実践開始
「朱音様、葵様。準備はいいですか?」
無言でうなずく葵さん。
「準備って?」
シュウに声をかける。
「浄化の準備ですよ。朱音様、『神衣』と叫んでもらえますか?」
「え? ここで叫ぶの?」
でも、あの黒い犬みたいな鬼はここにいないし、叫ばなくてもいいような……。
「練習ですよ、練習。さぁ、叫んでみてください」
また、あの犬みたいなやつと戦うの?
ちょっと怖いし、嫌だな……。
「あのさ、今すぐに『神衣』って叫ばなくても――」
その瞬間、再び手首の数珠が光だし、辺り一面が白くなり始めた。
そして、私の隣にいた葵さん。
首にぶら下げている数珠も同じように光だし、次第に部屋は光に埋め尽くされる。
「共に、行きましょう……」
葵さんは私の手を握り、ずっと離さないでいてくれた。
しばらくたち、やっと目が慣れてくる。
前と同じ、セピア色の世界。
前と違うのが道路の上ではなく、神社の境内というところだ。
「ふぅ……。やっぱり人の姿は動くのが楽ですね」
前と同じ姿でシュウは立っている。
そして、私の手を握っている葵さん。
巫女の姿で、私の方をじっと見ている。
「朱音様? どうして制服のままなのですか?」
え? いやそんなこと言われても。
前の時もそうだし、来ている服のままここに来るのでは?
「どうしてって言われても、前も制服でしたよ?」
「……朱音様は制服が一番慣れているのですね」
「慣れている?」
「私の場合は巫女の服を着ているときが一番落ち着きます。朱音様はそれが制服なんでしょうね」
制服。
確かにほとんど毎日着るし、着慣れているといえば着慣れている。
シュウも何も言ってこなかったし、何か問題でもあるのかな?
「二人とも、来ますよ!」
シュウの声を聞き、辺りを見渡す。
どこから、何が来るの……。
「朱音様、準備を」
葵さんは首にぶら下げている勾玉を握りしめた。
「解放・薄華桜! 浄化の時は今! その力を開放し、我に力を!」
淡い水色の光を放ち、次第に光が収束していく。
そして、葵さんの手にはさっきの薙刀が握られていた。
「さっきの薙刀……」
私な気になり、自分の手首にある数珠を覗き込む。
さっきまであった薙刀がなくなっている。
契約ってこういうことだったのか。
「朱音様、浄化の準備を」
私も準備しないと。
葵さんだけに頼ってはいけない。
自分の身は自分で守らないと。
「解放・紅蓮刀! お願い、私に力を貸して!」
前と同じように数珠がひかり、私の手に一本の刀が現れる。
鞘を握りしめ、刀身を抜き出す。
何度見てきれいな紅い色。この紅い色は何でできているのだろうか。
「準備が整ったようですね」
シュウが私たちのそばまでやってきて、話し始めた。
「シュウ様、ご自身の身はご自分でお願いしますね」
「大丈夫。猫のようにヒラリとかわして見せますよ。二人とも、無事に……」
「朱音様、行きますよ」
「は、はいっ!」
その場にシュウを残し、葵さんの後についていく。
少し離れた所に何か威圧感を感じた。
私達は物陰に隠れ、威圧感のある方をそっとの覗き込む。




