291 座敷わらしは連行される
「あの、すみません。センターの職員の方ですよね」
「え? わたし?」
私たちはセンターの受付が終了するまで外で待って、夕方、帰宅するために建物から出てきた職員のひとりに声をかけた。
振り返ったこの若い女は、セイラという職員に比較的同情的な様子を見せていたからだ。
それでも大勢で囲んでしまったら警戒されてしまうかもしれない。そのため私とニホ様以外は離れた場所に身を隠している。
「あの、ここにセイラさんが働いていると思うんです。探しても見当たらないので、呼んできてもらえないでしょうか。従妹のニホが来たって言ってもらえばわかると思うので」
「あなたセイラさんの従妹なの?」
「はい」
「そうなのね……でも彼女なら少し前に辞めたからここにはいないわ」
「やめた? でしたら居場所を教えてください」
「居場所っていわれても、たぶんこの町にはもういないんじゃないかしら。センターの寮から出ていってからはどこに行ったかもわからないし」
「そんな――久しぶりに会えると思ったのに」
ニホ様が驚いたそぶりをしたあと、残念そうで切なそうな表情を浮かべた。案外小芝居がうまい。
「あのね、お節介かもしれないけど、彼女、その……ちょっと問題を起こしてやめているの。だからセンターでは名前を出さないほうがいいと思うわ」
「問題って?」
「何があったかは情報漏洩になるから教えられないけど」
「そうですか……ご忠告ありがとうございます」
「私、急いでいるから行くわ」
「お忙しいところを呼び止めてすみません」
その女はセイラのことを話題にしているからか、他の職員に見られたくないようで、周辺を気にしながら足早に歩いていった。
見送ってから、私たちは建物の陰に回って十也たちと合流する。
「もうここにはいないらしい」
「正義感が強くてやめさせられたっていうくらいだから、ボッシュ商会の情報が得られると思ったのにな」
「センターに睨まれたら、この町では働き口がないのも同然ですしね」
「別の町に行くのが当たり前か」
「このサイールの町のセンターは信用ならないので、次の町のセンターから不正の調査依頼書を送るしかなさそうですね」
「そうだな」
ボッシュ商会の盗人たちをそのままにしておくのは腹立たしいが、何も証拠をもっていない私たちが断罪できる方法はない。この件は国の役人に任せるしかないのだろう。
「あいつらは我々の命も狙っていたというのに口惜しいな」
「本当にね」
今頃、別行動している人狼が、盗人たちの拘束を解いて自由にしているころだろう。
「木にぶら下げておいたから、まだ無事だとは思うが、不運を授けているからな……」
あのままにしておいたら、飢えたり魔物に襲われたりする可能性があるので、未必の故意。下手をすると私たちが殺人犯になってしまう。
それは人道的にも、私の黒化にも影響がありそうなので困る。こればかりはどうしようもない。
日が落ちる直前に、私たちが待っていた宿屋へ人狼が戻ってきた。
「盗人どもはどうだった?」
「ボスだけは相変わらずふてぶてしくしていましたから、念のため、みなさんへ手をださないように、目いっぱい脅しておきました。それでも、あの者は権力でなんでもできると思っていそうなので、町に戻ってきたら何か仕掛けてくるかもしれません。明日は朝一番にこの町を出立したほうがいいと思います」
「じゃあ、アーサーを待つのは次の町でってことで。今日は早めに寝たほうがいいよね」
「そうですね。ティナさんたちもそのつもりでお願いします」
「わかった。早く寝て早く起きる」
「寝て起きる」
そんな予定をしていたにもかかわらず、その日の未明。
私たちの部屋のドアがバンバンバンと強く叩かれた。
周辺の監視をしていたネコから、宿にセンターの職員と衛兵がやってきたことを知らされていたので、すでに全員が装備を身に着け一部屋に集まっている。いつでも動ける準備はできていた。
「やっぱり来ちゃったね」
「あやつは愚かというか、頭が悪そうだったからな」
「ああいうタイプは意味の分からない変なプライドがあって、そのため相手が誰であっても平気で噛みついてきますものね」
常に虐げることが当たり前で、自分が一番だと思っている馬鹿は、時として厄介なのだ。逆恨みで暴れまくりいろいろなものを巻き込む。
「それにしても思ったより早かったですね。こんなことなら夜行になっても、夕刻に旅立てばよかった」
「ここから逃げるか?」
「いいえ」
窓を開けようとしていた剣士小僧の手をとめたのは人狼だった。
「こうなってしまったら話をして正当性を主張するほかないと思います。センターがボッシュ商会と癒着していてまともではないとすれば、冒険者の資格をはく奪またはペナルティをつけられる可能性がないともいえませんから」
「それは今後困るのだろうな」
「そんなやつらだったら話をしてもどうにかなるとは思えないんだけど? 大丈夫なのかな?」
「わかりません」
我々にはこんなところで捕まっている暇などないのだが……。
「しかし、君たちのことは私が絶対に守ります」
何かの罪を着せられたとして、どうしようもなくなったら、すべて自分ひとりがかぶると人狼は言う。
そんなことになったらこの世界で生きづらくなってしまうだろう。
そんな枷を負わせるわけにはいかないので、なんとかしなければ。
その後、強制的に踏み込まれる前にドアのカギを開けた。その前までやってきていた職員たちに連行されるという状況で、私たちはセンターへと移動することになってしまった。




