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航空戦艦アトランティス  作者: 佐々木未来
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EP0 19XX 1/2 PM 11:48

「ったくニューイヤーの祝いも無しに物騒な仕事回して来やがって」とある戦闘機のコックピットの中で男が言葉を漏らした。男の周りには他にも数機の戦闘機が綺麗に編隊を組んで目にも止まらぬ速さで空を飛んでいた。外は轟々と吹雪が吹き荒れていて時折機体が風に揺さぶられるほどである、戦闘機乗りにとっては最悪の環境だ。下には広大な海が広がっていたが、その様子は我々が普段見る穏やかな海というよりは海神が怒り狂ったかのように荒れていて、焦っている戦闘機乗りたちを囃し立てるようにも見えた。

『作戦空域に入った、各機作戦通りに分散。敵基地上空の制空権を掌握せよ。』通信機から命令が届くと戦闘機乗り達は綺麗に並んだ編隊の形を崩し空へと散らばっていった、「さーてと仕事を始めるとするか」男はそう言い雲の底の深淵へと沈んでいった。

 この戦いが始まったのが約1年前、軍事大国であったラバントス公国が不凍港を求めて大陸上を南下し始めたのがきっかけである、大陸上の国々はどれも小さく国力もラバントス公国に比べれば微々たる物だった、大陸上の国々は共通の敵に立ち向かうために同盟を結び戦ったが国力の小さかった国々は開戦後僅か3ヶ月で降伏。国力がある程度大きかった国々も今は亡き国の難民たちを受け入れた事により財政危機に陥っていた。大陸上の国々を制圧しきったラバントス公国は飽き足らず、手に入れた軍港を利用し大陸の南にある島国カナリカ共和国に侵攻していた。戦闘機乗り達の国である。軍事力の大きいラバントス公国だったが内陸部が多い国だったため海軍はどちらかというと弱く、海軍の強いカナリア共和国への侵攻を難儀していた。しかしながら数の力で押し切ったラバントス公国はカナリア共和国カーラー諸島に上陸、ラバントス公庫機の手は着実にカナリア共和国に伸びていた、国家存続の危機と判断したカナリア共和国はカーラー諸島の奪還作戦を開始。最初に空軍による対地爆撃が行われその後海軍の砲撃で敵を牽制しつつ、陸軍が敵を制圧していく作戦である、特に最初の対地爆撃が非常に重要で、敵に感づかれてしまうと対空ミサイル攻撃によって空軍部隊が攻撃を受け作戦遂行自体が危うくなってしまうからである。

コックピットに座る兵士たちはそのプレッシャーに押されながら操縦桿を握っていた。

 分厚い雲の中降下のために傾けていた機体を水平に戻したその瞬間、前方の戦闘機が炎に包まれた。突然の出来事の直後に腹に響く激しい轟音ととてつもない衝撃が男を襲った。『敵に気づかれた、総員直ちに散開せよ』通信機越しでもわかる逼迫した声だった。「こんなところで死んでたまるかよ」男は自分にそう言い聞かせると目にも止まらぬ速さで攻撃対象へと飛んでいった、狭いコックピットの中暗雲に包まれ周りの様子を目視で確認することのできない状況の中、頼れるのは計器の数値と戦闘機乗りの勘だけだった。時折周りで爆発が起き味方が撃墜される極限状態の中で男は冷静に操縦桿を動かし迫り来るミサイルを踊り子の如く可憐に、そして正確に避けていった。『各機対地爆弾のロック解除、射程に入り次第目標を爆撃し即刻帰還せよ』「生きて帰ってやるさ」男は心の中で司令官に言うと手元にある沢山のスイッチを手慣れた操作で次々に動かし、戦闘機の腹に抱えた「それ」の安全装置を解除し目の前の照準器を凝視した。次の瞬間、戦闘機は雲の海飛び出しコックピットに一筋の月光が差し込んだ、外で降っていた雪はもう止んでいて空には鷹のように飛び交う戦闘機とそれを遠くから見守る月が出ていた、空の狩人の先には港で陣を固める獲物達の姿があり彼らは狩るタイミングを見計らい地を歩く羽根の無い人々は突然の悪魔の襲来に怯え、逃げまとっていた。「あばよ相棒、暴れてこい」狩人の男がそう言うと握っていた操縦桿の赤いボタンを押し込んだ、ガコンという鈍い音と共に解き放たれた死の槍は止まる事を知らずに地に足をつける人々に向かって飛んでいった。数秒先の死を悟った人々は唖然と空を見上げていた。槍が地に刺さると同時に爆音と衝撃が鳴り響き彼らは炎に包まれた。僅か数秒の出来事である。「さてと、次は大物取りに行くか」男がそう言うと残りの槍を全て解き放った、槍の先には敵の空母があり槍は無慈悲にそれを貫いていった。槍の刺さった空母は衝撃によって真っ二つに裂け、傾いた船体は今にも死にそうな魚の様に海に浮かんでいた。

仕事が終わった兵士達は次の狩人へとバトンを渡し自分たちの巣へと去っていった。

 「よぉヴァルキリー敵の船をぶっ壊したってのは本当か?」寒く薄汚い廊下を歩く兵士の後ろで男の同僚と思われる人間が立っていた、戦いが終わった兵士はコクリと頷くとそのまま立ち去ろうとした「やっぱあんたすげぇな。でも公国の最新兵器を鹵獲したがってた上官達は頭抱えてるらしいぜ」男は彼の話した言葉には反応せずその場を去っていった。

 「こちらが鹵獲した兵器の一覧です」暗い会議室の重苦しい空気の中で将校達が円卓を囲み書類を見ていた。技術力が高かったラバントス公国の兵器はどれも他の国の物とは一味違う卓越したものばかりで他の国々はその技術を喉から手が出るほど欲しがっていた。カナリア共和国もその一つだ。鹵獲した兵器をどうするかを話し合っていた最中「この半壊している空母は修復して使えないのか?」一人の将校が言い出した「今は物資も人材も不足している状況です、その空母を修復するとなると半分以上の船体を一から作らないといけないのでできるかどうか…」「開発部局に話して早急に検討してくれ」書類を持ってきた軍人がすぐさま説明したが将校は説明を聞かずにそう言うと会議を終了させ部屋から去っていった。

 「ったくむちゃ押し付けて来やがって」兵器開発部局の人々は受けた命令に対し頭を悩ませていた。半壊した空母を修復し実戦投入可能にできるようにするという命令である。海軍の強いカナリア共和国であったがラバントス公国とは装備数の規模が別次元であったため、早急に新造艦を建造する必要があった、しかし島国であるカナリア共和国は多くの資材を輸入に頼っていた為資材の慢性的な不足状態に陥っていた。そんな中彼らに課せられた条件はいかに資材を使わずに船を建造する事であった。

「一つ考えがある」部屋の中で一人黙々と製図を行なっていた男が立ち上がって言った、男が製図を見せるとそれを見た者は皆驚愕したが、恐ろしい程完成度が高くかつ最も現実的な設計図を前に納得しない者は誰一人いなかった。



 これは英雄達が活躍するずっと前の物語である…………



To be continued

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