絶対に抜かせない伝説の剣との死闘
【実況】「挑戦シリーズ『伝説の剣は抜けるのか?』これより開幕となります。それでは神界の皆さま、盛り上がって参りましょう」
【観衆】『おおおおおおおおおおお!』
【実況】「序列2位のわたくしポセによる実況と、1位ゼウによる解説でお送りいたします。ゼウさん、本日はよろしくお願いします」
【解説】「よろぴく~」
【実況】「ジワジワと追い込まれていく人類は、伝説の剣を抜くしかありません。つまり、是が非でも伝説の剣を抜くしかないのです」
【解説】「超セクシーだねっ!」
【実況】「あっ! さっそく始まるみたいですよ。皆様、地上の様子を映す大型モニターにご注目ください。最初の挑戦者は『謎の仮面の戦士』となっております」
【解説】「ふーん。まあ、抜けないと思うけどね」
【実況】「そうですか?」
【解説】「そらそうよ。開幕マッハでエンドロール流されたら困るでしょ? だから前半は『こいつには無理だろ』って当て馬を用意するんだよ。所謂かませだね」
【実況】「なるほど。そういった裏の事情も加味して予想するんですね」
筋骨たくましい仮面の戦士は、大岩に刺さった伝説の剣に手を掛ける。
【実況】「挑戦者の態勢が整ったようです。それでは見守りましょう」
ズ、ズズッ。
【観衆】『おおおおおおおおおおお!』
【解説】「馬鹿なぁああああああ!」
ドンッ! とテーブルを叩く解説者。
【実況】「抜けていきます! 少しずつ抜けていきます! 企画は終わ――」
ズガン! バリバリバリ! シュウシュウ――バタン。
【実況】「何ということでしょうか! 突然の落雷により挑戦者が倒れてしまいました! 現場にはシュウシュウと白煙が立ち込めております!」
【雷神】『ん? 誰かいたのか? 悪いな。気が付かなかった』
ポリポリと頭を掻きながら、現場に雷神が現れた。
【現場】『救護班急げ!』
待機していた救護班が、仮面の戦士へと駆け寄っていく。
脈を測って瞳孔の動きをチェックした。
【現場】『命に別条はないようですが、要救助者には超長期の強制休眠が必要かと思われます』
会場がどよめいた。
【現場】『それでは、これより現場の復旧作業を開始いたします』
しかしモニター映像の端の方では、事情聴取の様子も映し出されていた。
【現場】『どうしてあんな事をしたんだ?』
【雷神】『ムシャクシャしてやった。どうでもよかった』
【現場】『もうしないと誓えるか?』
【雷神】『反省してまーす(チッ。うっせーな)』
映像がプツンと切れて、モニターには雄大な山が映し出される。
鳥のさえずりと『しばらくお待ちください』のテロップ付きだ。
【解説】「やったのは通りすがりのトールんだね。たまにこういう事するんだよねー彼(ナイス!)」
ひっそりと親指を立てる解説者。
【解説】「仮面の彼が空気読まないから、こんなことになったのかもね」
【実況】「そんなに空気読めていませんでしたか?」
【解説】「全く読めてない。飲みの初っ端から、山と盛ったフライドポテト出されるレベルだよ。『俺は芋食いに来てんじゃねーんだよ!』って怒鳴りたくならない? そんな感じ」
【実況】「なんとなく分かります」
【解説】「でしょう?」
なごやかな雰囲気になる実況席。
【実況】「では気を取り直して、次の挑戦者に参りましょう。プロフィールは『暗器の使い手』の~」
バサッ、バササッ、バササササササッ!
