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04

 

「……ん……んん!? 」


 目が覚めて、豪華な部屋が視界いっぱいに広がって一瞬パニックになった。そう、そうだ。ここは異世界。


 私は健人とおもちとこの世界に召喚されたんだ。

 真っ白の木で作られた大きな置時計は、Ⅷを指していた。元の世界との共通点が見つかって何だか嬉しくなる。

 大きな窓にはいつの間にかカーテンが引かれていた。そっと覗くと、墨汁をこぼしたみたいに真っ黒な上空には無数の星が瞬いていて、思わず感嘆のため息が漏れる。

 振り返って部屋を見渡せば、さっきお茶したテーブルに、手でつまめそうな軽食を置いてくれている事に気づいた。おもちも食べられるかな? とベッドサイドに目をやって━━。




「健人! 健人!! 」


 ドンドンと大きめに戸を叩くと、少しして扉が開いた。欠伸を噛み殺す仕草に、若干非難の色が滲む。寝てたとこごめんなさいね!!


「なに」

「おもちがいないの!! 」

「 !! 」

「私が寝てる間に出ていっちゃったのかも! お願い、一緒に探して! 」


 健人は頷くと一度部屋に戻り、腰に剣を差してから出てきた。手分けして探そうとの提案は即時却下され、呼び鈴で来てくれたメイドさんに事情を話し、彼女らにも協力してもらえることになった。


「おもちー! 」


  名前を呼んだ所であの子が自分の事とわかってくれる可能性は低い。けれど呼ばずにはいられなかった。

  王子の離宮は広大で、私はもう自分の部屋すらわからない。手分けして一人だったら、次の遭難者は私だったろうな。


「おもちー! 出てこーい」



 二十分程探したけど見つからず、部屋に戻ってるかもっていう希望に掛けたけど空振りだった。帰り道をしっかり覚えてた健人は化け物だと思う。


 もう一度探しに行こうとしたところで、おもちを抱っこしたレイと、ベリル、護衛の騎士数人がこちらに向かってくるのが見えて駆け寄った。


「おもちーーー!! もう! 心配したじゃない! 」


 おもちがレイの腕から私の胸に飛び込んできた。うっ! 可愛い……。許す。


「はは、おもちっていうのか。その子、ワゴンに隠れて部屋を出たみたいで、調理場にいたよ」

「お腹空いてたのー? ……もしかしてレイまで探してくれたんですか? ありがとうございます」

「……ヒジリ。私に敬語は不要だよ」


 レイは寂しそうに微笑んだ。うっ、いつ突っ込まれるかなと思ってはいたけど!

 いやー、健人は憎らしいくらいソッコーで馴染んでるけど、王子様だよ!? 無理に決まって…………ヒィッ捨てられた子犬みたいな目で見ないで!!


「…………………うん、わかったよ、レイ」


 ふ、とレイの雰囲気が一気に和らいだ。ううん……きっと年上だろうと思うのに、なんだろうこの弟属性は。おねぇちゃんぶりたい末っ子気質のせいで、どんどん絆されてしまっている。


「おもちに関して提案があったから、ちょうど良かったよ」


 おもちに関して? と腕の中のおもちと一緒に首をこてりと傾けるとレイがふふ、と笑みを深めた。

 いやー……イケメンだよねぇぇ。身近にいたイケメンのおかげで美形は見慣れていると思っていたけど、レイが笑うと心臓の鼓動が早まるのが自分でもわかった。


「聖」


 まじまじとレイの笑顔を見ていた私の意識を現実に連れ戻したのは健人の怒った様な声で。


「なによ」

「お前、こういうのがタイプだったのかよ。身の程を知れよ」

「あんただってベリルさん相手に鼻の下伸ばしてたじゃない」


 わざわざ腰を折って小声で私の耳許に落とされた台詞に、胸の奥底で燻っていた怒りが燃え上がった。


「はぁ? 伸ばしてねーけど」

「いいのいいの。あんたも健全な男子だもの。ベリルさんの抜群のスタイルに目を奪われても仕方ないわよね」

「あのなぁ! 」


 はは、ていう笑い声に、私はハッとして前を向いた。レイには笑われてるし、ベリルさんも困ったように苦笑してる。そうだよね。この距離だと小声でも聞こえちゃうよね!


「仲がいいんだね。二人はどういった関係なのかな? 」

「幼馴染なの。家が隣で」

「へえ。私とベリルも幼馴染なんだよ。じゃあ二人は婚約者とか? 」


 なぜ幼馴染=婚約者になるのか教えて欲しい。


「まさか! た・だ・の・幼馴染で、仲も全っっっ然よくないよ! 」


 大袈裟に頭を横に振ったら、レイの視線が健人に向いて、何とも言えない表情になる。


「ええと、とりあえずさっきの部屋に行きましょうか。そこでおもちさんの話をしましょう」


 ベリルさんに促され、ゆっくりと彼らの後ろについて歩きだす。



『あんたのことなんて、健人はなんとも思ってないわよ、身の程を知りなさいよ』


 ああ、嫌な事を思い出した。

 中学生になって数ヶ月経った頃。とても残念なことに同じクラスになってしまった私と健人は既に拗れていて、毎日の様に言い争いをしていた。


 それを何やら曲解した健人の、取り巻きに言われた言葉だった。


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