シュウの首輪
おばあちゃんが入院し、数日経過。
どうやら足をくじいてしまったらしい。
「退院まで少しかかりそうね。お家は大丈夫かしら?」
「うん、なんとか。安心して休んでね」
おばあちゃんが入院し、おじいちゃんは少し元気がなくなった。
「朱音、シュウは元気かい?」
シュウ。
自宅で飼っている黒猫。
瞳が紅く、どこか不思議な感じがする猫だ。
「うん、元気だよ。毎日ちゃんとエサも食べているし」
「そう、良かったわ。これからもシュウの事、よろしくね」
気弱になったおばあちゃんは少し寂しそう。
なんでそんな目で私を見てくるのだろうか。
病院を出て、家に帰る。
ベッドで寝ていると、隣にシュウがやってきた。
「なーん」
甘い声で鳴いてくるシュウは、私のお腹の上に上がってきた。
黒い体に赤い瞳。猫の目ってこんなに赤いんだっけ?
誰の趣味なのか、シュウには首輪の代わりに数珠が付いている。
透き通るような透明な数珠。
シュウは私をじーっと見てくる。
そして、器用に二本の手を使い、首に着けてあった数珠を取ってしまった。
シュウは数珠を口に咥え、私の手に置く。
そして、そのまま部屋から出て行ってしまった。
「あ、シュウ――」
残された首輪。
まるで吸い込まれるようなきれいな数珠だ。
ベッドに転がりながら覗き込んでみた。
何だろう、数ある数珠の中に、一個だけ中に何か入っている。
棒? でもなんでこんなところに?
その日はいろいろとあり、気が付いたら眠ってしまったようだ。
シュウが置いて行ってしまった数珠を手首に着けたままで。
――
翌朝入院中の祖母に代わり、朝食を作る。
慣れない料理、お母さんは仕事が忙しいみたいで、なかなか家に帰ってこない。
私が起きる頃にはもう家を出ている。
「行ってきます」
おじいちゃんに声をかけ、今日も学校に向かう。
前の学校とは違って、行くのに気が重くなる。
「おはよっ!」
声をかけてきた相原さん。
今日も朝から元気のようだ。
「ん、おはよう」
「どうしたの? いつもより元気がなさそうだけど?」
祖母が入院し、今の状況を軽く伝える。
「そっか、それはちょっと大変だな。俺も通うのしばらく休もうかな……」
「それは気にしないでいいよ。相原さんも道場に通うの、ほとんど日課でしょ?」
「まーね。でも、大変だったら言ってくれよ、手伝えることがあったら手伝うからさ」
友人も少なく、色々と大変なのは確か。
頼ってもいいのだろうか?
「そうだね、その時は相談するよ」
「じゃ、朝錬あるから先行くね」
先に走っていく相原さん。
同じ年だけど、私よりもしっかりしているように見える。
私も、もっとしっかりしないと。
シュウが置いていった数珠をつけたまま学校に向かう。
あれからシュウの姿を見ない。朝も結局ご飯を食べに来なかった。
今までそんな事なかったのに。
「うわぁぁぁぁ!」
向こうの方から突然叫び声が聞こえてきた。
あの声は相原さん? 私は急いで声のする方に走っていく。