お弁当
葵さんと話も終わり、私はシュウと一緒に自宅に帰る。
私達は鬼に対して弱い、もっと強くならないと。
「シュウ。相原さんは一緒に戦うことはできないの?」
私の前を歩くシュウは振り返ることなく話し始める。
「何度も言うけど無理だね、彼には力がない。力がないものは戦えない」
「そう……」
あんな悔しそうな顔、私はとても胸が痛くなった。
自宅に着いたが、こっそりと一度自分の部屋に帰った。
そして、何食わぬ顔でいつもと同じように夕飯にお風呂をすませる。
制服は何とか替えがあったけど、これからどうしよう。
悩むことが多い。
「朱音、ちょいといいかの?」
寝る少し前、ベッドで横になっているとおじいちゃんに呼ばれる。
こんな時間になんだろう。
「どうしたの?」
「明日の朝なんじゃが、朝食を一人前多くしておいてもらえるかの?」
「お客さんでも来るの?」
「まぁ、そんなもんじゃな。よろしく頼むぞ」
朝からお客さんが来るなんて珍しい。
私は寝る前に冷蔵庫と相談する。うん、これなら大丈夫だね。
ベッドに横になって今日の事を考える。
邪気や鬼の事。葵さんや相原さん。
紅蓮刀に薄華桜。
たった一匹の鬼があんなに強いなんて。
きっと、龍鏡に封印されている邪気はもっと……。
怖い。でも、私達で何とかしないと。
もっと戦える人が、もっと何か武器になるようなものが欲しい。
そんなことを考えながら、私は深い眠りについた。
――
「おじいちゃん! 朝ごはんできたよ!」
昨夜言われた通りの時間に朝ごはんを準備する。
おばあちゃんはいつごろ退院できるのだろうか。
自分のお弁当を準備しながら朝ごはんも同時進行。
少しでも料理を教わっておいてよかった。
「お、今日は鮭か。いいにおいじゃの」
いつもの席におじいちゃんが座る。
「お客さん、まだ来ないの?」
「着替えてから来るといっていたから、そろそろ――」
――ガララララ
引き戸の向こうには見慣れた顔。
「お、おはよう……」
相原さんは少し照れ臭そうに私を見ている。
「え? なんで相原さんが……」
「うん、今朝もうまいの。ほれ、後継者一号。ささっと食べてしまえ」
相原さんは用意されている席に腰を落とし、ご飯とにらめっこ中だ。
「ごめん。なんか変なことに……」
「お客さんって相原さんのこと?」
おじいちゃんは朝食を食べながら話し始める。
「朝稽古じゃ。誰かの為に強くなりたいんじゃと。なかなかいい男じゃないか。なぁ、朱音」
頬に少しだけ熱を感じた。
視線だけ相原さんに向けてみる。
「い、いただきます!」
相原さんも少し照れているようで茶碗を持ち、ご飯を食べ始めた。
相原さんも、何かしようとしているんだね。
私ももっと頑張らないと。
「おかわりあるから、欲しかったら言ってね」
朝食も終わり、一緒に家を出る。
聞きたいことがあるけれど、聞いていいのか悩む。
「あのさ。俺、強くなりたいんだ。一緒に戦えないのはわかっている。でも、絶対に無駄にはならない」
握りこんだ拳を相原さんは見つめていた。
「頑張っているんだね……。私も昨日みたいになりたくない。もっと、戦える人を増やしたり、何か武器を増やしたりできないか考えてみるよ。それに、私ももっと稽古する」
「怖く、ないのか?」
「怖いよ。怖いけど、きっと立ち向かわないとダメなんだと思う」
私も拳を握りしめ、見つめる。
力がない、弱い、戦えない。そんな自分が嫌だ。
「だったら俺も協力するよ。一緒に強くなろうぜ」
「うん。ありがとう。ごめんね、巻き込んじゃって……」
相原さんは私に微笑む。
「そんなことはないさ。これも俺にとっては運命だからさ。じゃ、俺朝錬あるから先に行くな」
「あっ、ちょっと待って」
走っていこうとした相原さんを引き止める。
「ん? どうかしたのか?」
「これ、良かったら……」
今朝私の分と一緒に作ったお弁当。
時間がなかったので、私と同じものになってしまった。
「弁当くれるのか?」
「おなか、すくでしょ?」
相原さんは笑顔で私の作ったお弁当箱を手に取る。
「さんきゅ」
そして、そのまま走って先に行ってしまった。
私は何を期待しているのだろう。でも、少しだけ心が落ち着いたような気がする。




