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62 十也と大蛇

 叫んだ十也の左足には十也の太ももと同じ太さの大蛇が巻き付いていた。


 今いる場所は湿地帯の水のついている場所で、ところどころに背の低い草が茂っていて、ラトレルさんも大蛇が潜んでいたことには全く気がつかなかったようだ。


 この光の角度によって色が変わる大蛇は毒蛇ではないそうだが全身に巻き付かれてしまえば命の保証はない。


 大蛇は見る見るうちに十也の腰まで這い上がり身体を締め付け始めた。


 ラトレルさんが大蛇の身体を引っ張り引きはがそうと頑張ったが締め付けが強くなるだけで十也から離すことがなかなかできない。


 ウォーハンマーを使おうにも十也の足を傷つける恐れがあるため、私もどうしたらいいのかわからなかったが、上半身まで巻き付かせないためと、十也が噛みつかれないように大蛇の頭を両手で掴んでいる。


 十也ももがきながら大蛇が上がってこないよう両手で蛇の胴体を押さえていた。


 大蛇は全長五メートルほどで頭の方から三分の一が十也の下半身に巻き付き上半身へ向かって這い上がろうとしている。


 ラトレルさんは引きはがすことを一度やめて巻き付いていない胴体の部分を槍で地面に串刺しにした。


 それだけでは大蛇の動きは止まらず、十也に巻き付いている部分は今もなお身体を締め付けている。


「うぅ——」


 十也が痛みに耐えられず呻き始めた。もう声を出す事さえつらそうだ。


 このままでは十也が絞殺されてしまうかもしれない。


「十也、今掴んでいる蛇の胴体に蟻で試した魔法を送れ。できそうか?」


 十也は歯を食いしばりながら一度首を縦にふった。


「いくぞ」


 一か八か、私が十也に不運を送り、十也が受けとった不運を掴んでいる手からダイレクトに大蛇へ送り込んだ。


 状況に変わった様子はなく失敗かと思った。


「十也、魔法の出口は指先からではなく掌の広い範囲でイメージしてみてくれ」


 私の言葉の通り十也がイメージしたからか、十也の掌から不運が大量に大蛇に送られ、大蛇の状態が劇的に変化する。


 槍で地面に縫い付けられている場所より先の尻尾の部分がビタン、ビタンと大きくうねり始め、頭の方も十也の腰から離れ大きくのけ反ったかと思うと左右に大きく揺れて暴れ始めた。


 苦しんでいるのか頭を大きく振るのでその度に十也も絞め付けれられて悲鳴をあげている。


 大蛇が暴れだした時に私は手を離してしまったので、もう一度頭を押さえつけようと大蛇に手を近づけた。


 抵抗がすごかったので、それならばと胸から右腕にかけてチンパンジーに変幻させ、首の部分をしっかり掴み、大蛇が身動き出来ないように手に力を入れる。


 しばらくは暴れていたが次第に動きが小さくなり息絶えたのか、手を離すと十也の身体に巻き付いている部分から力なく垂れ下がった。


 十也も力が抜けそのままうしろへ倒れこんでしまったが間近にいたラトレルさんが受け止めたおかげで水の中へ転ぶことは避けられた。


 すぐに大蛇を十也の身体から引き離し、腰を下ろせる場所をみつけてから十也を休ませる。


 絞め付けられていた左足や腰の状態を確認したが、うっ血して皮膚が紫色になっている部分が何ヶ所かあっただけで、あれだけ強く絞め付けられていたというのに奇跡的に骨折することはなかったようだ。


 先に十也をラトレルさんがここまで連れてきてから、そのあと私とラトレルさんとで大蛇の頭と尻尾を持って運んで来た。


 十也が一人でも歩けそうなので、相談してここからは沼蟹を全て私の背負い袋に入れ、大蛇はラトレルさんが肩に掛けて運ぶことにした。


 かなりの重量があるはずだがCランクの冒険者って本当にすごいんだな。


「俺が一緒にいながら危険な目に合わせて本当にごめんな。この辺にここまでの大蛇がいるなんて思いもしなくて、もっと慎重に進んでいればトーヤが痛い思いをしなくてすんだのに」


「ラトレルさんのせいじゃないですよ。僕が完全に巻き付かれる前に気がつけばよかったんだから」

「こんなのがいて、子供連れなんかは大丈夫なのか」


「ああ、もしかしたらセンターの判断で湿地帯は冒険者以外立ち入り禁止になるかもしれないな。この辺の蛇はせいぜいこれの四分の一ほどなんだよ。毒蛇でもないし問題になるようなサイズなんていなかったんだけどな」


「運が悪かっただけですよ。でも僕にはラトレルさんとお楽がいたから、他の人が犠牲になるよりは僕で良かったのかもしれない……」


「トーヤー」

「わわわ」


 ラトレルさんが十也に詰め寄ったため、驚いた十也うしろへ足を引き転びそうになった。私が支えたので大丈夫だったが。


「ラトレルさん、十也が怖がっているからやめてあげてくれ」


 ラトレルさんは大蛇を担いでいて、ラトレルさんが十也に近づけば大蛇との距離も近くなる。

 さっきまで絞め付けられていたんだから恐いのは当たり前だ。


「ごめん。トーヤがあまりにもいい子だから感極まって」

「僕は大丈夫ですよ。でも蛇を見るとまだちょっと……」


「そうだよな。俺はあまり近づかないようにするから。オラク、トーヤのこと頼むな」

「ああ、二人ともこんなところに立ち止まっていても仕方ないんだ。さっさと帰るぞ」


 来るときに通り過ぎた橋の付近には休憩所もあるらしい。


 木の棒を杖にして左足を引きずっている十也と大蛇を担いでいるラトレルさんの歩みはかなり遅かった。


 暗くなる前には何とか橋までたどりつけるといいのだが。


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