薄華桜(うすはなざくら)
「それはどういうことですか?」
「朱音様は選ばれた適性者。私は適性者の方と共に浄化する事はできます」
「共に浄化?」
葵さんは手に持っていた龍鏡を元の場所に戻し、再び私の目の前までやってきて手を握られた。
「代々私たち一族は、適性者の方と共に生きて来ました。そして、私が今代の受け継ぐ者、朱音様と共に浄化する者です」
「えっと、私と一緒に邪気を浄化するということですか?」
「簡単に言うと、そうなりますね」
結局私も戦わないといけないのか。
そこは変わらないんですね。
「私も戦えるように父より訓練は受けております」
「訓練?」
「はい。私の腕がご心配であれば、少しお見せしましょうか?」
葵さんは少し自信がありそうな雰囲気で、部屋の中にあった一本の薙刀を手に取る。
そして、両手で持ち、払ったり突いたり、その腕前を見せてもらった。
巫女の服装で、あんな長い薙刀を振り回すなんて……。
まるで舞を見ているような、そんな演武だった。
「いかがですか? まだ実践はしたことがありませんが、遅れはとらないと思います」
確かに、私よりもきっと強いと思う。
刀よりもリーチはあるし、私よりも経験が長い。
「そうですね。私よりもずっとうまいと思います」
「ありがとうございます。では、さっそくなのですが、契約をしましょう」
契約? 初めて聞く言葉だ。
「あの、契約って何ですか?」
「……シュウ様?」
シュウはさっきから床でゴロゴロ転がっている。
一言も話していないし、こっちの話にも混ざってこない。
「にゃーん」
そんなシュウを見た相原さんも話に割ってこないで、ずっと聞いてくれている。
シュウはそのまま相原さんに抱っこされてしまった。
葵さんは肩で大きなため息をついている。
もしかして、シュウは結構いい加減な性格なのだろうか。
「このままでは私は鬼と戦えませんし、邪気も浄化できません。朱音様と契約し、この『薄華桜』をその数珠へ」
葵さんは手に持った薙刀を私に差し出してきた。
どうしよう、契約とか数珠にとかいろいろ言われているけどわからない……。
助けを求め、シュウに視線を送る。
シュウも私の視線に気が付き、こっちを見てくれた。
ありがとう、シュウもなんだかんだ言って優しいじゃない。
「なーん」
相原さんの腕の中で猫の鳴き声で返事をされた。
「シュウ? そろそろ話してもいいのよ?」
相原さんの腕の中にいるシュウを猫つかみし、無理やり目の前に座らせる。
「朱音様、もう少し優しく……」
「ごめんね、でもね。私もわからない事だらけなの。少し助けてくれてもいいんだよ?」
満面の笑顔でシュウに微笑む。
「わ、わかりました。葵様も朱音様も契約して問題ないですね?」
「ごめん。契約ってするとどうなるの? 私は何もわからないよ?」
葵さんが私の手を握り、そばまでやってくる。
「心配しないで下さい。私は朱音様と共にいます。さぁ、シュウ様、契約の儀を」
「ふぅ……。説明するよりも実際に契約した方が早いかな。契約の儀を進めるよ」
私の希望した説明はカットされ、半ば強制で契約の儀が進められることになってしまった。
さっきからずっとこっちを見ている相原さん。
心配そうな目で私を見ている。
大丈夫、きっと大丈夫……。
だよね?




