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異世界文化遺産カオスピア  作者: 物語あにま
【海樹林マリングローブ】
5/9

冒険者はカオスピアに己の夢を見るか?

 冒険者ギルドを目指す下駄アロハの少年と赤マントの少女は、数時間かけて人目につかないよう迷宮軍リュウキュウ支部の手前までやってきていた。


 基地周辺をぐるっと囲むフェンスを見て、ラストが眉をひそめた。


「なんだぁ? この物々しくもトンチキな建物は。見ろあの壁。サメやクジラを模した口から大筒や銃器が覗いてやがる」

「物騒で当然なのだ。ここはカオスピアに侵入する輩を取り締まるための砦。普通の人間は立ち入らないのである。来るのは吾輩たち冒険者くらいなのだ……あと見た目に関して吾輩はノーコメントなのだ」


 ふむ、とラストは顎に手を当てる。


「ここに来て改めて疑問がわいたんだが、なぜわざわざ敵の基地を突破する必要があるんだ? 海樹林に侵入するだけなら、他の所からでもいいだろう。ただ危険を冒すのは冒険じゃない。冒険に見合うロマンがあるから成り立つ。冒険者ならそれは重々承知しているだろ?」

「……」


 マルセラは一本取られたように目を丸くした。

 その反応でラストは確信を深めた。


「お前の失くした手記とやらに関係しているのじゃな?」

「左様。手記は吾輩と父上の夢の結晶。おそらく、手記の価値に気づいた迷宮軍の幹部に奪われたのだ。あれが悪用されることだけは吾輩は許せぬ」


 マルセラは静かに正座すると、額を地面につけた。ラストは土下座というものを始めてみた。知識として知っていたが、いざ見るとこちらが慄くような圧のある謝罪だ。


「ラスト殿、ここまで巻き込んでしまったことを謝る。そなたの好意に付け込んだ吾輩を許せとは言わない。ここで別れるも良し。卑怯者の誹りだって受けよう。だがこれだけは伝えておきたいのだ」


 頭だけ上げたマルセラは、もう一度強く、地面に額を打ち付ける。あれでは額が切れてしまっているだろう。しかし、マルセラ構うことなく続けた。


「このマルセラ・マゼランに冒険者として散る機会をくれたこと、深く感謝する! ありがとうなのだ!」


 マルセラはここを死地にする気だ。しかし、今現在、ただの知り合いでしかないラストが、彼女の行動を止めるようなことはしなかった。


「手記がないのに気づいたときから、この基地を襲撃するつもりだったな?」


 だからラストは彼女の意志を確認するにとどめた。マルセラはそれに答えることはせず、決別の言葉を口にする。


「吾輩は夢を取り返しに行かねばならない。そなたはそなたの夢を追うのだ」

「……」


 このまま彼女を放置すれば、神罰(ジャッジ)を待たずとも一時間足らずで死ぬだろう。ラストがそこまで悟ったことをマルセラもまた見抜いた。マルセラは自分の麻袋から、新品の手記を取り出し、ラストに差し出した。


 手のひらに置かれた真新しい手記にはまだ名前が書かれていない。


「新品の手記? これを俺に?」

「左様。しかし、預けておくのではない。これはたった今、そなたに奪われたのだ」


 酷い言い様である。

 ラストは手記を返そうとするが、それをマルセラが手で止めた。


「その手記は、今の手記が終わったら使うのだ。迷宮軍から古い手記を取り戻したら、それも取り返しに行く。だから失くしたら承知しないのである」


 つまり死ぬ気はないと。それでも死ぬ可能性の方が高いが、マルセラ本人に死ぬつもりがないとわかっただけでもラストは安心した。


 マルセラはニカッと笑うと、荷物を背負い直した。それを見てラストも別のルートを探しに立つ。


 マゼランは微笑みながらラストを見送る。


「いざさらば、なのだ」


 *


 リュウキュウ基地の正門警備を強引に突破したマルセラは、基地内の兵士全員から刃と銃口を向けられていた。マルセラは辺りを見渡し、一喝する。


「迷宮軍の諸君、出迎えご苦労である! ここには預け物を取り返しに参った! 道を開けられよ!」


 彼女の態度はとても命を狙われている者のものではなかった。彼女から発せられる堂々たる自信に、生殺与奪を握っているはずの兵士たちの方が慄いていた。


「マルセラさn……じゃなくてマルセラ・マゼラン! 大人しく投降さてください! あなたがこれ以上罪を重ねない限り、僕らも悪いようにはしません!」


 全体の指揮を執るのは若草色の髪をした青年、風便の騎士エルメル。エルメルは憧れの冒険者マゼランに出会えたことから唇の端をニヤニヤさせつつ、バカでかい声で警告を行っていた。風のアーツを応用した拡声の技術である。


「若草色の髪に繊細な風のアーツ。ヅーラ・ウニ男爵の右腕、風便騎士のエルメルとお見受けする。投降はしないし、そこを通してもらうのだ」

「ひょあっ!? マルセラさんが僕の名前を!? じゃなくて……それはできない相談です! すでに男爵の怒りは頂点に達しています! 今ならまだ間に合う、全力で謝ればまだ……」


 許されるかもしれない。とエルメルが口にしようとした瞬間、背後から伸びた巨漢の影に気づく。怯えたエルメルが後ろを振り向くと、青筋を浮かべたオカマがそこに立っていた。


「ヅーラ男爵、これはその……」

「エルメル? アタシ、殺しなさいって言ったわよねぇ? ……あなた、調子に乗り過ぎ」


 その直後、エルメルの首元をヅーラ男爵の手刀が襲った。

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