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異世界文化遺産カオスピア  作者: 物語あにま
【海樹林マリングローブ】
3/9

冒険者というクズ

 装備と準備を整えたラストとマルセラは、保管庫から出て、詰め所の出口に向かった。詰め所内は意外と広く、すぐに迷宮軍の兵士と遭遇した。しかたなく出会った兵士を気絶させて逃げていたら、いつの間にか、十人ほどの兵士の大所帯から追われる羽目になっていた。


 詰め所を出てからも、警備の兵士を張り倒し、リュウキュウの港町を駆け巡っていた。緑豊かな沖縄の並木道を少年少女が追われる様子は、住人の目を引いていた。


「待てこのクズ共!」

「やなこった!」


 カランコロンとうるさく下駄を鳴らしながら走るものだから、二人は迷宮軍を振りきれずにいた。街中に出てしまったものだから暴れるのも町の住人に迷惑だ。

 兵士たちは刀を抜いて、ラストたちに迫る。腰の拳銃を使わないのはここが街中だからだろう。


「これ以上は仕方がない。吾輩が抑えるのだ」


 マルセラは走りながら麻袋に手を突っ込むと一本の麻縄を取り出した。一見それはただのロープにしか見えない。だが、マルセラの手にあれば話は別だ。


「【アムズ・ナワバリ】」


 一言、マルセラは呪文のようなものを唱えた。何か目に見えない、けれども確かに感じられる力が縄を支配していく。瞬間、縄が生き物のように動き出す。


「おおっ!? 縄がにょろにょろになった!」


 ラストが驚いていると、縄は意思を持って迷宮軍に――ではなく街路樹に伸びていく。あっという間に蜘蛛の巣のように張り巡らされた【アムズ・ナワバリ】は、ラストたちの後に続く迷宮軍の兵士たちを絡めて縛り上げた。


「くそ! カースか!?」


「身動きが取れない!」


「今のうちに、こっちなのだ」


 マルセラは裏路地にラストを引き込み、しばらくそこに身をひそめた。足音と喧騒が遠のいていくのを感じながら、ラストはマルセラに聞いた。


「さっきのはなんじゃ?」


「吾輩のカース【アムズ】なのだ。手に持つ物を意思ある武器にできるのだ」


「ほほう。してそのカースとは何なのじゃ?」


「え?」


「ぬ?」


 マルセラが眉間の痣を歪ませながら、信じられないという困惑の表情を浮かべていた。カースが世界の常識の一つになっているのは、マルセラの反応から分かった。

 

「カースはその名の通り、カオスピアで罪を犯した者がその身に受ける呪いなのだ。呪いを受けた者を呪罪者カスピアンと呼び、その者たちはカオスピア以外では七日と生きられぬ体になる」


 いわば神が認めた犯罪者。カオスピア探索を旨とし、生業とする冒険者はほとんどがこのカースを受けている。異世界の文化遺産から盗掘し、売りさばき、それを糧とする外道の輩。


 これが世間一般の冒険者への認識である。神公認のクズというわけだ。


「だから兵士たちは俺たちをクズと呼んでいたのか……」

「心外であるがそういうことなのだ。そして、その風評を助長するものが、体に刻まれる呪印スティグマなのだ」

呪印スティグマ?」

「吾輩たち呪罪者カスピアンは、全身に七つの呪印(スティグマを刻まれていく。一日一つずつ増えていくのだ。この呪印スティグマが七つになった時、その者は死ぬ。皆それを神罰ジャッジと呼ぶ」


 吾輩のこれはその証なのだ、とマルセラは自分の額の痣を指差した。これが七つ刻まれると呪罪者カスピアンは死ぬ。神からの死刑宣告といったところだろう。


「そなたの目元にもあるのだ。この鏡でよく見るがよい」


 マルセラは丸っこい手持ちのコンパクトミラーをラストに渡す。ラストは左目の下に浮かぶ呪印を確認する。


「ホントだ。それで俺は呪罪者カスピアン? でカース? が使えるのじゃな」


 ラストは腕をムキムキにしたり、液体状に変化させて遊んでいる。


「なのだ。カースを受けた時に神が告げたはずなのだ。その呪いの名を」

「……聞いたような、聞いてないような」


 なにしろ物心つく頃から、ラストの体は"こう"だった。神とやらの声がいつ聞こえたかも定かではない。ラストが分かっているのは、この体が故郷の仲間の力を引き出せる、ということだけだった。

 その話を聞いたマルセラは言葉なく頷いた。


「カースの詳しい話はおいおいしよう。今はギルドへ急ぐのだ。吾輩にはもう時間がない」

「どういう意味だ?」

「これを見てほしい」


 マルセラはマントを脱ぎ、後ろを向いた。その背中には天使の羽根のように、左に三本、右に二本の呪印が広がっていた。


「……呪印スティグマが六つ」

「左様。吾輩はすでに地上に出て六日目。あと二十四時間もせずに吾輩は呪いで死ぬ」


 目の前にいる人間があと一日もせずに死ぬ。その事実がにわかに信じがたい。

 ラストは自然と目元の呪印をなぞった。


「それならなおさらギルドより【海樹林マリングローブ】を目指すべきだろう。寄り道している暇はない。死ぬぞ」

「いや、ギルドに行けば呪印スティグマは消えるのだ」


 ギルドには何か神の仕掛けをごまかす仕組みがあるのだろうか。


「??? どういうことじゃ?」

「つまり、なのだ」


 マルセラは地面を指差した。


「ギルドは【海樹林マリングローブ】の地下に秘匿されている、というわけなのだ」

「どうりで町にないはずだ。待て。だとすると俺たちは今から……」


 その説明に納得しかけたラストはふと疑問を抱いた。

 【海樹林マリングローブ】の周辺では迷宮軍が良からぬ動きをしていると、マルセラ自身が言っていたではないか。

 それが本当なら、ラストたちは味方の隠れ家を目指しながら、敵の本拠地に攻め込むことになる。ラストがその結論に辿り着いたのを、マルセラが察して「なはは」と笑う。


「無論である。吾輩とそなたで、迷宮軍の軍勢を出し抜き、【海樹林マリングローブ】に突入するのだ」

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