39 座敷わらし、貴族と間違えられる
「あれエルシーちゃんじゃない?」
「そうだな」
静水館に戻る途中、大通りでエルシーを見かけた。仕事が終わって帰るところらしいが、孤児院とは違う方向へ歩いている。
エルシーの銀髪は光が当たるとキラキラしているので割と目を引く。容姿も整っていて美少女の部類だからか、まだそれほど付き合いがない十也でも人ごみの中から見つけることができた。
「ごめん。エルシーを送っていくから、先帰っていて」
ラトレルさんが慌ててエルシーを追いかけて行ってしまった。
「どうしたんだろう」
「ラトレルさんがついていれば大丈夫ではないか」
「そうだね」
静水館にもどってから今日購入した品物の確認をしている最中に、十也が私のウォーハンマーを小さく試し振りしながら「こんなので攻撃なんて、僕には怖くてできないよ」そんなことを言う。
魔物に近すぎて怖い。これで直接何かを襲うことが怖い。二つの意味があるそうだ。その点私は自分で思ったよりも適応力が高かった。
オークに噛みついた時は嫌悪感があったはずなのに、魔鹿に対しての攻撃は躊躇なくできるようになっていた。
私、座敷わらしのイメージからだんだん遠くなってきてるんじゃないのか? いったいどこに向かっているのだ?
そんなことを考えているうちに鐘の音が六回。いつの間にか夕飯の時間になっていた。
外との気温差もないので、ネコが部屋へ入れるように窓を開けてから、十也と一階の食堂に向かう。
「おまちどうさま」
今日の夕飯はマイノの香草焼きだ。
「お肉、柔らかいね。猪ってもっと硬いのかと思ったよ。獣臭さもないし、すごく美味しい」
日本から来た十也が褒めるくらいだ、この宿の食事は本当に上手いのだろう。私もとても満足している。
静水館はベルナさんと父親の二人で経営していて、エルシーのような通いの従業員が数名いる。ベルナさんは受付と食堂の給仕をしているので毎日顔を合わすが、料理をしている父親の方は厨房から出てこないのでまだ会ったことがない。
食事を終えて部屋に戻るとネコが帰っていた。
酒が入ると人間は口が軽くなるようで、ネコは酒場にこっそり入って物陰で話を聞いているそうだ。
「童たちは貴族だと思われて、避けられてます」
「え、なんで? ジャージのせいかな」
「にゃんでもセンターで担当がつくのはBランク以上の冒険者か貴族だけだそうです。それに村や町の子供たちは、ほとんどが農園で働いているらしいんです。お二人の手がきれいすぎるとか、お楽の防具が高価そうだとか言ってましたよ。あと文字が読めるでしょ。それと言葉遣いですね。子供にゃのに童が横柄で、トウヤさんが丁寧だから」
ネコが持って来た情報だが、この町には南側に広大な畑が広がっており、それに従事している人間が多いらしい。子供たちも仕事が手伝える年齢になれば働くのが当たり前の世界で、それはどこの村や町も同じだ。
私たちのように他所からやって来て、子供だけで冒険者登録する様な者は、自分の故郷から飛び出してきたような無謀な子どもが多い。
そしてその中には事情を抱えている貴族の令息もいるらしく、どうやらそれと間違われているそうだ。
実はセンターで担当についた眼鏡はこの町を治めてる領主の一族の者らしい。ヴィアムス家は公爵家でその名前を出せば大抵の貴族は歯向かうことはしない。だからあえて一番最初に牽制の意味で挨拶に来たようだ。
お遊びで冒険者をやっている横柄な貴族に対して、いざとなったら権力で押さえつけることができる人材ってことだな。私たちはどこかの貴族の子どもだと思われ、問題が起きないように監視されいているらしい。
もし平民が貴族に関わった場合、追われている貴族なら匿ったとして罰せられ、放蕩息子のお遊びの場合、不敬だと咎められたらどうなるかわからない。だからなるべく関わらないようにしているそうだ。
髭もじゃがラトレルさんに言った“いざとなったら手を引けよ”は追われている貴族だったら見捨てろってことだったのかもしれない。
平民が貴族と敵対していいことなんか何もないだろうしな。桃髪はそれで私たちから逃げたんだ。
「そう思われていて何か問題あるのかな。避けられてるってことは絡まれたりもしないってことだよね」
「そうだな、一番最初はそれで助かったんだ。聞かれたわけでもないのにがわざわざこちらから否定することもないだろう」
ネコの話を聞いていて思いついたことがある。
センターに初めて行った時に冒険者を見てからずっと我慢してたけど、すでに目立っていると言うなら、私の装備変えてもいいよな?
せめて奉納してもらった大銀貨一枚分は、ちょっと豪華にしても構わないよな?
胸当ての革鎧に金糸で刺繍を入れて、矢車菊の花をモチーフにした銀細工のアームガードと同じ模様の細工がついた太めのベルト、その花の部分にはクリスタルをはめ込んだ。そんな出で立ちを十也に見せてみる。
「それ大銀貨一枚じゃ絶対足りないから。それに下手に装備変えるとロディウムさんたちに絶対突っ込まれるよ」
十也に即座に却下された。
項垂れていると「細いベルトくらいなら大丈夫かもね」と許可がでたので、装飾を一つだけ増やすことができた。
「童、派手好きですもんねぇ」
今晩は十也が寝入ったのを確認して、早速ネコに不寝番を頼み私は久しぶりに休眠状態に入ることにした。人が睡眠をとっているのと同じ状態なので何かあれば休眠状態は解けるから大丈夫だ。
そして翌朝、またしても十也に怒られることになる。
「今回のことは不可抗力だったし、ネコちゃんから説明してもらったからいいけど、心配になるから何かする時は先に言っておいてよ」
休眠状態のときは妖精体になっているらしく私の姿が消えていたらしい。朝になって私がいないことに十也が気づき、ネコがベットに寝ていることを告げると、大急ぎで私を起こそうとした。
私が目を覚ました時も妖精体のままだったので十也は顔面蒼白になっていたが、実体化したとたん説教されてしまった。
休眠状態だから当たり前だが、霊力が最小になっているんだな。初めて知った。
「自分のことなのに……お楽って結構抜けてるよね」
「いやいや、本当にここまで人間と密に接触することなんて稀だからな。初めてやることはわからなくてもしかたないだろ」
「じゃあ、お楽とここまで仲良くなったのって僕が初めてってこと?」
「――いや、――昔はあった……」
「ふーん。まあいいや。えっと、今日は山まで行くんだよね。しっかり食べておかなくちゃ」
昔、若君と呼ばれる子どもと遊んだ時のことを思い出した。あのことはあまり思い出したくない。私の雰囲気でそれが分かったのか十也が話を変えたので、記憶の奥へ押し込んだ。




