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41 座敷わらしと狼の群れ

「ラトレルさんの報酬がないな」

「大口叩いちゃいましたからねぇ」

「なんか嬉しそうだな」

「いえいえ、滅相もございません」


 そんな話をしながら歩いていると、うしろからものすごく強い衝撃を受けて前方へ転倒してしまった。


 うつ伏せになった私を何かが上から抑え込んでいる。


 危険を察知してすぐさま妖精体に変幻したが、一瞬何が起こったのかわからなかった。


「なんだ!?」

「童、狼にかこまれてます! うわーやめてー」


 何かが近づいてくる気配は微塵も感じなかった。たぶん後ろから飛び掛かられたのだと思うが、攻撃されて気がついた時には狼にのしかかられ、群れに囲まれていた。


 私が突然消えたことと、ネコに全く攻撃が通らないことに狼達は疑念を抱いているのか動きがとまっている。ネコはその隙に近くの樹木へ登って避難したようだ。


 青みがかった灰色の毛並みの狼は大型犬ほどの大きさで私の場所から見えるだけで六頭はいる。待ちに待った獲物だがこの数をウォーハンマーで仕留めるのは大変だ。


 まずは実体化して暴れてみるか。


 ウォーハンマーが落ちている場所で実体化しながら拾いつつ、ベースは人間で肩から腕にかけてだけゴリラに変幻した。狼は突然現れた私に驚いているようだが退くことはないようなので一番近くにいる狼に向けてウォーハンマーを振り下ろす。


 ところが狼がその攻撃をさっとかわしたためウォーハンマーが地面に突き刺さってしまった。

 そしてまた後ろから飛び掛かられ地面にすっ転ぶ。実体化していると狼から攻撃されてしまうので再び妖精化で姿を消す。


「ううー、二度までも。狼ども許すまじ」


 そう思っていても狼は動きが俊敏で武器を持っての応戦は難しい。何とか一矢報いたいのだがここで猛獣の牙を使ったら武器に慣れるための練習にならない。


 身体を呈して一頭づつ着実にやるか。


 今度は全身ゴリラのまま実体化し、ウォーハンマーを地面から引き抜いて握りしめた。狼の群れは突如ゴリラが現れたことに驚き、私の側にいた狼が距離をとった。


「さあ、来るがいい——」


 私はゴリラの両手を広げて狼を誘い、その時を待つ。


 訝しげにしていた狼がリーダーと思われる一頭の合図で、一斉に私に飛び掛かってきた。


 一頭が後ろから覆いかぶさるように右肩に噛みつき、前から一頭が首に噛みつき、二頭が左右から私の足を引っ張るようにしながら強く噛んでいる。


 狼の連携プレーで全身噛みつかれている状況の中、私は前方で首に噛みついていた狼に向かって右手で持ったウォーハンマーを思い切り叩きつけた。


「ギャイン!!」

「まず一頭!」


 自分たちが優勢なこの状況で反撃があるとは思わなかったのか、油断していた一頭は仕留めることが出来た。


 二頭めを狙おうとしたが、狼の動きはことのほか早く、一頭殺られたことですぐさま攻撃をやめ、一斉に逃げだす。山へ逃げ込んだ狼はまた全く気配がわからなくなり追うことはできなかった。


「狼、恐すぎます。もういにゃいですよね?」


 私は人間に戻り、ネコはキョロキョロしながら木から降りてきた。


「群れはだめだ。もし猛獣の牙をつかって戦ったとしても一頭仕留めたところで同じように逃げられるのがおちだ」

「我は思うんですが、今の戦い方もダメにゃんじゃにゃいですか」


「なぜだ、人間の武器を使ったぞ?」

「だって、ゴリラでしたもん。ラトレルさんにおかしくにゃいか見てもらうんですよね。ゴリラ見てもらうんですかぁ」


 確かに、人間が見たら魔物同士が戦っているように見えるだろう。そしてまた未確認魔物として大騒ぎになる未来が私にも見える。ダメだな。




 とりあえず狼を一匹捕獲できたので十也達と合流することにした。二人は魔猪(マイノ)の縄張りにはすでにいなかった。


「あ?」


 ネコが突然声を上げる。


「ここまで来て、とっても言いにくいのですが……」


「なんだ?」

「童、ウエストポーチ持ってませんよね?」

「あ? ああー! 落としてきた……」


 私はがっくりと膝をつく。ウエストポーチの中には冒険者カードが入っているのだ。

 取りに行かないという選択枠はない。


 一度、狼とやり合った場所まで戻り、ウエストポーチを探す。すぐに見つかったので今度こそ帰るぞっ、と歩き始めると、髪を縛っていた黄色い組紐も近くに落ちていることに気がつく。


 山を下り荷車の場所までネコに案内してもらったが、狼を背負っている私にとって山道は結構大変で何度も転びそうになった。

 本当なら必要もなかった往復を無駄にしている。ちょっと狼がトラウマになりそうだ。




 無事二人と合流したころにはすでに夕焼けに暗い空が覆いかぶさり始めいた。

 夜道は危険なのですぐに町へ帰ることにする。


 荷車に魔猪一頭と影狼(カゲロウ)という狼を一頭、魔鳩(マバト)を二羽載せ、前をラトレルさんが引き、後ろから私と十也が押して行くことにした。魔猪の見た目は日本の猪とそっくりだ。こちらの方がサイズは少し大きいようだが。


「魔鳩は僕がスリングショットで捕まえたんだ。魔猪は右目が潰れているでしょ。それも僕が当てたんだよ。魔猪狩りはそれしか役に立ってないけどね」

「トーヤが援護してくれたおかげでいつもより楽に倒せたよ」


 運を使わず命中したなら、十也には本当に飛び道具の才能があるんだな。


「そうか、良かったな。こっちは散々だった。狼はこりごりだ」

「影狼相手に怪我がなくてよかったよ。いつの間にか囲まれて攻撃されるから恐いんだ。Dランクの時に組んでいたパーティで遭遇して仲間が大怪我したんだよな。俺も狼の群れは苦手だよ」

「我も、我もー」


 ネコもラトレルさんには聞こえない小さな声で賛同していた。


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