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異世界文化遺産カオスピア  作者: 物語あにま
【海樹林マリングローブ】
2/9

マルセラ・マゼラン

 瞬く間に三人の軍服を気絶させたのち、ラストは自分の荷物を取りに行こう思い立った。あのショルダーバックとサングラスは育ての親からもらった大切なものなのだ。


「荷物を取り返したら早いところ冒険者ギルドに行こう」

「ま、待ってくれ。下駄アロハの! ギルドに行くなら吾輩も連れて行ってくれないか!」


 他の牢屋から女の声が聞こえた。明らかにラストに向けて放たれた声だった。ラストは声のする牢屋に振り向き、迷いなく近づく。


 一つのランプが取り付けられた牢屋に、両手に手枷を着けられた女がいた。足首には鎖と鉄球が見える。とても痛々しい光景だ。

 長い黒髪も手入れができていないせいでボサボサ。2つに分けられた前髪から見える眉間には、一本の剣のような痣が走っている。


「俺はラストだ。お前は?」

「マルセラ。冒険者マルセラ・マゼラン。冒険者ギルドへの道は吾輩が知っておる」

「冒険者だったのか!」


 目を輝かせるラストだったが、その興奮はすぐに引いていく。


「しかし、ここにいるのは犯罪者だと聞いた。お前は罪を犯したんだろ? 流石に連れ出せない」

「盛大なブーメランを投げるのだ……そなたも罪を犯したからここにいるのだろう?」

「失敬だな! 俺は本当に冒険者ギルトに行こうとしていただけだ!」

「吾輩とて罪を犯した覚えはない!」


 どうやら意見の食い違いがあるようなので、二人とも一度冷静になって立ち返る。ラストはとりあえず、マルセラの主張を聞いてみることにした。


 マルセラは捕まった原因を話し始めた。


「吾輩は【海樹林マリングローブ】を踏破するためにリュウキュウに来たのだ。そしたら海樹林の手前で迷宮軍がきな臭い動きをしているからに、吾輩一大事! と思いギルドに報告しようとしたのだが……」

「バレて迷宮軍に捕まったのじゃな」

「左様」


 なるほど罪と呼べるような罪ではないとラストは判断した。連れ出しても良いだろうとも。

 それにここから出るときに、他の迷宮軍兵士とも一戦交えるかもしれない。その時、仲間がいたほうが心強い。


「いいだろう。お前を助けよう。俺をギルドに連れて行ってくれ」

「願ってもないのだ!」


 ラストはマルセラを助けるため、ぬるりと牢屋に侵入した。鉄格子をすり抜けるラストを見て、マルセラの目が丸くなる。


 ラストは気にせずなマルセラと壁を繋ぐ手枷の錠に指をにゅるりと突っ込んで解錠した。手が自由になって驚いたマルセラをよそに、足枷も同じように解放する。


「これで自由だ」

「ありがたい。次はどうするつもりなのだ?」

「俺は荷物を取り返しに行くつもり」

「なら吾輩も行こう」


 押収されたラストの荷物と同様、マルセラの私物も同じ部屋で管理されているはずだ。目的が一致した二人は、牢屋から抜け出して、地下から地上へ繋がる階段を上がっていく。


 暗い地下から脱出すると、そこは横に伸びる通路だった。ラストは記憶を遡り、兵士が荷物を置いたであろう部屋にたどり着く。


 部屋には案の定鍵がかかっていたので、これもラストが合法的に開ける。壁際に鉄製の棚が詰められた簡素な部屋だった。


「荷物はこの部屋に置いていたはずじゃ」


 部屋の中を探すと無造作に扉に近い棚にサングラスとショルダーバックが放り出されていた。ラストはそれを身につける。ショルダーバックの中身が取られていないことを確認したラストは、さてマルセラの方はどうだろうかと振り向く。


 マルセラも無事、自分の持ち物を取り返していた。


 グレーのチューブトップと紺のジーパンという身軽な格好だったマルセラは、赤いマントを羽織っていた。くびれた腰には二重に巻かれたベルト。足には皮のブーツ。ボサボサだった髪の毛は動きやすいよう三編みに結っていた。


 マルセラは麻袋の中身を見て蒼い顔をしている。


「ないのだ……吾輩の手記が……ないのだ」


 マルセラのただならぬ様子からラストも心中を察する。サングラスを持ち上げ、マルセラの後ろから肩を叩く。


「何か、よほど大切なものを失くしたみたいだな」

「……どれも吾輩の大切なものに違いはない。が、あの手記は特別なのだ」


 数秒、沈黙が場を支配した。


 マルセラがふるふると首を振った。マルセラなりに感傷を割り切っているのだ。強がっているのは分かったが、だからといってラストにできる事は無い。


 すでにマルセラの瞳は前を向いていた。強い女だ、とラストは感心する。


「すまない。こんな事をしている場合ではなかった。冒険者ギルドに急ぐのだ」

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