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08 座敷わらしと現地人

 三時間は歩いていただろうか、日が傾き始めたころ、やっと荒野の中に道らしいものを発見した。


 車輪の跡があるから間違いないと十也が言うのでそうなのだろう。この跡に沿って歩いていけばいずれはどこかにたどり着けそうだ。


「ねえ、本当にここってどこなんだろう。お楽が言ってるように、万が一ゲームの中だったとしても危険なところじゃないといいけど」

「危なくないゲームってあったか? たいていが剣と魔法の世界だ。魔物が存在して、時には戦争もしているよな。それに帰還方法を考えるなら主人公である英雄とかに接触してついていく必要があるかもしれないぞ」

「それはあくまでもお楽の憶測だよね」

「そうだが……まあ、異世界なら私はもともと望んで来たんだ。人間のいる場所まで行ければ、この世界で今まで通り座敷わらしとして暮らしていくから、元の世界に戻れなくてもかまわないんだが」


 そう言うと十也がつらそうな顔をしてから私を睨みつけた。

 そこに人間がいれば、とりあえずなんとかなる私たち妖精とは違って、十也は生きていかなければならない。突然知らない世界で暮らすとしたら簡単なことではないだろう。それは私もわかっているつもりだ。


「心配するな。十也が家に戻るまでは、面倒は見るつもりだからな。もし魔法が使える世界だったら十也も転移魔法とかで帰れるかもしれないだろ」

「我も手伝います。童と違って(にゃに)もできにゃいからお役にたつかわかりませんけど」


 私は人間と話す機会がほとんどなかったので空気を読む作業は得意ではない。


 思ったことはそのまま口にしてしまうが、十也は傷つきやすいみたいだから気をつけた方がいいようだ。

 もともと十也のことは結構気に入っていた。なにせ幸運を溜めることができる子どもだから嫌いなわけがない。


 十也はなんとしても元の世界に戻さねばと思っている。


 それまでの安全確保のお守りとして、十也にたくさん幸運を授けなければ。人間のいる場所までいったら、せっせと集めるぞ。




 ずっと道と思われる轍の跡に沿って歩き続けていたが、今までと同じ風景が続くばかりで結局何も見つからなかった。


 日が暮れて暗くなってきたので、歩き回るのも危険だ。明日に備えて早めに休むことにした。


 体感で感じる時間の流れも元の世界と同じ。太陽が一つあって、昼と夜がある世界だ。

 小説やゲームのほとんどがそんな世界だったが、話の中にはかなり特殊な場合もある。

 普通の世界で良かった。


 あとは獣などに襲われないことを祈るばかりだ。


「私は活気のある異世界を希望していたんだが、何故こんな荒野のど真ん中にいるんだか」

「こんなところで野宿とか最悪なんだけど」

「本当に(にゃに)もありませんもんねぇ」


 そう言えば何百年も存在してきてこれだけ開けた場所にいたことは未だかつてなかった。

 引きこもりをしていた座敷わらしとしてはとても落ち着かないが、それを言ったとして解決策があるわけでもないので大人しく我慢していた。


 何か考えていないと、周りが気になって仕方がないので、十也の部屋から転移して来てからの自分の変化を考察してみることにした。


 霊力が強くなっているのか服装を変幻することは自在にできた。だったら念動力もあるかもしれないと目に入った小石に向かって「動け~、動け~」と思念を送ってみる。


 小石は微動だにせず、宙に浮くどころか転がる様子もない。うーん、だめらしい。

 妖精や妖の力が絶大だった時代でもそんなことができる座敷わらしはごく一部だったからな。


 私には無理なのだろう。




 太陽が完全に沈んで、あたりが暗闇に包まれ始めたころネコが何かに気がついた。 


「あそこに(にゃに)かありますよ」


 ネコは猫なので暗闇でも目が効く。私たちより夜に強い。ネコが言う方向へ移動してみることにした。


「本当だ。あれ、焚火っぽい。人がいるんじゃないのかな」

「そうだな。とりあえず近づいてみるか」


 近づくにつれ、と言ってもやっと目をこらして見えるくらいだが、それでも本当に火を焚いていることが分かった。


 チロチロと燃える炎の光と人影がネコの目でははっきりと見えているらしい。人間がいることは確かなので、私が妖精体になって危険がないか様子を探ることにした。


「お楽が消えた!?」


 私の姿が見えなくなって驚く十也。妖精体だとこの世界でも十也には認識できないようだ。


「姿が見えないだけだ。ちょっと行ってくる」

「いってらっしゃーい」


 妖精同士なので妖精体でも姿が見える猫に見送られながら、私は焚火の方向へと歩いていった。


 本当にいた。


 見つけた人間へ近づいてみる。視界に入るほどそばまで行ってもまったく反応はなかった。


 十也と同じくこの世界の人間にも座敷わらしの妖精体は見えていないようだ。


 三十歳前後の男がふたり。


 白っぽいシャツとズボンに装飾のついた鈍色の鎧、銀色の金属の籠手を身に着けた優男。


 それと、綺麗な刺繍が入っている革鎧を着た大柄の男。こちらの男は私の装備に似ている。


 ふたりとも鞘に入ったロングソードを傍らに置いていた。


 ぼんやりした月明かりの中、焚火で何かを焼いているふたりの姿が炎に照らされている。それほど明るいわけではないので、はっきりとはわからないが、たぶん髪の色が桃色と浅葱色だ。


 コスプレ以外でこんな恰好をしている人間は私が知らないだけでなく、たぶん実際にいないと思う。


 鞘に入っているから中身は確認できないが、あのロングソードが模造品だったとしても殺傷能力があると見なされれば日本では銃刀法違反になる。


 しかもキャンプ場でもないこんな場所で直火でバーベキューをしている。ここは間違いなく日本ではないはずだ。


 会話を聞いてみると、二人は小説に出てくるような冒険者で、センターと言うところから依頼を受けているようだ。オークの討伐がどうとかそんな話をしていた。


 ふたりに接触したことで、多少不運が溜まったが人間の半分はそんなものだ。この二人が特別と言うこともないだろう。  


 これなら声を掛けても大丈夫か。


 少し離れていた十也たちのところにもどり、私はいま見聞きしたことを伝えることにした。


「あっ、お帰り。それでどうだった?」


 妖精体から実体化し、姿を現した私に驚きながらも十也が早速聞いてきた。


「髪の色が桃色と浅葱色で明らかに日本人ではないのに会話は日本語でしていたぞ」

「日本語……」

「仕事の依頼を受けてこれからオークの討伐にいくそうだ。小説で言う冒険者ギルドだと思うがセンターというところがあるらしいな」

「オークの討伐?」

「ああ、小説とかに出てくる魔物のことだろう。やはり元の世界とは違う世界だ。二人とも嫌な雰囲気ではなかったから話を聞くことは出来そうだぞ」

「この場所で初めて遭遇した人たちだから僕も会ってみたい」


 十也も乗り気だ。食事を分けてもらうのは無理だとしてもせめて人の住む場所は聞きたい。せっかく現地人と出会えたのだし、これを逃したら次はいつになるかわからないからな。


 ネコはこの世界で猫がどういう存在なのかわからないので、念のため暗闇に身を隠しておく。


 実体化した私と十也は相手から認識できる程度の、少し離れた場所から声をかけて様子をみることにした。


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