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異世界文化遺産カオスピア  作者: 物語あにま
【海樹林マリングローブ】
1/9

投獄

 20XX年、世界中に謎の声が響いた。


「地球の皆さん、私は神です」


 神を名乗るその声の主は、老若男女の判別がつかない不思議な声音をしていた。世界中の人々のほとんどが困惑や怒りを露わにする中、神は続けた。


「つい先ほど、異界の星カオスピアが崩壊しました。しかし、私はカオスピアを気に入っています。そこで妙案を思いつきました。カオスピアがダメなら、他の星に移そうと」


 察しのいい者、受け入れるのが早い者たちは、神の次のセリフをなんとなく察していた


「カオスピアが異世界文化遺産として地球に登録されます」


 神は宣言した。

 その瞬間、地球に激震が走った。大地、海原、天空、ありとあらゆる空間を飲み込んで、カオスピアと呼ばれる異世界の遺産が姿を現した。


 カオスピア、と神が呼んだダンジョン内部からは様々なものが見つかった。現代では考えられない魔法の道具。尽きぬことのない異世界の天然資源。ゲームやアニメの世界に存在するような人種や怪物。どれもこれもが、世界中の人々をカオスピアに向かわせる理由としては十分すぎるほどだった。


 当然、当時の国連や各国はカオスピアへの入場に規制をかけ、全てのカオスピアを支配しようと動いたが様々な理由により計画は白紙となった。


 その一つが、カオスピア内での現代兵器の使用禁止であった。

 これにより各国はカオスピア攻略を半ば断念した。そして、様々な事情や思惑を経て、国連に代わる新しい世界政府【ユートピア】とダンジョン……世界正式名称:迷宮を統治するための新たな軍事組織である【迷宮軍】を樹立。


 そして対抗するように、民間からも二つの巨大な組織が誕生した。

 カオスピア保護を目的とする派閥【サルバトーレ】とカオスピアは誰のものでもないと主張する互助組織の【冒険者ギルド】である。


 以後の数十年間、異世界文化遺産カオスピアと地球は絶妙な均衡を保ち続けたのだった。



 カオスピアが世界を席巻してから半世紀あまりが過ぎた。


 ここは日本改めニッポンと名を変えた国の南端リュウキュウ(かつての沖縄)。強い日差しの降り注ぐ港町の街中に、金髪の少年がいた。


 花柄のアロハシャツと黒の短パンをラフに着こした中学生くらいの年の男子だ。少年は黄色のショルダーバックから地図を取り出した。かけていたサングラスを頭の上に持ち上げて、地図と今いる場所を見比べる。そして地図を回したり、ひっくり返したりした後、ぐしゃっと握りつぶした。


「冒険者ギルドはどこだ!?」


 少年は往来のど真ん中で叫んだ。もう何度叫んだかは覚えていない。

 道行く人々は、不審者を見る目付きで少年に注目していた。すでに街中で噂になっているのかもしれない。


「島の皆が書いた地図が間違ってるはずないと思うんだがなぁ」


「おい、お前。冒険者ギルドを探しているようだな」


 少年の頭上から声がかかる。顔を上げると黒い軍服を着た数名の男らが囲んでいた。腰に立派な一振りを帯刀する若い男たちだ。


「ん? おう! そうなんだよ。冒険者ギルド、お前たちが知ってるのか?」


 軍服たちは少年を見て変なガキだと顔をしかめた。派手なアロハにサングラス。その上、二本の朴歯ほおばのついた下駄を履いた子供。


「知っているとも。ところで、冒険者ギルドに何の用だ?」


「そりゃあ、カオスピアを探索する冒険者になりに来たに決まってる」


 少年は当然とばかりに胸を張った。

 それを聞いて、軍服たちの口角が上がる。


「そうか、お前も冒険者になりに来たんだな? なら俺たちが案内してやろう」


「おお! そりゃあ助かる! 俺、故郷から出てきたばかりで地理には疎いんだよ!」


「ハハッ、田舎者の駆け出し冒険者にはよくあることさ! さあ、こっだ……」


 こうして軍服たちの案内の元、ラストは軍服たちの警備が厳しい、三階建ての建物まで案内される。


 中に入って薄暗い通路を進んだ後、少年は荷物を剥ぎ取られて短パンアロハに朴葉の下駄だけの姿となった。


 少年の荷物を検分すると、名前の付いた持ち物がいくつかあった。


「名前は……ラストか。ここがお前の仮住まいだ。そこで大人しくしてろクソ冒険者め」


「おっ?」


 ショルダーバックもサングラスも没収されたラストは、狭く小汚い部屋に放り込まれた。どこからどう見ても牢獄という他に例えようがない場所だ。


 ガチャン、と鉄格子の扉が閉まる。檻はラストと軍服たちを隔てていた。


「おい、お前ら。これはなんの真似だ? ここが冒険者ギルドなのか? それにしては随分寂れているな。これじゃまるで罪人だ」


 ラストが頓珍漢なことを言ったせいか、軍服たちは吹き出すように笑い始めた。


「クククッ、バーカ! ここは【迷宮軍】の詰め所だ。お前が目指していた【冒険者ギルド】ってのはなぁ、俺たちが逮捕する犯罪者どもの巣窟さ」

「わけわからん。俺は帰るらせてもらうぞ。【冒険者ギルド】に行かないといけない」


 鉄格子の扉に向かってラストがずんずん歩く。カラン、コロンと下駄を鳴らして。

 扉にぶつかると思われた瞬間、ラストの体は液体のように、ヌルリと檻を通過した。


「こ、こいつ、何しやがった!?」

「ただの派手なガキじゃねえぞ!」

「やれ! やっちまえ!」


 先頭にいた【迷宮軍】の兵士が腰の刀を抜いて斬りかかる。それをラストは片腕で受け止める。


「危ないなぁ。俺じゃなかったら真っ二つだ」

「あ、ああ……!?」


 ラストの目頭から目尻に向けて、左目の下に一本の黒い痣が浮かぶ。その痣は異世界の遺産に手を出した者が受けるという呪いの証。人はその呪いをカースと呼んだ。


「カース……! こいつ、呪体者じゅたいしゃか!」

「カース? 呪体者? これは俺の友人の力だよ」


 ラストの体中の筋肉が一回り盛り上がる。ラストは軍服の腹を目掛けて、空いた拳を振り上げる。ラストのパンチが兵士の鳩尾にめりこんだ。


「がふっ……!」


 ラストの腹パン一発で兵士は気絶したのだった。


「理不尽の刃を振りかざす奴には、鬼にならなきゃな」

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