~ブルーノと従者ライアン
「ブルーノ様、此度はフィリーネ様とのご婚約の運び、誠におめでとうございました」
「なに?急に改まって気持ち悪いんだけど。やめて」
「いや、こういう節目の祝いはちゃんとした方が良いかと思って」
「ああ、そういうこと。誰もいないから別にいいよ。そんなの今更だし」
「まあ今更ではあるけども。それにしてもホント良かったな」
「うん。ライアンのお陰だよ。ホント君は使える従者だ、感謝する。ありがとう」
「それこそなに?気持ち悪いんだけど。やめろ」
「ね?気持ち悪いでしょ?
産まれた時からずっと一緒で、何なら産まれてすぐに同じ乳吸って、同じもの食わされてるのにさあ。ホント今更」
「いや、同じ乳って・・・一応言っとくけど、それ俺のお袋の乳ってか、母乳ね。そこ間違えないで。それに同じもの食ってるって言っても、毒見だから。俺が毒見役ね。俺、離乳食の時から命張ってるから。感謝して」
「うん、そこは本当に感謝してる。よく血は水より濃いって言うけど、アレ嘘だよね。
同じ血が流れてるはずの兄上のことなんて、他人のお前以下にしか思ってないもん。
あの人よりお前の方が全然、上だから。感謝して」
「はいはい。我が主には感謝しかないですよ。
それより、びっくりするくらい上手く行ってホント良かったな」
「うん。マリアに落ちるかどうかなんて賭けでしかないしね。まあダメならまた違う女を用意するだけだけど」
「マリア・パルメを使ってメイナード様を失脚させようとしたわけだけど。
その黒幕をフィリーネの父上オルコット侯爵にしたかったわけでしょ?
さも、オルコット侯爵がマリアを見つけて来て、メイナード様との出会いを演出したみたいにしてさ」
「うん、事実そうでしょ?マリアを探してきたのはライアンだし、オルコット侯爵とマリアを偶然を装って出会わせたのもライアンだもん」
「でも、裏で手を回してたのはお前じゃん。考えたのはお前だし」
「実はさあ、マリアの父親パルメ男爵が爵位を売って隣国に発ったって知ってる?」
「え?隣国に?しかも爵位を売って?誰に?」
「フィリーネの父、オルコット侯爵」
「え?なに、どういうこと?」
「元々事業も上手くいかなくなって、娘を売るところまで落ちぶれていたらしいんだけど。
その娘を使って一芝居打たせ、自分たちは金をくすめようとしていたらしい。
その筋書きを書いたのがオルコット侯爵だよ。
ついでに隣国での仕事も斡旋して、新しい人生を送るってとこまでのお膳立てをしたんだよ、あの人は。
俺たちがマリアを見つけたと思っていたことも、マリアとオルコット侯爵を偶然出会わせたと思っていたのも全部あの人の考えらしい」
「なにそれ。じゃあ俺たちは、オルコット侯爵の掌の上で転がされていたってわけ?」
「うん、そうなるね」
「ねえ、それ誰から聞いた?ガセなんじゃないのか?」
「誰だと思う?オルコット侯爵直属の執事殿だよ。たぶん、彼が考えたことだと思う」
「ああ、あの人?へえ、そうなんだ。一見、そんな風に見えないところがスゴイね。
ふぅ~ん。そう・・・」
「なに?ライバル魂が燃え始めた?」
「いや、ライバルにもならんだろ?天と地だよ。」
「そうなんだよ。あの人に一杯食わせてやろうと思ったけど、端から相手にされてなかったんだよ。くやしいよね、さすがに」
「まだまだ精進しないとだな、お互い」
「うん。あの人に認められる男にならないと」
「でも、なんだかんだ言って婚約も認めてくれたし、良かったじゃん。
長かったからなあ、本当に良かった」
「うん、やっとだよ。やっと手に入れられる。ずっと待ってたから、ずっと、ずっと待ってたから。実はすごく嬉しい」
「そうだろうねぇ、お前のそんな顔初めて見たわ。なに?その、デレデレ顔」
「うるさい!!フィリーネが僕のお嫁さんになるって言ってくれたんだ。
それに、それに・・・」
「それに?なに?なんかあったわけ?」
「教えない」
「いや、そこまで言っておいてやめるなよ。なんだよ?」
「・・・フィリーネの唇が・・・柔らかかった・・・甘くて・・・」
「な!!お前、チュウしたの?ねえ、したの?いつのまに」
「あああ!!!うるさい!!したよ。
し・ま・し・た!チュウしました」
「なあ、お前は初めてだろうけど、フィリーネ様はどうかな?メイナード様はマリアにコロッと落ちたくらいだからなあ。手が早そうだけどねえ」
「!!まさか、そんな!」
「いや、そうだろ。だって婚約期間もそれなりに長いしさ。仲がそんなに良くなくても、することはできるだろ」
「・・・ちょっと確認してくる。馬車用意して」
「え?今から?ちょっと落ち着けって。おーーーい!!」