【実況】「大量のワタリガラスです! 暗器使いの行く手を阻んでおります! これでは挑戦できませんっ!」
【戦神】『烏が言うこと聞かないなー。変だなー(棒読み)』
【解説】「どうやらオデンのペットが現場で暴走してるようだね。残念だけど、暗器使いには諦めてもらうしかないかな。(お呼びじゃねーんだよ。けっ)」
それからも挑戦は続いていった。
挑戦者が現れない時は、時神の「巻き」で時間が一瞬で過ぎる。
その為、会場の熱が冷めることはなかった。
そしてついに本命の登場となり、会場のボルテージは一気に最高潮へと達する。
【実況】「いよいよやって参りました! 満を持して現れたのは、世界の希望を一身に背負うこの男『勇者』です!」
【観衆】『おおおおおおおおおおお!』
【解説】「これは楽しみだね。やってくれそうな気配がビンビンしてくるよ。まあ、彼は勇者なんだから、置きにこないで是非アグレッシブに攻めてもらいたいね」
【実況】「そうですね……っと、そうこう言ってる間に、さっそく勇者が伝説の剣に手を掛けました!」
【解説】「よし、ぶっこ抜け!」
勇者は深呼吸をしてキメ顔をすると、伝説の剣から一旦手を離した。
【観衆】『ああああああああ↓』
会場から溜息がもれる。
【解説】「パリピかよテメーはっ!」
ドンッと机を叩く解説者
その顔は真っ赤に染まっている。
【実況】「勇者も焦らしますねぇ。明らかに狙ってやってますよ」
【解説】「チッ。こいつは意図的に盛り上げようとしてるけどさ、そうじゃないんだよね。求められてるのは計算じゃなくてナチュラルボーンなんだよ」
机をトントントントンと、苛立たし気に指で叩く。
【実況】「あっ! 伝説の剣に手を掛けましたよ!」
【解説】「そうだ! やれ! 抜いてやれ!」
すると勇者は、伝説の剣から手を離して首をパキパキと鳴らす。
これ見よがしに屈伸運動まで始めた。
【観衆】『ああああああああ↓』
【解説】「さっさとやれやぁあああああああああ!」
ガンガンと机を蹴る解説者。
【解説】「パフォーマンスは要らねぇんだよっ!」
【実況】「お、落ち着いてくださいゼウさん」
ハァハァと解説者の息は荒い。
【解説】「トールん(首を掻っ切る仕草でテレパシー)」
【雷神】『アイサー(チッ。うっせーな)』
【実況】「さあ、勇者が伝説の剣へと手を伸ばします。今度こそやるのでしょうか?」
【解説】「やんなきゃやんないで面白い事になるけどね(据わった目」
勇者は剣を「掴んで」「離して」「掴んで」「離して」と、思わせ振りな態度を何度も取り続ける。
【解説】「…………小僧」
勇者の動きがピシリと止まった。
急いで剣の柄へと手を掛ける。
【実況】「一体どうしたんでしょうか? 怯えているようにも見えますが」
【解説】「どうしたんだろうねぇ(微笑)」
【実況】「しかし、これでようやく勇者の挑戦が始まります」
【解説】「はぁ。やっとだよ」
【実況】「でも不思議ですね。余裕を見せていた先程までとは打って変わって、勇者は切羽詰まった表情をしているように見えます」
【解説】「危機察知能力に長けてるんじゃない? 『このままだと殺される』とでも思ったのかもね」
そして勇者は、剣を抜こうと奮闘していった。
~30分後~
【実況】「残念。どうやら失敗のようです」
【観衆】『ああああああああ↓』
【解説】「力を使い果たしてるね」
【実況】「全身がプルプルしています。まるで生まれたての子鹿のようです」
【解説】「奴はどうするんだろうね。資料によると、かなりの大口を叩いて故郷を出てきたみたいじゃない。このままノコノコと帰れないでしょうよ」
【実況】「ん? 勇者が何かキョロキョロしてますよ。どうしたんでしょうか? 腰を落として座り始めましたが……って、土下座だぁああああ! なんと伝説の剣に向かって、まさかの土下座をしています!」
【解説】「おやおや。土下座までやるとはね。しかも、人がいないことを入念に確認してから実行する小物っぷり。これは大きなマイナスなんじゃないかなぁ。後ろめたさを隠し切れてないよこれ」
【実況】「いやしかし見てくださいよゼウさん。素晴らしい土下座じゃないですか。指先をピシっと揃えて頭を下げ、完全に負けを認めていますよ。若干の後ろめたさがあるにしろ、ここまでやれば、勇者の誠意が伝わるんじゃないですか?」
【解説】「いやいや。一見するとそうなんだけどね。額をよく見てよ」
【実況】「額ですか? あっ! 地面についてない! 僅かに頭が浮いています! 地面と額が接触していません!」
【解説】「そうなんだよ。小賢しいよねぇ。きっちり誠意を見せているようで、最後の最後で踏み止まってる。『剣如きが生言ってんじゃねぇぞ。俺は屈しねーからな』という、ケチなプライドというか、驕りが見えるんだよね」
【実況】「汚いな。さすが勇者汚い」
【解説】「こりゃもう無理だね。挽回は不可能だよ」
やれやれと首を振る解説者。
