紅蓮刀(ぐれんとう)
私を朱音様と呼んだ二十代前半位の男性。
髪は黒く、私を見つめる瞳は燃えるような紅い色。
そして、黒いコートを身に纏い、私の目の前までやってきて頭を下げた。
「あなたは?」
「私ですか? シュウですよ」
さっきまでいた黒猫のシュウが人の姿になっている?
「シュウ? 黒猫の?」
「朱音様、その話の続きはまた後程。それよりも鬼が来ます」
聞きなれない言葉が耳に入り、私はシュウが見ている方へ視線を移した。
そこにはさっきまでいた黒い犬みたいなものが数匹いる。
そう、犬みたいな何か。
足は四本あるが、首が二本。それに頭も二つあり、まるで物の怪のようにも見える。
「朱音様、数珠を」
シュウに言われ左手につけている数珠を右手で触ってみる。
普段は無色透明だったのに、一個だけ淡い赤の光を放っていた。
その光を見ると、まるで何かを待っているように感じる。
「シュウ、これは……」
「これは『封印球』、神の作った神具の一つです」
「これをどうすれば?」
「一つ、中に封印されている武器があります。数珠に手を添えて、『解放・紅蓮刀』と言って下さい」
近づいてくる黒い犬。
私は言われるままに言葉を発する。
「解放・紅蓮刀! 私に力を貸して!」
数珠から赤い光が放たれ、やがて私の手に一本の刀が現れた。
鞘が燃えるような紅い色をしており、ドキドキしながら刀を鞘から抜いてみた。
思っていた通り、刀身も真っ赤で、波紋の部分だけが少し赤みが薄くなっていた。
「きれい……」
「朱音様。見ほれるのもいいですが、鬼が来ますよ」
気が付くと、もうそばまで黒い犬が迫ってきていた。
「シュウ、もしかして……」
「はい、その通りです。その刀であの鬼を倒してください」
「私一人で?」
「他に誰かが?」
私は刀を握りしめ、大きく深呼吸する。
大丈夫、見た目はちょっと違うけど大きな犬だ。
いつもの練習を思い出して、刀を振るう。
大きく息を吸い込み、止める。
そして、肩の力を抜き、飛び掛かってくる犬の動きをしっかりと目で追う。
三匹同時に飛び掛かってきた。
一匹は私の左に、もう一匹は右に避けることができる。
最後の一匹は躱すことができない。
一匹目と二匹目をきれいに避け、三匹目の首元を狙い、刀で突く。
刃の根元までしっかりと犬に食い込み、やがて動かなくなった。
やっつけたのだろうか?
動かなくなった黒い犬はやがて黒い煙になって消えてしまった。
「消えた?」
「朱音様! 後ろに!」
避けた二匹の犬が再び襲ってきた。
今度は飛び掛かってこないで、そのまま噛みつかれそうになる。
大きく息を吸い込み、呼吸を止める。
犬の動きを良く見て、動きを予想する。
今だ! 相手の動きに合わせて握りしめた刀で薙ぎ払う。
きれいに入り、その犬も黒い煙となって消えてしまった。
残るは後一匹。
一対一であれば集中できる。
相手をしっかり見て、ゆっくりと近づく。
握りこんだ刀を振りかざし、相手が飛び掛かってきたところで横に薙ぎ払った。
「やぁぁぁぁ!」
最後の一匹も煙となって消えた。
全部、倒したのかな……。
「つ、疲れた……」
刀を握ったまま地面に座り込んでしまった。
あの黒い犬は一体なんだったのだろうか。
「大丈夫でしたか?」
手を差し伸べてきたシュウ。
私はその手を取り、立ち上がる。
「うん、大丈夫。でも、あの犬って……」
「そうですね、どこから説明すればいいのか。一度元の世界に戻りましょう」
握った刀を鞘に戻し、数珠に戻るように念じたら元に戻った。
一体どんな仕組みなのだろうか。
しばらくすると、世界がまた白く光りだす。
現実世界とちょっと違った世界。
でも、まるで現実のような世界。
まるで、セピア色の写真に潜り込んだような世界だった。
再び目を開けると目の前に相原さんが座っていた。
「東条、さん?」
「相原さん? 私、今どこに?」
「目の前で消えたと思ったら、また現れて……。何が、あったの?」
どうしよう。どこまで話せばいいのか。
そもそも話していいものなのか……。
「なーん」
黒猫のシュウも側に来た。
こいつ、その姿でも話せるんだよね?
「シュウ? 話せるよね?」
シュウが変な顔をしている。
「にゃーん」
「え? シュウ?」
シュウはそのまま走って私たちの向かう学校の方に行ってしまった。
「東条さん、とりあえず学校に行こうか」
「そうだね……」
まだまだ分からない事が多く、シュウには絶対に話して貰おうと決めた。