勾玉(まがたま)
葵さんは片手で私の手を握り、もう一つの手で薄華桜を握っている。
葵さんの手は少しひんやりとしており、少しだけ冷たく感じる。
「朱音様、何も心配しないで下さい。こうなることは運命だったのですから……」
葵さんは目を閉じ、ゆっくりと私に顔を近づけてくる。
かなり近くなっても、まだ近づいてくる。
そして鼻と鼻がくっつきそうになり、我に返った。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 顔、近いですよ!」
慌て葵さんから顔を遠ざけてしまった。
「恥ずかしのですか? でも、これは大切な儀式なのですよ……」
葵さんの目が怖い。
「シュウ! 契約って何なの! どうすれば契約になるの!」
私と葵さんのちょうど間にシュウは座り込んでおり、こちらをずっと見ている。
「その体制のまま、朱音様が葵様を受け入れれば契約はすぐに終わりますよ。別に口ではなく、手の甲でもいいのですが……」
葵さんの冷たい目がシュウに向けられた。
「……手の甲でも?」
「はい。体の一部に葵様の口が触れればどこでも」
「そうですね、手の甲でも問題はありませんが……」
なんだか葵さんは不服そうな表情をしている。
ふと相原さんの方に視線を送ると私達ではなく、どこか別な方を見ている。
そして、なぜか少し頬が赤くなっているような気が……。
「葵さん、契約が終わるとどうなるのですか?」
「薄華桜が朱音様の数珠に封印されます。そして、私も鬼を浄化できるようになるだけですよ」
「本当にそれだけ? ほかには?」
「他には特に。これといって何も変わりませんが?」
それだけだったらいいかな?
「じゃ、じゃぁ手の甲でお願いします」
「では、失礼しますね」
ゆっくりと葵さんの唇が私の手の甲に触れそうになる。
「篠宮葵の魂は朱音様と共に……」
私の手の甲にやわらかい葵さんの唇が触れた。
その瞬間、葵さんの手に持っていた薄華桜が淡く光り、そして消えてしまった。
「終わったようですね」
葵さんはゆっくりと私の手から唇を離し、顔を上げる。
そしてその表情はとても穏やかで、優しい顔つきになっていた。
「これで、終わり?」
「はい。無事に契約は終わりました。数珠を見るとわかりますよ」
葵さんに言われ、手首の数珠を見てみる。
一つ、淡い水色のような色に光っている数珠があった。
覗いて見ると小さな薙刀が中に入っている。
「あっ、これってもしかして……」
「はい。薄華桜が朱音様の手に。そして、私にはこちらが――」
葵さんの手には勾玉みたいなものが握られていた。
私の持っている数珠の一粒よりも少し大きめのサイズで淡い水色をしている。
葵さんはそのまま手に持った勾玉に紐を通し、首にかけた。
「これで、私も朱音様と共に浄化できますね」
笑顔で答える葵さん。
本当に契約をしてもよかったのだろうか。
私はこの先、戦っていく事ができるのだろうか……。