【実況】「勇者は土下座を終えて立ち上がりました。再度挑戦するようですね。今度は抜けるのか? 抜けるのか? 抜けるのか? 抜け……なーい! 抜けなかったぁあああ!」
【観衆】『ああああああああ↓』
【解説】「世の中そんなに甘くないから。『なんちゃって土下座』で茶を濁そうってのが間違いなんだよ。伝説の剣も、勇者の心の内を完全に見透かしてるね」
解説者が葉巻を取り出してスパァー。
【解説】「ま、半端モンは国に帰れってことよ。ははは」
トントンと灰皿に灰を落とす。
【解説】「伝説の剣を見てみなよ。剣の気持ちが伝わってこない?」
【実況】「見ておりますが、私には伝わってきませんね」
【解説】「『負け犬は俺の股をくぐれ』って見下してるよ絶対。ははは」
【観衆】『剣に股ねーじゃん!(一糸乱れぬ声)』
会場が一つになった瞬間だった。
【実況】「勇者はチャレンジに失敗しました。ですが私は、会場の一体感に感動しております!」
マイクを掴み、弁舌を振るう実況者。
それからも諦めることなく、人類は挑戦していった。
やがて正攻法での抜剣を諦め、様々な方法を模索するようになっていく。
魔法や砲弾や爆発物による岩の破壊 → 失敗
掘削機やドリルによる岩の破壊 → 失敗
溶剤や薬品使用による岩の溶解 → 失敗
失敗の実績だけが積み上がっていく。
それは、伝説の剣が周囲に結界を発生させていたからだ。
あらゆる攻撃を受け付けなかった。
~そして~
【実況】「ああ残念。世界最高の結界師が肩を落として帰っていきます」
【解説】「目の付け所は良かったけどね。結界消すのは無理っぽいね」
~更には~
【実況】「ロケットの推力でも引き抜けませんでした!」
【解説】「もうこれ無理なんじゃね?(鼻ほじ)」
~ついに~
【実況】「叡智の結晶、サテライト魔石レーザーの登場です!」
【観衆】『おおおおおおおおおおお!』
久しぶりに盛り上がる会場。
若干の飽きが来ていた観衆は、期待に目を輝かせて色めき立った。
【解説】「これはイケるかもね」
人類が選択したのは、静止衛星軌道上からの大出力魔石レーザーの照射だった。
【実況】「魔石レーザーが照射されれば、地上の一部が焦土と化すでしょう。しかし人類は、そこまでしてでも伝説の剣が欲しいのです!」
人の住む領域は、全盛期の1/10程度となっていた。
もう後がなくなり、サテライト魔石レーザーへと全てを託したのだ。
【実況】「おそらくは、これが最後の挑戦となるでしょう。挑戦シリーズ『伝説の剣は抜けるのか?』果たして成功となるのでしょうか!」
『抜かねーじゃねーか!』と叫びたい衝動を、誰もが必死に堪えていた。
モニターには静止衛星軌道上の魔石レーザーと、地上の様子が半画面ずつ映し出されている。
そして地上の魔導士達が、遠隔転送で魔力を充填していった。
【実況】「準備が完了しました。魔石レーザーが照射されます!」
モニターが白く輝いた。
しばらくすると輝きが収まり、映像が少しずつ鮮明になっていく。
【解説】「やったか?」
【観衆】『それフラグっ!(シンクロ率98%)』
映し出されたのは、フラグ通りに燦然と岩に突き刺さる伝説の剣だった。
【実況】「失敗しました! 人類の敗北です! 伝説の剣は抜けませんでした!」
会場には残念そうな顔も、「だから抜いてないって!」と言いたそうな顔もあった。
【実況】「おや? 人類側に何か動きがありますね。 あっ! サテライト魔石レーザーの向きを変えました! 魔物の本拠地を照射しています! どんどん魔物が消滅していきます! 滅ぼされていきます!」
【観衆】『おおおおおおおおおおお!』
スタンディングオベーション。
会場は拍手喝采だった。
【解説】「予想外の大逆転劇だね。『いっそのこと伝説の剣なんか無視すればいいんじゃね?』ってことに、人類は気付いたんだよ」
語りながらウンウンと頷く。
【解説】「視野を広げて俯瞰して見ると、それまで気付かなかった真実に気付くことってあるよね」
【実況】「そうですね。私も、とある団体のマスコットを遠くからじっくり見て『お前ツバメじゃなくてペンギンだったのかよっ!?』と、不覚にも叫んでしまった過去があるんですよ。それまではツバメだと思い込んでしまっていたんですよね」
【解説】「分かる分かる。あれって表向きはスワローだのツバメだのって偽ってるけど、実は畜生ペンギンなんだよね。騙される人けっこう多いよ」
そんなどうでもいい事を語りつつ、ついに終わりの時がやってきた。
【実況】「それでは神界の皆さん。また次回お会いしましょう」
【解説】「またね~」
挑戦シリーズ『伝説の剣は抜けるのか?』は、こうして幕を閉じた。
しばらく後、伝説の剣を引っ提げた『謎の仮面の戦士』が現れ、怒り狂いながら神界を滅ぼしてしまうのは、また別の話。
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