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初投稿です、よろしくお願いいたします
どうも皆さん初めまして。私、姓は早乙女、名は聖と申します。卒業を控えた中学三年生の十五歳。
どうもこの度、異世界トリップしたみたいです。
よりによって、大っっっっ嫌いな、幼馴染と一緒に。
事の発端は私。いやそもそも、あの悪ガキたちが……!! ゴホン。雪の散らつく学校の帰り道、川沿いの土手を通る私は、いつもの様に言い争いをしていた。誰と? なんて言わなくてもわかると思うけど、家が隣接してて両親の仲がすこぶる良く、産まれた時からの腐れ縁。大嫌いな幼馴染、木白健人その人だ。
「お前、俺の友達ひっ叩いたらしいな」
「『おまえらいつ結婚すんの? 』とかわけわかんないことを言ってきたからよ」
「いや普通殴るか? 」
「殴るでしょ。とてつもなく不愉快だったし」
「そんなことしてっから暴れ馬とか女じゃねぇって言われんだよ」
「言われたとして、あんたに何か迷惑掛けた? 」
「お前がそんなだから俺のとこに『お前んとこのじゃじゃ馬どうにかしろよ』って苦情がくるんだわ」
「あーらあら、それは申し訳ございませんでした! こっちも『健人はあんたみたいなのと好きで一緒にいるんじゃないんだからね! 』ていうありがた~いお言葉をちょうだいしてんのよ」
「……なんて返したんだよ」
「"それはこっちの台詞だっつーの! " 一択に決まってんでしょ。ていうか、"お前"って言わないで!! 私には早乙女聖って言う素敵な名前があるんですからね! 」
「お前も"あんた"って言うだろ!! 俺にも木白健人っつー格好いい名前があるんだわ! 」
フン!! とお互い顔を見ないよう逆方向に向ける。一事が万事、こんなしょーもない言い争いをしている。
家が隣ということは、通学路も残念なことに同じなわけで。
こうして帰り道に口論になることはこれまでもしばしばあった。疲れるし嫌な気持ちになるだけだから、帰宅時間をずらしたり健人が帰ったのを靴箱を確認してから帰ったりと工夫してるのに、いつの間にかこうして、一緒に帰りながら喧嘩することになっている。そう、今日みたいに。解せぬ。
本当に小さい頃、小学生に上がる前なんかはひぃちゃん、ひぃちゃんて後を付いてきた可愛い男の子は、中学生になって成長期を迎えメキメキと身長が伸び、あっという間に私の背を追い抜いた。
既に見上げないと目が合わないのがムカつく。あの天使はもういない。いくらクラスでカッコいい~とか目の保養~とか言われてても、私にとっては大嫌いな、ただの幼馴染へと変貌を遂げていた。
沈黙が続いて気まずい気持ちで視線をさ迷わせていたら、目の端に自分達と同じ制服の男が数人、小さな犬に石を投げたり、木でつついたりしているのが見えて咄嗟に走り出した。「おい! 」てアイツが後ろから追いかけてくる音を聞きながら。
ついてこないでと言う時間も惜しかったので放っておいた。
「何してるの! 」
「あ、木白嫁じゃん。ウザ」
私達が毎日飽きもせず喧嘩しているのはもはやクラスメイトどころか同学年全員、いや全校生徒が知る所なので、こうして"夫婦"や、"よっ! ケンカップル! " 等と揶揄されることは日常茶飯事で。もう否定するのも面倒なくらい言われて食あたりぎみだ。
なのに後ろから「嫁じゃねー!! 」なんてわざわざ反応を返すもんだから、馬鹿共にニヤニヤと腹の立つ視線を向けられて、私は怒りの炎に可燃材をぶちこまれた気分になった。
「っ、もうすぐ高校生になろうってのに、よくこんな弱いもの虐めができるわね。恥ずかしいと思わないの!! 」
犬とクソガキ共の間に割って入り、ギロリと睨み付ければちょっとたじろいたけど、向こうは三人という人数的優位を思い出したのか、私の肩をドンと押した。
「ほんっと可愛げねーなお前。オレらの勝手だろ!! 」
力加減のない衝撃にたたらを踏んだ私の足が、運悪く子犬の足を踏んでしまい「ギャン! 」という鳴き声が聞こえた。
慌てて振り返ると子犬は怯えた表情のまま走り出し、勢いあまって川に落ちて行くのが、スローモーションみたいに私の目に映った。
うそでしょ!!
「ワンちゃん!! 」
「聖!! 待て!! お前、泳げないだろ!! 」
健人の焦りが滲む声が聞こえたのは、私が川に飛び込み、子犬をガシリと捕まえたのと同時だった。
そうだった。私は毎年水泳が赤点で、泳げない代わりにグラウンド五十周という苦行を行う事で切り抜けてきたのだ。
しかし気づいた所で後の祭とはこのこと。前日の大雨で水かさが増していた川の勢いに足を取られ、冷たい水温に手足の感覚を奪われて、あっという間に流されてしまう。それでも腕の中の子犬だけは離さないように、両腕でギュッと抱え込んだ。
薄れゆく景色に私が見たのは、必死の形相で川に飛び込んでくる健人の顔。
力強く抱き締められた腕の感触を最後に、目の前が真っ暗になった。
「聖! おい聖! 起きろ! 」
「んん……」
目を開けてギョッとした。
私を覗き込む健人の顔面ドアップにもだけど、それよりも私達を囲むように大きな魔法陣……? があって。
こんなの漫画とかでしか見たことないけど、それが足元で微かに発光していたのが目に入ったからだ。
どくん、どくん、どくん。
私の心臓の音に呼応するみたいに明滅している様は、言い知れない怖さがあった。
よくよく魔法陣の外回りに目をやれば、何やら見たことのない服装──こっちも漫画とかゲームで見るような──をした人達がいて、私達を見て何か言っている。
まるで守るみたいに健人が私の肩を抱く力が強くなった。
変なの。いつもだったら『触らないでよ! 』『 好きで触ってんじゃねーよ! 』なんて言い合いながら喧嘩の一つでも起こりそうなもんなのに。
でも健人以外は知らない人達ばかりという状況のせいか、私はその手を払うこともなく、なんなら少し身を寄せていた。
「ああ……よくぞおいでくださいました、癒しの力を持つ聖女さま、そして誇り高き騎士さま……! 」
白い髪と白いお髭が胸辺りまであるお爺さんが両手を広げて、聖女、と言った時に私。騎士、と言った時に健人を見た。そしてゆったりと腰を折ってうやうやしくお辞儀した。
私はそれよりも、お爺さんの頭上の長い帽子に目がいってしまい、そんなに頭を下げたら落ちたりしないのかな、と勝手にヒヤヒヤしていた。
言われた事の意味がよく分からなくて、色々フリーズしてたのかもしれない。
すると突然、存在を忘れていた腕の中の子犬がプルプルと身体を震わせて水分を飛ばしてくれた。もう濡れ鼠だからいいけど、と目をやると所々血が出ているのがわかって、ふつふつとした怒りが沸いてくる。
よくもアイツら、いたいけな子犬にこんなヒドイ真似ができたわね……!!
「コイツ怪我してんじゃねーか」
未だに私の肩を抱いたままだった健人が空いてる方の手で子犬に触れると、カメラのフラッシュみたいな光が瞬いて、なんと傷口が一瞬にして消えた。
「えっ」
「えっ」
「なんと……」
私、健人の間抜けな声に、おじいさんの驚きの声が続く。
ええと、誰が聖女で誰が騎士、でしたっけ???