勝敗の行方
鬼は刀の刺さったところを反対側の腕でさすっており、それなりのダメージにはなっているように見える。
葵さんと視線を交わし、鬼の左右に移動する。
鬼も困惑しているようで、落ちたこん棒を持つために、腰を落とした。
「今よ!」
葵さんが叫び、薄華桜を鬼の脇腹に深く突き刺す。
「グアァァァァ!」
そして、私も紅蓮刀を両手で握りしめ、鬼の首に向かって切りかかった。
鬼は拾おうとしたこん棒を手に持たず、両手を振り回してきた。
私はそれを避けることができず、左腕に直撃してしまう。
「かはぁっ!」
痛みが、今まで感じたことのない痛みが腕に走る。
そして、その勢いで遠くまで吹き飛ばされてしまった。
痛い、腕が折れそうだ……。
地面を転がり、葵さんの方に視線を向ける。
葵さんも避けることができず、私と同じように飛ばされている。
脇腹に薄華桜が刺さったまま、鬼はこん棒を手に取り、葵さんに向かって歩き出した。
丸腰の葵さんは避けることしかできない。
私は立ち上がり、紅蓮刀を握りしめる。
葵さん、今助けます!
鬼の背後にゆっくりと移動し、紅蓮刀を構える。
チャンスは一度。できれば、一回で終わらせたい。
狙うは首。
私の背よりも鬼の首の方が高い位置にある。
どうしたら鬼の首を一回で切ることができるだろうか。
「少し、お手伝いしますか?」
私の背後にシュウが立っている。
一体いつの間に来たのだろうか。
そんなことは後で聞けばいい。今は、目の前の鬼を何とかする方が優先だ。
「いいところに。鬼の首を切りたいの。でも少し位置が高いのよね」
「では、私が踏み台に……」
「違うわ。私がシュウに向かって走って行くから、両手を組んで私の足を持ち上げて。高く飛べるように、全力でお願いするわね」
鬼はゆっくりと葵さんに近寄る。
葵さんも私たちの動きに気が付いたのか、ゆっくりと後ずさりし、うまく誘導してくれた。
「いくわよ」
私は構えたシュウに向かって走り出す。
一度だけ、一度で決めないと。
刀を持ったまま走ることは初めてだ。
でも、やるしかない。
全力で走り、シュウの構えた手に片足を乗せる。
シュウもタイミングを合わせ、私を空高く舞い上がらせてくれた。
高い。思ったよりも高く飛べている。
そして今まで感じたことのない落下感。
私は両手で紅蓮刀を構え、鬼の首を断ち切るよう、首の後ろに刃を立てた。
そして、落下の勢い、全体重、腕の力を使い、鬼の首を落とす。
――スパァァァン
目の前の鬼が、黒い煙になって消えた。
そして、その場には葵さんが使っていた薄華桜だけが残っている。
やった。
何とかなった……。
「朱音様……」
地面に座っている葵さんに手を差し伸べ、立たせる。
葵さんはそのまま私に抱き着いてきた。
「ありがとうございます。助かりました」
「そんなことないよ。私も葵さんに助けてもらったし。お互い様だね」
「怖くは、ありませんでしたか?」
怖い。すごく怖かった。
でも、それ以上に葵さんを助けたかった。
「怖かったよ、すごく。葵さんは?」
「私も、怖かったです。鬼は強いんですね……」
さっきまで自信があったような態度に言葉使い。
でも、今は頬に涙を流しながら、私の胸で泣いている。
なんだ、やっぱり私と同じなんだ。
少しだけ安心した。
「元の世界に、戻りますか」
シュウがひょっこりと現れた。
私は紅蓮刀を鞘に納め、元に戻るように念じる。
葵さんも薄華桜を手に持ち、目を閉じた。
そして、薄華桜も淡い光を放ち、消えてしまった。
刀と薙刀。
どちらも近距離の武器だ。できれば遠くから戦える、何かが欲しい。
それに、私たち二人だけでは………。
もし、この先もっと強い鬼、もっとたくさんの鬼と同時に戦うことになったら私達だけでは勝てない。
たった一匹の鬼にここまでやられてしまったのだから。
私達は弱い。あの、龍鏡にどれだけの邪気が封印されているのだろう。
私たちはこのまま勝ち続けることができるのだろうか……。
そんな事を考えながら、セピア色の世界は音もなく消え去り、私達は元の世界に戻る。




