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31 座敷わらしと魔鹿

残酷な場面があります。お気をつけください。

 しばらくして十也の様子がおかしいことに気がついた。


 息づかいが荒く、毛布をめくってみると身体が熱を帯び、意識がなかった。さすがの私でもこれは異常事態だとわかる。どうしたらいいかわからず宿屋の受付の男子に聞いてみた。


「何が原因かわからないなら治療院に行くのが一番いいけど大銀貨一枚はしますよ」


 そう言われ困ってしまった。この世界に来て未知な病気にかかったのかもしれない。ラトレルさんに頼りたいが私は宿屋の名前を覚えていなかった。あの時ちゃんと聞いておくべきだったのだ。




 焦った私は「とにかく治療費を稼がなくては」と何も考えずに魔物がいるというテンゴウ山に向かって走り出していた。


 東門を通る時、門番に止められる前に走り抜けたため、後方から戻れと大声で叫ばれた。

 それでも無視して走り続けたのでうしろで大騒ぎになっていたが構っていられない。


 街道を人の足で走るよりは動物の方が早い。私は人間の姿で走っていたものを暗闇に紛れて妖精体に切り替え、ダチョウへと変幻しひたすら東の山を目指した。




 テンゴウ山だと思われる場所に到着してから、ひたすら魔物を探して彷徨っていると、幸運なことに一頭の鹿に遭遇。体高が二メートルを優に超えるヘラジカに似た大物だ。


 治療費を稼ぐために捕獲したい。その一心で、私はダチョウの状態で突進してしまった。実体化していないので、鹿に気づかれることもなく自分だけがぼよーんと鹿の身体に当たって弾き飛ばされる。私も妖精体だと見えない気体のようなものだが体積が大きいため、ネコのように上手くすり抜けることは難しい。


 この鹿を捕らえるためにユタラプトルまでとは言わないが肉食獣に変幻したい。だからと言って霊力を使いすぎるものは実体化している時間がほとんどなく、妖精体にもどってしまえば何も出来なくなってしまう。そのまま町へ帰ることになればここまで来た意味がない。


 悩んだ結果、まず妖精体の状態で身体をブチハイエナに変幻した。攻撃する瞬間だけ実体化、そして妖精体と変幻を繰り返し霊力の消耗を抑えて戦ってみようと思う。


 まず鹿の脚を狙い妖精体で近づいた。噛みつく瞬間に実体化してブチハイエナの強力な顎で傷つける。狙いは鹿のうしろ脚、その右足首だ。作戦通り狙った場所を噛み砕き、傷は骨まで至ったと思う。


 鹿は痛さと威嚇で草食動物とは思えないほどの雄叫びをあげた。

 その後、右後ろ脚をかばいながらその場でグルグルとまわり始める。突然、訳のわからない攻撃で傷ついたのだ。周りを警戒するなと言う方が無理だろう。


 私の姿は一瞬しか見えなかったと思う。鹿にしてみれば襲撃者が見当たらず何が起こっているのかわからないはず。イライラしているようで先ほどから鼻息がとても荒い。傷ついているのに逃げないのはこの魔物が私の知っている草食の鹿とは別物だからだろうか。


 一度攻撃してからというもの、この鹿には隙がない。そのせいでかなりの時間を無駄に費やしてしまった。それでも焦ったところでどうにかなるわけでもないので、鹿の動きが止まるのをじっと待つ。敵が見つからなかったからか、しばらくすると鹿の集中力が途絶えた。


 その瞬間、私は先ほどと同じように右前脚にも噛みついた。それで鹿の動きが鈍くなったので、それからは蹴られようが、威嚇されようがまったく気にせず、逃げられないように、立て続けに足を狙う。


 そうしているうちに鹿が痛みでバランスを崩した。四本の脚には相当な噛み傷がついている。もう立っているのもやっとの状態ではないだろうか。今度は鹿の脚に向かって思いっきり横から体当たりした。衝撃を受け、その場で鹿の巨体が大きな音をたてて崩れ落ちる。


 鹿は地面に横たわったままで起き上がることができないでいた。あの傷だらけの脚で立ち上がることが難しいのだろう。


 私の次の狙いは喉笛だ。そこへ思いっきり食らいつく。鹿に抵抗されて首を振り回されたが、私はそのままずっとブチハイエナの牙を離しはしなかった。


 どのくらい時間がたっただろうか、大きな鹿は、今や虫の息ですでに抵抗する力もなく私の目の前で血まみれで横たわっていた。


 私の霊力もかなり消耗したが、今のところ人間での実体化は可能なようだ。この鹿を冒険者ギルドまで運ばなければいけないことをすっかり忘れていて、どうしたらいいか困っていたところ。


「君はいったい……」


 聞こえてはいけない声が耳に届いた。


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