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289 座敷わらしと横取り犯

 針葉樹の密集している場所は落葉しないので地面まで日の光が入らずに薄暗い場所が多い。そのため足元には邪魔になるような草が生えていないから比較的歩きやすい。

 とはいえ、でこぼこしている山の中の道なき悪路を、丸太を担いで移動するのは容易なことではなかった。

 たとえそれが高ランクの冒険者であったとしてもだ。


 だからだろう、荷物を運ぶことで手いっぱいな私たちは格好の獲物として標的にされてしまったらしい。


「横取りしようとする不届きものが本当にいるのだな」


 現在私たちは、木魂魔を狙っているであろう人間たちから魔法攻撃を受けている最中である。


 行く手に潜んで怪しい行動をとっている何物かの存在に人狼と猫姉妹がいち早く気がついたため、足を止めてどうするか相談を始めたのだが、そのことにあちらも気がついて焦ったのか、いきなり水鉄砲を打ち込んできた。


「あぶにゃい」


 一発目はその魔法に向かって飛びついた猫が自分の身体に吸収させて事なきを得た。


 魔法が飛んできた方向は上空からで、冒険者が木に登り、高い場所からの攻撃を仕掛けてきていた。

 その数はたぶん三人。上から見下ろしていて、たまたま木魂魔を運んでいる私たちを見つけたのだろう。


「十也たちは私の後ろに隠れろ」


 私が最前へ立ち、鹿の身体を盾として皆を攻撃から守ったので、続けて飛んできた魔法は私の胴体に当たった。その威力は踏ん張ればなんとか転ばずに済む程度。

 しかし、人間がこれをまともに受ければかなり痛いと思う。足や腕などを狙われたら骨折もあり得るだろう。


「あとは私に任せてください」


 攻撃する魔法が水魔法だけとは限らない。風魔法のように目に見えないものだと厄介なので、ニホ様が前面に水魔法で膜を張ってシールドを展開する。それで飛んできた魔法は消滅するか軌道を変えていた。


「ひどいことをするね」

「人に向かって魔法を使うなんて最低なやつらだな。あっちから攻撃してきたんだから俺たちもやり返していいよな」

「うん。正当防衛だもんね」


 現状何もできない十也と剣士小僧は悔しそうに話している。


「あ、でも攻撃が止まった?」

「本当だ。魔法がきかないから様子見してんのか?」

「いいえ、たぶん指示を出していたリーダー格をイヴァンさんたちが倒したのだと思います」


 木の上の魔法使いたちが、

ある場所に向かって何やら叫んでいるのが見える。


 人狼とティナは、冒険者たちの異様な雰囲気を感じとってからすぐに木魂魔をおろしていて、攻撃が飛んできたのと同時に姿を消して襲撃者のもとへ向かっていたのだ。


「あの人たちも無効化しておきましょう。樫君、彼らの足元の枝を破壊してもらってもいいですか」


 そう言ってから、ニホ様が木の上の魔法使いたちが落ちるであろう場所に水魔法でクッションを作ったので、すぐに十也が言われた通り銃口を向け魔法を放った。

 悲鳴とともに魔法使いたちは木の上から落ちていく。


 しばらくすると、人狼たちがその辺にあったツルでぐるぐる巻きにした冒険者五人を引っ張って戻ってきた。


 年齢はバラバラ。その中で一番人相が悪い三十歳くらいの男だけがすごい形相で睨んでいる。たぶんこいつがリーダー。

 びしょぬれである三人の魔法使いたちは気を失っていて、唯一意識がある軽装の若い男は怯えているのか眉を八の字にして今にも泣き出しそうだ。襲撃に失敗したことで怒り狂っているリーダーのことを恐れているように見える。


 そんな状況でたったひとりいまだに反抗的な男は猿ぐつわをされているのに、何かずっと唸っている。言いたいことがあるようなので、とりあえず話をさせてみることにした。


「俺はビリー・ボッシュだ!」


 誰が見ても悪人らしき面構えで、ギラギラとした目を向けてくる襲撃犯のリーダー。それがなぜかふてぶてしい態度で名前を告げた。


「ビリー・ボッシュ?」

「わかったらさっさとこの拘束を解け。さもないとおまえら全員牢獄行き、いや地獄行きだぞ」

「何を言っているんです。牢獄行きになるのは盗人のあなた方ではありませんか」

「は? もしかして流れ者か? 俺たちに敵対すればサイールのボッシュ大商会を敵に回すことになるぞ」

「サイールの大商会を敵に回したらどうなるのですか」

「権力に逆らったらただじゃすまされねえって言ってんだ。こんなことをして、おまえらここから無事に旅立てると思うなよ」

「なるほど。きっと何をしてももみ消して咎められない家の方なのでしょうね」

「そうだ! わかってるじゃねえか。ほら、早くこれをほどけ」


 この言動から考えて、どうみても常習犯だろう。魔物を自分の手で狩らずに他人からかすめ取る。それが常套手段であったことは間違いない。


 しかし、私たちもこういうことがあることは知っているので、用意してあった魔力印を木魂魔にちゃんと押してある。

 だから奪われてセンターに持ち込まれたとしても、私たちが異議を唱え調べられたら誰に所有権があるかは明白になるはずで、いくらこいつが魔道具の町サイールの大商人の一族であろうと、国が運営しているセンターがルールをやぶることはないと思う。


 それを考えたら、もともとの持ち主が訴えることができないようにしていたということで、すなわち死人に口なし。たぶんそういうことなのだろう。卑怯な上に凶悪すぎる。


「殺人犯をこのままにしておくわけにはいかないですね」


 人狼も私と同じこたえにたどり着いたようだ。


「ちょっと待て。俺たちは人なんて殺してねえ」

「やり口が手慣れていましたから、どう考えても獲物の横取りは今回が初めてではありませんよね。それに地獄行きとか言っていましたし」

「あれはお前らが怖がると思って脅しただけだ」

「だったら他人の魔力印が押されている獲物をどうやって自分のものにしているのですか。もし大商会にセンターが忖度して違反をしているとなれば、高ランク冒険者のひとりとして告発させていただきます」

「ボクもAランク冒険者として黙ってはいられない」


 そうなると、ボッシュ家もただではいられないだろう。


「実際に今までそうとうきな臭いことはやっているのでしょう? 国の役人がやってきて徹底的に調べあげられたら取り潰しになるかもしれませんね」

「ちょっ」


 この悪党は、やっと自分の失敗で、一族までもが罪に問われる可能性があることを悟ったようだ。逃げ出すことが叶わない状況にその目には恐れと困惑が浮かんでいる。


「ち、違う、センターは規則を破ったりしてねえ、俺が、センターに持ち込む前に冒険者を脅して魔力を流させ、押してある魔力印の部分を削り落としていただけだ」


 自分の手口を白状して、すべては自分一人が悪く、ボッシュ家はなんの関係もないと言い出した。ボッシュ家の名前を出して脅しておきながら、今更何を言っているのだか。


 犯罪者として身柄をセンターに引き渡すことはもちろん、たまりにたまった不運をたっぷり授けて、こいつらこそ地獄に行ってもらうことにしよう。


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